病医院訪問・MX活用事例 事業承継により2拠点化 手術を強みとした新たな展開へ
医療法人アネモネ 三根眼科医院
理事長・院長 三根 正(みね・ただし)
三根眼科医院は、1920年中国の大連で開業してから一旦の閉院を挟み、1961年に佐賀県白石町で再開業して以来、地域の人々の眼の健康を支え続けてきた。今年9月に新理事長として就任した三根正院長はクリニックのリニューアル、佐賀市内の眼科の事業承継、女性医師の積極的採用など様々な施策を展開している。次の100年へ向けて、どのような取り組みを行っているのか話をうかがった。
DATA | 医療法人アネモネ 三根眼科医院 | |
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所在地 | 佐賀県杵島郡白石町大字福吉2078-5 TEL:0952-84-2340 http://www.mine-eyeclinic.com/ | |
診療科目 | 眼科・美容皮膚科 | |
診療時間 | 月~土曜日 8:30~12:30 月・木・金曜日 13:30~17:30 ※火曜日午後は手術日 |
次の100年に向けて医院をリニューアル 佐賀市内の診療所を第3者承継
――まずはクリニックの概要を教えてください。
三根 当院は1920年に中国の大連信濃町で、私の曾祖父である三根辰一初代院長が開院しています。その後、曾祖父は早くに亡くなり、祖父の三根元 2代院長が軍医を勤めていたこともあり、戦前・戦中は一旦閉院していたのですが、戦後1961年にここ白石町で再開業し、1994年には3代目として父の三根茂が院長に就任。2017年に医療法人三根眼科医院を設立、昨年8月には、医療法人名を変更し、医院をリニューアルするとともに、この9月に私が理事長として就任しました。
――医院のリニューアルにあたって、こだわった点はありますか。
三根 次の世代がこの医院を引き継いだときに、長く使えることを意識しました。現在、白石町は過疎が深刻化しています。現実的なことを考えると、私の後を引き継いだ人が建て替えを行うことは難しいでしょう。それならば、今回のリニューアルで、これから先建て替えをせずに済むぐらい、長く使えるものにできたらと考えました。
吹き抜けがモダンなデザインの特徴的な待合室
――法人名の変更はどのような経緯からでしょうか。
三根 これは佐賀市内のクリニック「沖田眼科医院」を承継することになったからです。別の医院を承継する以上、法人名を「三根眼科医院」のままにするわけにはいかなかったのです。法人名は、当院は女性医師が多く在籍していることもあり、響きが柔らかい花の名前を付けることにしました。
――沖田眼科医院を承継されたのは、どのような理由からでしょうか。
三根 これには理由が2つあります。1つは、沖田眼科医院を開業されていた沖田家と当家に深いつながりがあったこと。もう1つは、分院展開を行うことで、女性医師に働きやすい環境を提供したいという想いがあったことです。
前者については、この白石町という地に三根眼科医院を招いてくださったのが、地域の基幹病院である白石共立病院の沖田会長のお父様でした。その沖田家が経営する眼科が佐賀市内に開院していたのですが、事業承継先を探していた際に、当法人が手を挙げた次第です。この地に三根眼科医院が建てられたのも、白石共立病院・沖田家とのつながりあってのことです。少しでもお役に立ちたいと思い事業承継しました。
また後者については、当時の職場で同僚として勤務していた女性医師に対して、少しでも働きやすい環境を提供したいと思ったからです。もともと、眼科は女性医師の割合が高いのですが、妊娠・出産・子育てのライフイベントが発生したときに、働きやすい環境が整っているとはまだまだ言えません。ですが、複数人で複数箇所を担当するような形にして、業務量を分担すれば仕事の融通もつけやすい。そのためにも三根眼科医院自体が発展していく必要があり、事業承継を決意した次第です。
――佐賀市内に分院ができたことによるメリットについてはいかがでしょうか。
