事務所経営

「TKCスタイル」を追求し「顧客の繁栄」と「職員の幸せ」を実現したい

三須宗次税理士事務所 三須宗次会員(近畿京滋会・滋賀支部)
三須宗次会員

三須宗次会員

平成8年に滋賀県彦根市で開業し、今年で20周年を迎える三須宗次会員。これまで、全国会施策や先達会員の事務所経営ノウハウを積極的に取り入れ、「100%TKCスタイル」で事務所経営にあたってきたという。その成果として、月次巡回監査先へのKFS実践割合は100%。今後の20年を見据えた事務所経営の方針や戦略も含め、幅広く語っていただいた。

「地元企業の役に立ちたい」との思いで税理士を目指して転職を決意した

 ──三須先生は、税理士になられる前は民間企業にお勤めだったそうですね。

 三須 大学では経営学を専攻していましたが、簿記も好きで勉強していました。ただ、当時は税理士になりたいとは考えていなくて、「自分には数字を扱う仕事が向いているかな」という程度でしたね。
 大学卒業後は地元で働こうと決めていたので、地元の小売業に入社。希望を出して経理部の配属になり、10年間勤務しました。当時その会社は創成期で、私がいた10年の間に大証二部上場、一部上場と順調に成長していったので、いろいろなことが経験できて面白かったですね。バブルの絶頂期で、私自身の役職も上がって待遇もそれなりによかったですし(笑)。

 ──ではどうして税理士に?

 三須 急成長した会社だけに生え抜き社員の成長が追いつかない部分があって、金融機関や他の企業から引き抜いた社員で大きくなった組織でした。なんだか「代わりはいくらでもいるんだよ」と突きつけられているような気がして、「このままいくとどうなるんやろう」という不安がありました。
 そうした中で、「好きな経理を活かしてもっと地元の中小企業のお手伝いをしたい」という思いがどんどん強くなっていったんです。資格を取って自由に生きていきたい、というところもありました(笑)。職場環境としても、経理課長が税理士でしたし同僚も皆税理士を目指していたので、私も税理士になろうと。26歳くらいから税理士試験を受け始め、勤務しながら3科目取りました。
 その後、大辻比呂志先生の事務所(現大辻税理士法人)に入所して、10年間お世話になりました。その間に残りの2科目を取り、平成3年に税理士登録。5年ほど勤務税理士として勤務した後、「せっかく資格取ったんだからいっぺんやってみたい」と思い、平成8年に独立開業しました。今年でちょうど開業20年になります。

 ──関与先は、どのような業種が多いのでしょうか。

 三須 地元の彦根市を中心としていて、メーカーや飲食業関係、建設業、それから私自身が流通業にいたので小売卸やサービス業といった流通関係のお客さまも多いです。地方事務所なので業種特化はしにくいですね。まさに飯塚毅先生がおっしゃるように、町医者的態度で、税を超えた「よろず相談屋」として幅広くお客さまを支援しています。

 ──TKC入会はいつですか?

 三須 平成8年、開業前に入会しました(笑)。職員時代から研修や秋季大学に行かせてもらって飯塚毅先生の生の講演をよく聞いていましたので、飯塚毅先生に憧れて。他の選択肢はまったく頭にありませんでした。
 私は飯塚毅先生が大好きで、所内にも「飯塚コーナー」を作っているくらいです(笑)。『TKC会計人の原点』は何回読んだか分かりません。特に開業直後には講演テープをよく聞きましたし、坐禅もよく組みました。今でも何かあれば飯塚先生の本を読んだり、スマホに読み込んである講演CDを聴いたりしています。

 ──印象的な出来事はありますか。

 三須 確か平成8年7月だったと思いますが、入会セミナーで飯塚毅先生を間近で拝見できたことです。後で聞くと、それが飯塚毅先生が表に出られた最後の日だったそうです。2日目の昼すぎに「何や、えらい静かになってるな」と思っていたら飯塚毅先生が来られていた。そして杖をついて壇上に上がられて、私たち新入会員に向けて激励の言葉を送っていただいたんです。感動しましたね。病を押して来られたんだと思いますが、飯塚毅先生の人間力というか、存在感がとにかくすごくて、本当に圧倒されました。その姿が今でも強く印象に残っています。

 ──開業して20年。これまで、どのようなことを重視してこられましたか。

基本理念
一.顧客の繁栄を願う
二.自利利他の追求
三.租税正義の実現
四.仕事が楽しみならば人生は楽園だ
五.地域社会への貢献

 三須 私はサービス業出身で、なおかつ飯塚毅先生の考え方を大切にしているので、基本理念の「顧客の繁栄を願う」「自利利他の追求」を最も重視しています。それからお客さまの見本となるような会計事務所、お客さまに方向性を示せる会計事務所でありたいと思って、事務所の経営計画策定や社員教育、ITの導入にも常に力を入れてきました。ですから、もともとIT好きですが、TKCシステムは提供されたら文句を言わずにすべてまず使います。だからシステムは開業以来TKC一本。他社システムのDMは一切見ません(笑)。20年来、「TKCスタイル」をずっと大切にしてきました。

