クリニックの「税」のあれこれ 第6回 会計・税務のDXとは?
TKC全国会 医業・会計システム研究会 赤松 和弘
「税務行政のDX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉をご存知でしょうか。国税当局ではこのフレーズのもと、申告や納税などにおけるデジタル化を進めていますが、合わせて「事業者のデジタル化」も推進されており、医療機関運営においても他人事ではありません。今回は、会計や税務面におけるデジタル化について解説いたします。
Q 医療機関の会計・税務面でデジタル化を進めるとどんなメリットがあるのでしょうか。
A 日々の記帳から決算、申告・納税に至るまでデジタル化することで、業務が効率化され、経営課題の解決にもつながります。
日々の記帳から納税まで
TKCシステムのフル活用を
少子高齢化を背景として人口が減少し、労働力が不足する一方で、AIをはじめとするIT技術が進歩しています。さまざまな業務においてDXによる業務効率化は必須となっています。すでに医療DXに積極的に取り組み、良質な医療の提供を目指されている院長先生もおられることでしょう。
それでは会計・税務面におけるDXとはどういうものでしょうか。e-Taxやマイナポータル連携による申告・納税のデジタル化だけでは大きなメリットを享受できません。申告・納税手続きにとどまらず、日々の記帳から決算、申告・納税までの経理業務全体をデジタル化し、そのデータを活用し経営課題の解決につなげることが重要です。
TKCシステムをフル活用すれば、医療機関における経理業務のデジタル化、業務効率化とともに、院長先生の黒字経営のためのスピーディーな意思決定をサポートします。
今回は「MX2クラウド」の機能を例に、TKCシステムを通じた経理業務のDXについて紹介します。
1.インプット編
(1) 取引データの手入力が不要に
MX2クラウドに搭載されたFinTechサービスでは、「銀行信販データ受信機能」により、インターネットで複数の金融機関から入出金取引データを自動受信できます。
そのため預金の入出金やクレジットカード決済の利用内容などをいちいち手入力する必要がなくなります。
しかも取引内容は学習され、次回以降同様の取引データを読み込んだ際には学習した仕訳を提示しますから、使えば使うほど正しい仕訳となって、さらに使いやすくなります。
(2) 読み込みでミス防止
銀行取引だけでなく、領収書やレシートの場合でも「証憑保存機能」によるスキャナ読み込みで、一部の補正だけで手入力が不要となります。なお、医薬品の仕入や検査関連の費用についても、証憑保存機能を応用することで、請求書の読み込みと補正でミスなく仕訳を作成できます。加えて、窓口で受け取った現金収入についても、MX2クラウドならば表計算ソフトのCSVデータに入力しておくことでそのままシステムに読み込ませることができます。
(3) 給与計算を省力化
MX2クラウドの場合、「給与計算機能」で給与の仕訳データを簡単に読み込めます。仕訳設計をしておけば、支給金額や通勤手当、源泉所得税などの煩雑な入力の手間がかからず、手計算や転記が原因のミスも回避できます。
(4) 納税までデジタルで完結
「電子納税かんたんキット」で、e-TaxやeLTAXを通じて納税できるため、銀行窓口に行かずともパソコンから納税可能です。源泉所得税や個人住民税などのデータが連携されているため、納付税額を転記する必要もありません。
2.アウトプット編
データをもとに経営改善へ
インプットされたデータから「365日変動損益計算書」が作成され、医業収益のトレンド、変動費、限界利益、固定費が明らかとなり、スピーディーな打ち手検討に役立ちます。また件数、実日数、点数のデータを入れれば、保険別の来院数や診療単位の推移から問題点を発見し、医療機関ならではの経営課題をとらえやすくなります。

さらにマネジメントレポート設計ツールを活用することで、医院独自の計数管理が可能となります。(例:現状ではどれだけの経費を使う余裕があるかの把握、患者1人にかかる広告費の推移など)
TKCシステムをフル活用することで、手入力や手計算によるミスを回避できるようになり、業務効率化につながるとともに、院長先生の意思決定を支援します。
TKCシステムをフル活用することで、手入力や手計算によるミスを回避できるようになり、業務効率化につながるとともに、院長先生の意思決定を支援します。
事業者の業務デジタル化は国税当局も推進
こうした業務のデジタル化については、実は国税当局も推進しようとしています。国税庁が2023年に公表した「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2023-」では、従来の「納税者の利便性向上」と「課税・徴収の効率化・高度化等」に加え、新たに「事業者のデジタル化促進」が盛り込まれました。
国税当局は、税務手続きなどのデジタル化だけではなく、事業者の業務のデジタル化を促すことで、税務を起点として社会全体のDXを推進する、としています。
図表は、国税庁が示している「業務のデジタル化」の概念図です。
e-Taxやマイナポータル連携による申告・納税のデジタル化にとどまらず、受発注・納品・請求や支払・入金といった一般的な業務のシーンにおいてもデジタル化が期待されていることがおわかりいただけるかと思います。
医療機関にとっては、単に申告や納税の手続きをデジタル化するだけでは経営上の意義は薄いものです。しかし起票から申告・納税に至るまでの業務全体をデジタル化することで、最大限のメリットを得られるのです。
TKCシステムの活用でデジタル化に対応し、業務効率化に加え、質の高い計数管理を進めていきましょう。
詳細はTKC医業・会計システム研究会会員の顧問税理士にご相談ください。
次回は「院長先生が確定申告する際の注意点」について解説します。
(TKC医業経営情報2025年1月号より)