三根 そもそも沖田眼科医院は、当初から「分院展開」として承継したわけではありませんし、私が当院を引き継いでからも日が経っていません。まずはそれぞれの経営をしっかり行うことが大切だと思っています。
その上で今後は、人口の多い佐賀市内にある沖田眼科医院で受診した患者さんの手術を当院で行う仕組みを作りたいと思います。ただ、2つのクリニックは車で30分の距離があり、これがネックです。一方で現在、佐賀市内から高規格道路が建設されている最中です。これが完成すると交通の便はかなり改善されますし、他地域からの集患面でもプラスに働くと期待しています。
確かな技術をもつ女性医師が手術を執刀 美容皮膚科で眼科との相乗効果を期待
――貴院の患者数などについてはいかがでしょうか。
三根 三根眼科医院では火曜日午後の時間帯は手術日ということもあり、外来患者数については曜日ごとにかなりバラつきがありますが1日平均で80人前後でしょうか。沖田眼科医院では、平均50人前後です。
――かなりの患者数ですが、普段、患者さんと接する上で意識していることはありますか。 三根 「前に説明しましたよね」という言葉を絶対に言わないことです。当院では、患者さんが天寿を全うするまで、ご自身の眼で生活してもらうことを目標にしています。ですから、眼に不安があれば些細なことでも質問・相談してほしい。しかし医療という分野は、非常に難しいものです。そのときわかったつもりの説明も、次に来院したときまでに覚えていることはまれでしょう。その際、「また同じ質問をして嫌な顔をされないか」と不安に思うかもしれませんが、気にせず何度でも聞いてほしい。「なぜ、この薬が必要か」ということを患者さん自身がしっかり理解することで、患者さん自身の健康につながるからです
入院患者がくつろぐことができる食堂スペース
――貴院の特徴として、女性医師が多いという点があげられます。
三根 それぞれが大学病院で専門外来を受け持っていた実績もある非常に優れた眼科医です。常勤眼科医5人のうち、女性医師は3人です。坂井摩耶先生は、白内障手術に確かな技術がありますし、坂口美華先生は、加齢黄斑変性で佐賀県内ではダントツの症例数です。吉川彩先生も着実に実績を積まれています。
また近年、若年層の近視人口が急激に増加していることもあり、お子様の眼に不安を抱える保護者の方が数多くいますが、同年代の女性医師に親身に相談に乗ってもらえるのは、非常に心強いのだと思います。
――確かな手術の技術が強みになっているようですが、手術件数を教えてください。
三根 年間450件ほどです。これまで手術日は火曜日と決まっており、1日8件ほどで、まれに緊急・準緊急の手術に対応しています。手術後は基本的には入院してもらっています。病床数は10床です。
最近になって手術が増加傾向にあるので、木曜日にも日帰り手術を行うようになりました。これは、佐賀県内の開業医からの紹介が増えてきたことが大きいと思います。当院の手術技術の高さが徐々に周知されてきたのではないでしょうか。
――貴院における強みですが、他にはどのようなことがあげられますか。
三根 まだ発展途上ですが、麻酔科医でもある妻が、美容皮膚科を始めました。アンチエイジング治療やプラセンタ処方などを行っています。まだ診療科として標榜していませんが、徐々に認知度は高まっています。ゆくゆくは、親御さんを眼科に連れてきた際に、美容皮膚科にも興味をもってもらうなどの相乗効果が出ることを期待しています。
また、スタッフの存在が大きいでしょう。現在、看護師・准看護師合わせて8人、事務が5人いますが、なかには私が生まれる以前から在籍しているような方もいます。こうして長く働いてくれているスタッフは、患者さんやそのご家族含めて、事情を把握してくれているので、患者さんとの深い関係性を維持してくれています。これは「田舎ならでは」の強みでしょう。さらに当院では、眼科検査~周術期のケアまで、1人の患者さんに対して、一気通貫でなるべく同じスタッフが担当するようにしています。これは、先代の考え方・体制をベースにしていますが、1人のスタッフが責任を持って、1人の患者さんのケアを行うことで、患者さんとしても安心感があるのではないでしょうか。