「100%事務所」を掲げ開業10年で全関与先に巡回監査・KFSを実施

 ──「TKCスタイル」を大事にされている三須先生ですが、HPでも「100%事務所のお約束」として、経営計画策定(K)・自計化(F)・書面添付(S)の100%推進を宣言されていますね。

 三須 月次巡回監査先は62件ありますが、この月次先についてはKFS100%・翌月巡回監査率100%で実施しています。「分け隔てなくすべてのお客さまへTKCスタイルのサービスを提供します」と顧問契約時にお約束しているのと、100という数字が好きなので(笑)。

 ──「100%事務所」はどのように作られたのですか。

 三須 独立にあたって「100%事務所」を目指そうと思い、①自計化、②翌月巡回監査、③経営計画、④書面添付──という順番で推進していく10年計画を立てました。KFSが実践できる環境をまず整えてあげないと職員に負担がかかってかわいそうですから。計画通り、10年で「100%体制」ができましたが、11年目以降はこれが当たり前になっているから、職員もそれが普通になっていると思います。

 ──「自計化率100%」を最初の目標に掲げられたのは、なぜでしょうか。

 三須 大辻先生の事務所にいた平成元年、FX2が提供開始されました。そして当時の担当SCGと2人で関与先に導入を勧め、30件くらい一気に推進。東芝製のパソコンをずらっと並べて立ち上げた思い出があって、すごく面白かった。それで、私は自計化推進が大好きになったんです。そして、その担当SCGと「もし独立したら自計化100%の事務所を作る!」と約束していたんですね。
 それに何より、私はTKC会員ですから、巡回監査の徹底に強いこだわりがあります。初期指導をしっかりして、巡回監査体制にきっちり乗せることを考えると、そのための一番の基礎はやっぱり自計化かなと思いました。ですから開業直後から、原則として新規のお客さまには自計化していただきますし、自計化以外は受けません。今は自計化を嫌がるお客さまはいませんが、推進当時、渋っていたお客さまには事務所の古いパソコンを渡して「社長、このパソコンを差し上げますからFX2入れてください」と迫って、100%にしたものです(笑)。
 その後の初期指導は、オリジナルの「初期指導マニュアル」を使ってみっちり行います。初期指導を行う最初の3カ月は、事務所のファンになっていただくための期間。かなり重視していますので、はじめの1カ月は週に1回、そのあとの2~3カ月は10日に1回の頻度で訪問して、必要に応じて経理担当者向けの簿記・給与計算研修も実施します。そして初期指導を終える90日目に月次報告会を開催して、FX2を使いながら業績確認をして経営課題をあぶり出し、月次巡回監査体制にスムーズに乗るようにしています。

法人関与先は決算報告会の日程を決め巡回監査日半年分をスケジューリング

 ──「翌月巡回監査率100%」達成のポイントはどんなところにありますか。

 三須 飯塚毅先生の教えですが、巡回監査先を4つのグループに分けました。1カ月のうち、①1日から10日までの間に回れているグループ、②11日から20日の間に回っているグループ、③21日から25日の間に回っているグループ、④26日から月末日までに回っているグループ──というように、まずは今どうなっているか、現状を把握するんです。
 当然、①もしくは②のグループに入るところを増やしたいですよね。そこですべてのお客さまにアンケートを配り、どうしたら前倒しできるか、お客さまごとに課題をヒアリングして一つひとつ改善していきました。相手の都合ばかり聞いていると20日すぎ、もしくは月末ギリギリになってしまうことが多いので、例えば、末日締めのお客さまで「請求書がそろわない」という場合は、締日を20日に変えてもらいました。今でも、「だんだんゆるくなってきたな」と思ったら、この四つのグループに分けてチェックしています。
 もう一つのコツは、日程を決めること。毎月末日までに担当者がスケジューリングして、2カ月先までの巡回監査日を決めています。そして、毎月1日の全体会議で、皆でスケジューラを見ながら当月の日程と重点確認事項を共有します。
 ちなみに法人の関与先では、決算報告会の日程を「決算月の3カ月前」には決め、さらに申告月までの巡回監査日も決めています。つまり半年分の巡回監査の日程を決めているということになります。もちろん、申告月にも巡回監査を行います。
 また、決算から50日目までに決算報告会を開催すると決めているので、40日決算を徹底しています。でないと、決算が遅ければ遅いほど、決算報告会の準備やその後の巡回監査の日程がタイトになって職員自身が大変になるので、どんどん前倒しになっていく。今では30日決算が実現できている職員もいます。

