病医院訪問・MX活用事例 小児歯科・予防歯科に特化 経営を支える独自のデータ分析
なないろ歯科クリニック
院 長 松原 正和(まつばら・まさかず)
副院長 松原理紗(まつばら・りさ)
愛媛県西条市の「なないろ歯科クリニック」は2022年に新規開院し、独自のデータ分析と徹底したカウンセリングで患者からの信頼を着実に獲得し、成長を続けてきた。開業から1年わずかで飛躍を遂げた要因について松原正和院長・松原理紗副院長に話を伺った。
DATA | なないろ歯科クリニック | |
---|---|---|
所在地 | 愛媛県西条市大町519-6 TEL:0897-53-8020 https://www.nanairo-dentalclinic.com/ | |
診療科目 | 歯科・口腔歯科・小児歯科・歯科口腔外科 | |
診療時間 | 09:00~12:30 月~水、金~土 14:30~18:30 月~水、金 13:30~17:00 土 |
小児歯科では口コミが広がり 予防歯科では丁寧なカウンセリングが話題に
――まずは、開業の経緯について教えてください。
松原正和院長(以下、院長) 開業は2022年です。大学の医員として、医療・研究に10年近く従事していましたが、本当に行いたい医療を見つめ直して開業を決意しました。
現クリニックの近くに父が開業していた「まつばら歯科クリニック」があり、3年間「見習い」として研鑽を積みました。当初は事業承継を考えていたのですが、立地などを考えると、当院の軸となる「予防歯科」「小児歯科」には適さないと判断し、新規開院することとなりました。
――立地はどのような点にこだわりがあったのでしょうか。
院長 クリニックが常に人の目に触れることを意識しました。ここは、大型スーパーの目の前にあるので、買い物にきた方に自然と認識してもらえます。
開業準備の段階では、診療圏調査などはしませんでしたが、自分の足で歩いて下調べを行い、1日の交通量などを把握しました。
今や「歯医者」はコンビニよりも多い時代です。昼夜問わず交通量が多く、看板を立てなくても、認知度を確保できるのは、大きな強みとなります。
――1日あたりの患者数を教えてください。
天井に埋め込まれたテレビが公表な小児ユニット
――クリニックの強みはどのような点だとお考えでしょうか。
副院長 小児歯科・予防歯科に特化したことでしょうか。現在、ユニット台数は7台で、うち3台が小児専用のユニットです。内装もお子さんが親しみを持てるようにしています。
小児歯科を軸にしたことで、「保護者の方のネットワーク」で自然と口コミが広がっていったということも大きいでしょう。また、子どもが多い地域なので、1人のお子さんを診ると、必然的にその兄弟姉妹も来院してくれます。
実際、当院では問診票に記載してもらうかたちで、来院動機などのアンケートを取っていますが、その大半が「建物を見た」「口コミで知った」です。
――予防歯科についてはいかがでしょうか。
院長 初診時に当院が予防歯科を重視していることをしっかりお伝えしています。
当院には専用のカウンセリングルームがあり、これまでどのような治療を行ってきたか、その治療にどのような不満があったか、治療における悩みなどについて、歯科衛生士をはじめとするスタッフが30分~1時間かけて徹底して聴き取ります。
このカウンセリングがあることで、患者さんがイメージする治療と、こちらが提供したい治療をすり合わせることができます。たとえ歯科医がどんなにいい治療をしたとしても、患者さんのイメージと異なってしまっては、意味がありません。
スタッフ全員の技量水準を引き上げる勉強会・講習会を定期開催
――多くの患者さんに対応するためには、スタッフの体制が重要ですね。
院長 現在、歯科医師は私たちを含めて3人、歯科衛生士7人、歯科助手1人、クリーンスタッフ2人、受付1人、事務1人、保育士1人です。また、体制強化のために2月~4月にかけて、3人を採用予定です。
スタッフを多く採用していることで、固定費はかかりますが、ギリギリのスタッフ数では、有給休暇なども取得できず、持続可能な歯科経営はできません。
――保育士を採用しているのは大きな特色ですね。
副院長 予約制で無料の託児所を院内に設け、保護者の方が治療されている間にお子さんをお預かりします。育児に追われて「なかなか歯医者に行けない」方を少しでも減らしたいという思いからです。
――正和院長・理紗副院長はどのような役割分担をされているのでしょうか。
院長 現在、成人の担当は私が、小児の担当は妻と、役割分担しています。以前のクリニックはご高齢の方も多く、とにかく機能重視の治療を行っていましたが、当院はお子さんの虫歯治療で一緒に来院される保護者の方など、比較的若い方が多く、見た目の美しさにこだわって日々の治療に取り組んでいます。