――スタッフの教育についてはいかがでしょうか。
三根 これは今後の課題です。というのも、優秀な医師が増えたことで、高度な治療を行うことができるようになった反面、そうした治療にかかわる業務を全てのスタッフが同じ質でこなせているわけではありません。理想としては、全スタッフが一般業務を同一の質でこなせると同時に、手術室に特化したスタッフや検査に特化したスタッフが複数人いることで、特定の人に過度に業務が集中することを避けたい。その上で、技術や資格を取得したスタッフに対して評価することで、モチベーションを上げてもらえたら嬉しいです。現在、少しずつその取り組みも始めています。
MX2の部門別管理で数字と感覚を比較 地域医療継続のために選ばれる医院に
――貴院では、外来から手術、コンタクトレンズの在庫、複数人抱える常勤医師まで、経営面で意識しなければならないことが多いのではないでしょうか。
三根 だからこそMX2(TKC医業会計データベース)を用いての経営管理が重要になってきます。特に自分自身が持っている感覚と数字を比較するためにも、部門別管理が大切です。当院には、美容皮膚科もあるため、全体の医業収益で確認しようとすると、自分の持つ感覚と乖離してしまうのです。
くわえて、三根眼科医院と沖田眼科医院では、手術の有無でレセプト単価がまったく異なりますから、それぞれ別に見ていく必要があります。
ですから、美容皮膚科の自由診療は外した上で、三根眼科医院における手術件数はどうだったのか、外来はどうだったのかと部門ごとに「何が伸びて、どう変化したのか」を把握するようにしています。
またMX2では、前年、前々年同月の比較が可能ですが、これも非常に重宝しています。というのも、このあたりは農家の方が非常に多く、時期によって非常に繁閑の波があります。収穫の時期は忙しいので、受診数は減りますが、農閑期には受診数は増加するので、前月比較では参考にならないのです。だからこそ、前期同月、前々期同月がどうだったのかという比較が非常に重要になってくるのです。
その上で、医業収益が自分の持つ感覚と数字に乖離があった際に、加藤田先生と一緒に分析しています。
「TKC医業会計データベース(MX2)」の画面
※画面はサンプルです
――最後に、今後の展望について教えてください。
三根 やはり中・長期的な視野で見たとき、いかに集患してくかということでしょうか。クリニックを建て替えたこともあり、この1年で順調に患者数は延びたと思います。一方で、この地域は30年間で人口が30%減少するという予測になっています。だからこそ、「分院」である沖田眼科医院との連携をさらに深めることで、近隣地域以外からも集患することが大切になってきます。この近くに人気のケーキ屋さんがあるのですが、そこは福岡市内からでもお客さんがくるそうです。確かな実力があれば、遠方からでも来てもらえるという証左です。ゆくゆくは、佐賀県全域や県外からも患者さんがくるような医院となり、地域医療の安定化に貢献できたらと思っています。
過疎地域ではありますが、この地域からの撤退を考えたことは一度もありません。この地域の患者さん・父の代から勤めているスタッフあってのこの医院・私だと思っています。この感謝の気持ちを忘れずに少しでも恩返しをしていきたいと思っています。
左から加藤田敏孝税理士、三根正理事長、三根茂前院長
会計事務所からの一言
税理士法人昴
代表社員 税理士 加藤田 敏孝
新理事長の就任で新たなステージへ
三根先生とは先代の頃より10年以上のお付き合いになります。その間に医療法人成、医院移転建替、事業承継等の大きな転換期となる出来事がたくさんありました。壮大なビジョンを持ち、これから新たなステージに入る新生アネモネさんを、しっかりご支援していきたいと思います。
(2023年9月13日/TKC医業経営情報2023年11月号より)