 ──決算報告会というゴールを決め、そこを起点にするのがポイントですね。

事務所外観

事務所は平成13年に現在の場所に移転。
JR彦根駅から車で10分、名神彦根ICから車で1分の立地にある。

 三須 そうですね。決算報告会は年1回、法人はもちろん個人のお客さまにも事務所に来ていただいて、2階の会議室でプロジェクターを使いながら行います。前半では決算報告をして決算内容を説明し、経営課題や改善策を示します。そして後半は、単年度の経営計画策定の時間に充てる。お客さまにはあらかじめ「5つの質問」に沿って目標売上などの数値を考えてきてもらいます。そして継続MASを使って一緒にシミュレーションしながら単年度の計画を作ります。開業以来、この流れをパターン化しているので、K(経営計画策定)も100%というわけです。
 私たちは税理士ですから、コンサルタントのように「こうしたほうがいい」なんて指示するのは難しい。でも、一緒になって考えることはできます。社長の夢の実現のために、継続MASを使って一緒に経営計画を作り、毎月の巡回監査で改善策を考える。そこに経営助言の一つの形があると思っています。

書面添付はお客さまを守る「決算保証書」巡回監査支援システムの活用で全件実践

 ──「書面添付実践100%」の仕組みを作るポイントを教えてください。

 三須 巡回監査支援システムのおかげですね。実はKFSのうち、一番苦労したのは書面添付でした。紙ベースの「巡回監査報告書」を基に、自計化先の監査の仕方を取り入れたチェックリストを別途エクセルで作っていたんですが、なかなか定着しなかったんです。四苦八苦していた時期にちょうど巡回監査支援システムがリリースされて、すごくうれしかった。「さすがTKCや」と思いました。
巡回監査支援システムは使いにくい」なんて言う人もいるようですが、TKCシステムには理念があるから、その考え方が分かれば使いにくいことはないはずなんです。まさしく巡回監査支援システムは、ゴールである試算表からチェックして、手で付せんを貼るのと同じように問題点を抽出できる。そして監査後は自動的に巡回監査報告書が作れますし、データが蓄積されますから決算時の添付書面作成にも役立ちます。決算後に改めて添付書面を作成するのは結構気合いが要りますから、本当にありがたい。今は添付書面の質の向上に力を入れています。
 ちなみに、うちは関与年数に関係なく、きちんと初期指導を終えて月次巡回監査体制に乗った関与先であれば、関与して最初の決算から書面添付を実践します。「ここは書面添付やめておこう」というのでは、お客さまを区別することになるから嫌なんです。それに、書面添付はいわば「決算保証書」ですから、月次関与先はすべて分け隔てなく必ず実践するという方針です。

 ──「決算保証書」とは分かりやすい表現ですね。

 三須 やっぱりお客さまを守りたいですから。税務調査は、お客さまはもちろん私たち会計事務所にとってもないほうがいい。せっかく税理士が一生懸命申告書を作っていて、何で調査が必要なのかと思いますし。ドイツでは、一級の会計人が作った申告書は信頼度が高いとされているそうですが、日本でもそうあるべきだと思いますしね。おかげさまで税務調査はほとんどありません。意見聴取は年に2~3回ありますが、ほとんど実地調査に移行せずに済んでいます。

事業承継までの中期経営計画を立て中堅企業・資産税拡大に向け体制を強化

 ──現在の事務所経営についてお聞かせいただけますか。

行動規準
1.安心  PEACE
2.適時  TIMELY
3.正確  EXACT
4.効率  EFFICIENCY

 三須 5年前に息子が入所してから、事務所の将来像についてよく考えるようになりました。できるだけ良い形で自分なりに事務所を仕上げ、息子に事務所を譲りたい。そのためにどうすればいいかとずっと思いをめぐらせていたんです。
 転機は3年ほど前、赤岩茂先生(関東信越会)のセミナーでした。内容はFX4クラウド導入に関するものでしたが、顧客規模と事務所売上の内訳表を公開してくださったんです。それを見て感銘を受けると同時に、「うちの事務所は10年遅れている」と危機感を覚えました。それですぐ事務所に戻って収益構造を分析してみたら、どちらかというと中小零細企業が多かったんですね。ちょうど同じ時期に、AI(人工知能)の進化やマイナンバー制度導入で税理士業界の未来はそんなに明るくないという話も聞いていましたので、今後の事務所経営を考えると、やっぱり顧客構造を変えて職員の待遇改善を図るべきだと強く思ったんです。
 それで、粟飯原一雄会長のおっしゃる「Cnance, Change and Challenge」という概念を事務所経営に取り入れて、平成25年から策定した中期経営計画を2年ごとのステージに分けました。第1ステージ(平成25~26年)のメインテーマは顧客拡大、第2ステージ(平成27~28年)は法人設立準備に注力し、そして第3ステージ(平成29~30年)で事務所承継をする──というものです。
 計画実行にあたって、社会保険の加入などまず労働環境を整備しました。「家業」ではなく「事業」としてきちんとやっていこうという意思を職員皆に示し、安心して長く働いてもらおうと思ったんです。
 次に「中堅企業・資産税の顧客を増やす」という方針を打ち出し、そのために組織体制も見直して、①税務会計支援部、②資産税部、③経営支援部──という3つの部署を作りました。
 ①税務会計支援部では巡回監査と税務相談、②資産税部では資産活用の提案と相続対策、③経営支援部では資金繰りシミュレーションを含む経営相談・経営(改善)計画策定・IT活用支援を担当しています。この③経営支援部はいわば営業部のようなもので、外に打って出る部署という位置付けです。経営支援セミナーの開催企画立案や金融機関との連携、7000プロジェクトの実践もこの部署が担当しており、金融機関からの紹介もここを窓口として受けることが多いです。