副院長 小児歯科はお子さん本人と親御さんどちらもアプローチが必要で、お子さんには、「歯医者を大好きになってもらい、また来たい」と思ってもらうこと、親御さんには「説明の丁寧さ」を意識しています。実際に親御さんに「これまでの治療」を尋ねても、お子さんがどのような治療を受けたか把握されていないことも多いので、初診時から虫歯の原因や治療法を丁寧に説明し予防につなげています。
――スタッフのマネジメントにおいて工夫されていることはありますか。
副院長 ボトムアップ式にスタッフ全員で院内のルールを決めるということです。当院のスタッフはほとんどが中途採用で、各スタッフそれぞれがキャリアを持っています。ですから、リーダーを決めて誰か1人に合わせるやり方は、当院には合いません。具体的な方法ですが、当院では定期的に勉強会・講習会を開催しており、その際にクリニックのルールを決めます。たとえば、患者さんの呼び方から、歯のチェックの順番などです。
――なぜ、勉強会の際にルール決めをするのですか。
院長 歯周病治療に特化した病院で勤務されている現役の歯科衛生士の方に来ていただき、講習や実技指導を行ってもらったり、接遇講師の方を招いたりしています。そうした「外部の先生」に教わった最先端の方法を当院のスタンダードにすることで、より良い医療を提供できますし、院内にいるスタッフだけでルールを決めるよりも何かとスムーズです、
――勉強会がクリニック運営に役立っていますね。
院長 もちろん、勉強会そのものも非常に大切です。当院では、歯科衛生士らスタッフ全員の技量水準を高くすることを重視しているからです。中途採用者はどうしても個々の技術力に差があります。現役でずっと続けてこられた方も、子育てが一段落して復帰した方もいます。誰か1人だけ高いスキルを持っていても、それは患者さんのためにはなりません。ですから、定期的な勉強会・講習会は欠かせません。
カウンセリングルームでは1時間かけて患者への治療方針の説明を行う
独自のデータとMX2を徹底活用 データ分析でさらなる飛躍を
――「TKC 医業会計データベース」(MX2)を導入し、日々の業績管理などに活用されているとお聞きしました。
院長 毎月、MX2で人件費・自費率などを確認しており、経営の指標としています。また、表計算ソフトで作成・分析している来院率などの値が、実際の業績に置き換えたときにどう推移しているのかについて、MX2のグラフを見ることで、一目で確認できる点も大変役立っています。
たとえば、当院はインプラント治療も行っていますが、収益面では保険診療が75%で自由診療が25%ほどです。当院では人件費が多いので、自由診療を30%近く持っていきたい。こうした数値目標を立てやすいことも大変便利だと感じています。
加えて、「TKC医業経営指標(M-BAST)」での黒字医療機関の平均との比較が、経営においての安心材料・今後の方針を提供してくれます。
「TKC医業会計データベース(MX2)」の画面
※画面はサンプルです
――アンケート収集や独自の分析ツールなど、データ活用にも力を入れられていますね。
副院長 データ分析は、経営には欠かせないものです。といってもデータ入力は1分程度で終わりますし、難しいことはしていません。たとえば、予約に対しての来院率・予約獲得率などを注視しています。これは10件の予約があり、1件のキャンセルが出たなら来院率は9割、その全員が次回の予約をとったなら、予約確認率10割といった具合で、計算自体は簡単です。目標はこれらの値を常に85%にしておくことです。
――現在、どのようなことをクリニックの課題だと考えていますか。
副院長 最近は、直近・飛び込みでの対応に応じられないことでしょうか。予防歯科のメンテナンスについては、1か月先なので問題ありませんが、新規の患者さんが直近で受診を希望されても枠がないのです。そのため、ユニットの増設なども現在の検討事項です。
――最後に今後の展望についてお聞かせください。
院長 少し大きな話になりますが、この地域の歯科医療の概念を変えたいと思っています。少なくない方が「虫歯ができて、痛くなってきたら削って治療する」ということを繰り返しています。それではお金もかかるし、患者さんの負担にもなります。予防歯科を浸透させ虫歯を予防することで、患者さんのQOLを上げたいと思います。
右から、高田勝人税理士、松原正和院長、松原理紗副院長、巡回監査士の西尾翔太氏
会計事務所からの一言
高田勝人税理士事務所
所長 高田 勝人
独自領域で医療の未来を切り開くクリニック
松原院長・副院長ご夫妻とは、開業以来のお付き合いです。当初は事業承継のご相談でしたが、そのうち新規開業となり、金融機関との打合せなどサポートさせていただきました。当初の計画を上回る速さで成長しているのもお2人の人柄と確かな経営手腕が大きいのだと思います。多くの患者さんに愛されているクリニックを、これからもしっかりと支えていきます。
(2024年1月25日/TKC医業経営情報2024年3月号より)