税理士・公認会計士のご紹介

相続対策・遺産整理

遺言書作成直前で相続開始した事例

I.ポイント

数週間後に遺言作成予定者が死亡したとの通知を受け、相続人全員に集まっていただき、被相続人の遺志としての遺言書の案文と付言を開示し、この方向で遺産分割をすることを提案し、大筋で合意が成り遺産整理業務についての委任契約書を締結した。

最終の遺産分割協議成立までに若干の紆余曲折はあったものの、大きな障害とはならなかったのは、被相続人の遺志としての遺言作成案と付言の存在が大きかったものと考えられる。法的には効力のないものの文書の形で残された被相続人の遺志に対しては、相続人は従わざるを得ないものである。

Ⅱ.事案の概要

1.相続関係と生活環境
被相続人(甲)
(相続開始 平成17年2月、相続開始時年齢78才) 不動産賃貸業
配偶者(妻、乙)
76才 甲の事業専従者として所得税の申告 若干の斑認知症的?意志能力あり
長男(A)
不動産業を会社経営
次男(B)
建築設計・建築業、不動産売買賃貸業経営 Aよりも成功している様子で、全般的に判断が明快・的確である
長女(C)
1級の聴覚障害者 同じ聴覚障害者と結婚 意志能力あり、マイホーム所有 話し合いの場では手話による通訳が介在

以上のように、この家族は不動産経営に関心があり、被相続人は成功している次男に対する思い入れが大きかった。

2.遺産の状況
➀不動産
自宅兼賃貸マンション(ローンの残高有り) 長男のマンションの敷地(貸宅地、地代の収受あり) 時価総額 約2億円
➁金融資産
約1.7億円 当初、遺言作成作業中に開示された額は7,000万円であったが、書類を整理した結果、被相続人名義で1億円増加その理由を次男に聞いたところ、父は自分に別枠で自分にやるつもりであったということを聞いていた。 その他に、乙名義の生命保険契約や金融資産がある。税務申告上の問題であることは、相続人全員集合の場では伝えている。
3.遺産整理業務受託までの経緯
  • ・遺言の内容について、甲は夫婦で相談していたようで乙は遺言案文の中味についても熟知していた。
  • ・乙も被相続人の生前の気持ちを実現したい意向を持ち子供たちに打診、子供たちも父の遺志を尊重することとなった。
  • ・相続人全員が当事務所に全てを任せたい旨の申し出を受けた。
  • ・相続税申告を当事務所、遺産整理業務を信託銀行へ持ち込むつもりで遺産整理業務のパンフレットを呈示した。しかし報酬の面で相続人が難色を示したことと、前期FPのKさんの出身行での活動に支障が出るとのこと、及び独立開業したばかりの二人のFPへのフィーの問題もあり、当事務所で相続税申告と遺産整理業務を受託することとなった。 遺産整理業務は二人のFPとの共同作業となる。
4.遺言作成意向のポイント

当初の遺言書を作成する上でのポイントは下記の順位を考慮した。

  • ➀生存配偶者の生活の安定
  • ➁障害者である長女の生活の安定と自立
  • ③不動産賃貸業の事業承継、債務承継
  • ④祖先の祭祀者の指定

遺言書の案文は、結果として非常にバランスのとれたものとして提示できた。 また、本件遺産整理業務受託についても、相続人全員が父の遺志を尊重し、理解を示して遺産分割協議が成立したことが、この業務を早期に完了することができた原因である。

5.「遺産整理に関する委任契約書」の締結
委任者
相続人全員
実印による署名捺印 印鑑証明書を各5通準備
受任者
当税理士法人
事前に本件受託に関してFPより当税理士法人の代表社員宛の受託に関して稟議書を提出 別紙、委任契約者参照
6.対象財産の預かりと財産調査
  • ・どこまでを遺産整理業務の範囲とするかで、自ずから預かり財産範囲が異なる。
  • ・信託銀行では、原則、債務承継(保証金融債務返還を含む)、死亡保険金、通常の保険等、未払金、遺族年金の手続、社会保険手続、自動車の名義書換、その他生活関連の手続きは対象外となっている。
  • ・しかし、相続人からは母はこまごましたことについての法的手続きをすることは困難であるし、自分たちも仕事を持っているのでその時間的余裕もないので、全ての相続手続きをお願いしたいという条件で受託。
  • ・もっとも相続税申告上、細かなことも把握する必要があるので細かなことも重要ではある。
  • ・また、数年前から銀行が預金よりも投資信託を販売しがちであったことや、証券会社との取引もあったことから、価格変動商品(原則、通帳や証書は発行されない)の半期又は年1回の通知書保管整理が困難となり、遺族が残高掌握ができない状態であった。
  • ・過去8年間程度の通知書等が整理されてなく、そのまま家のあちこちに保管(?)されていた。結局、二人で丸二日かかって全ての通知書、計算書等、権利書、保険証書等々を整理し、遺産整理業務上必要な書類、税務申告上参考となる書類、不要な書類とに分別作業を行った。
  • ・書類整理の結果、当初遺言作成をしようとしていたときにお聞きした額よりも1億円程度の金融資産が発見された。
  • ・有価物について預かり証を交付し、資料コピーの上、有価物たる現物は取りあえず当税理士法人契約の銀行貸金庫へ保管をした。
7.財産目録の作成と遺産分割協議
  • ・残高証明書及び相続評価明細書の作成をして、財産目録を作成交付する。
  • ・相続人全員に集まって頂き、財産目録と財産評価額とを呈示する。

遺言作成案文に従った分割ということであったが、財産調査の結果1億円程度の金融資産が増加したので、配偶者への金融資産の配分の増加と、障害者の長女への金融資産の配分の増加を次男を通じて内諾を得、会合の場では事前のシナリオどおりに事が運ぶように段取りをつけた。

結果、長男と次男間の財産配分につき若干の調整をした上で、遺産分割協議は成立。

8.財産整理上の時な点
  • ➀遺産整理業務に関する委任契約書を締結し、受任者名義にて各金融機関に依頼するも、一部の金融機関では相続手続きに慣れていないためか、当初は拒否された。素人にも理解できるよう十分な説明が必要であることを痛感した。
  • 原因は、社内手続きマニュアルが優先し、窓口担当者は法律的なことを説いても聞く耳を持っていないようである。
  • ➁分割協議書作成後、解約手続きについて特に、証券会社は預かり財産を一旦は相続人代表名義に書き換え、そのご解約手続をして解約金を振り込む。この間一ヶ月を要した。各証券会社とも同一の手続きであった(共通システムの採用らしい)。
  • ➂生命保険金の請求手続きは、印鑑証明書添付の遺産整理業務の委任契約書があっても、受取人本人あるいは、相続人代表でなければ手続きに応じてはくれなかった。 保険金犯罪が見受けられることもあり、保険会社の対応はもっともなことと考えられる。 結局、配偶者を保険会社に連れての手続きとなった。
9.財産の引渡し

無事、分割協議書通り完了。 完了報告書、処理の状況報告書、金銭出納の記録、領収書・計算書等を相続人全員に交付し業務を終了した。 解約した金融資産から相続手続き費用と相続税申告招集等を控除した。

10.税務申告

準確定申告は完了しているものの、遺産整理業務の方を優先処理していたので(相続人としては、納税よりも先に財産を取得したいのが人情)、同時進行はしていたものの、路線価の発表待ちということを理由として、本格的な申告業務はこれからである。