積極的拡大方針でチャンスが増えFX4クラウド導入先の税務顧問に

 ──手応えはいかがですか?

 三須 中期経営計画を立てて皆で積極的に動き出したら、どんどんチャンスが生まれてくるようです。実際、積極的拡大という方針を出してから20件ほど増えており、ほぼ計画通りに進んでいます。
 それから、良いお客さまが良いお客さまを呼んでくれるようで、FX4クラウドの導入も徐々に増えてきています。既存のお客さまの切り替えに加え、昨年は、FX4クラウドをきっかけとして地元の優良企業に税務顧問契約をしていただきました。MR設計ツールで店舗ごと、年月ごとなど、社長のイメージ通りの部門別資料を瞬時に出せるように設計したらすごく喜んでいただき、うれしかったですね。
 資産税部では、月額5000円から継続的なご相談に対応する「相続顧問」というものを打ち出しました。資産税関連の実務はスポット業務になりがちで、お客さまとの信頼関係をつくるのも難しいですよね。そこで、相続発生前からなるべく長い関係づくりをしたいと思ったのがきっかけです。相続税法改正の影響もあり、おかげさまで少しずつ相続顧問・資産活用のご相談も増えています。

 ──良い流れが次々に生まれていると。

 三須 はい。さらにうれしいことに、良い職員が多く入ってきてくれるようになりました。開業以来、求人は新卒採用に力を入れていますが、特に最近は大学院卒の男性が入所するなど今のメンバーはすごく頼もしい。会計事務所は職員の力で決まると考えていますから、本当にありがたいです。うちでは職員自身の中期計画も各自作ってもらっているので、「陽転思考」で、事務所の夢はもちろん職員自身の夢の実現に向けて、今後も一生懸命努力してくれたらと思っています。

三須会員(中央)と「平均年齢は約30歳」という巡回監査担当者の皆さん。

三須会員(中央)と「平均年齢は約30歳」という巡回監査担当者の皆さん。

TKCスタイルをさらに追求しながら「月次関与先100件」の実現を目指す

 ──あらためて、これまでの20年を振り返るとともに事務所の未来像についてお話しいただけますか。

事務所内に貼ってある「人生を成功に導く“20の法則”

事務所内に貼ってある
「人生を成功に導く“20の法則”」

 三須 今年63歳になりますが、70歳が一つのゴールかなと思っているので、早く私としての事務所を仕上げ、税理士法人を設立して、承継したいと考えています。今、3人の職員が税理士試験に挑戦中ですので期待しています。
 もう一つの目標は、承継までに月次関与先を100件にすること。ただ、社長への目配りという意味では、やみくもに大型化したくないというのが正直なところですので、きちんと質を維持しながら拡大していきたいと考えています。
 これまでの20年を振り返り、またこれからの20年を考えてみても、事務所経営の悩みは尽きることはないでしょう。でも、TKC全国会はいつも進むべき方向性を示してくれますし、多くの会員先生から成功のノウハウを公開いただける。TKCから良いシステムも提供してもらっていますし、「TKC会員でよかった」と心から思っています。今後も、先進的な取り組みをされている会員先生の事例に学び、そして仲間と切磋琢磨しながら、良いところはどんどん取り入れて事務所をもっと成長させたい。そして「TKCスタイル」をもっともっと追求し、「顧客の繁栄」と「職員の幸せ」の両方を実現していきたいと思っています。


三須宗次(みす・そうじ)会員
平成3年税理士登録、平成8年7月TKC入会。同年9月開業。
三須宗次税理士事務所
 住所:滋賀県彦根市原町660-48
 電話:0749-24-9179

(TKC出版 篠原いづみ)

(会報『TKC』平成28年5月号より転載)