不動産の補償物件の調査に特化する形で、1998年に創業、2006年に法人成りしたユニティス。「補償物件の調査」とは何か。例をあげてみよう。たとえば、道路などの建設によって移転せざるを得ない建物があったとする。その部分を測量して図面におこし、建物の持ち主への補償金を「損失補償算定標準書」に基づいて算定する。補償項目はさまざまで、建物だけではなく外構もそうだし、工場などでは機械設備なども対象になる。また、木造と非木造でも補償積算方法は大きく違う。さらには、休業期間中の収益や固定費の補償。移転費用……。「元帳をひっくり返して調査する」(宇田幸彦ユニティス代表)というから大変な作業だ。さらにいえば、特殊な事情が絡む細かな作業だけに、元請けの数だけ積算ソフトが必要になるのだという。
請け負う仕事は建設コンサルタントからの下請けが多く、競合は個人事業者がほとんど。ユニティスのように、4名もの技術者を抱える会社は珍しく、愛知県では規模的にもトップクラスに数えられるのだとか。宇田代表はいう。
「リーマンショックの際に、元請けを含め多くの同業者が倒れました。当社も、実際、かなり厳しい状況に追い込まれましたが、4名がそれぞれの得意分野を持っており、元請けからの要望に柔軟に対応できる当社の特徴を武器に、何とか乗り切ったという感じです」
それでも当時は、「廃業しようか」とも考えていた宇田代表。そんな状況を下支えしたのが、数年前に顧問に就任していた村瀨潔税理士だった。村瀨氏は、それまでのユニティスの市販のソフトを使用したどんぶり勘定的な経理を刷新。TKCの戦略財務情報システム『FX2』を導入すると同時に、巡回監査、月次決算、書面添付、経営計画の策定を実践していく。
「最初はよく分からなかった」
実は、宇田代表と村瀬税理士は、愛知県立旭丘高校剣道部の先輩後輩の間柄(宇田代表が1年先輩)。村瀨税理士が事務所を承継した2007年に顧問に就任した。体育会系の厚い信頼感で結ばれているものの、ビジネス上ありがちなべたべたした関係性はなく、村瀨税理士は、ユニティスの財務を厳しく是正していった。宇田代表は、当初は同窓のよしみもあって村瀨税理士が勧めるTKC方式の経理を受け入れたが、「正直、とっつきにくく、意味がよく分からなかった」という。
まもなくリーマンショックが起こり、ユニティスは資金繰りに窮してしまう。その際、村瀨税理士は『FX2』の業績データをもとにしながら、経営計画の策定を支援する『継続MASシステム』を活用して、将来的な資金繰りのシミュレーションを繰り返した。
「当事務所の2階に宇田代表と日本政策金融公庫の融資担当者を呼んで、シミュレーションの結果を説明。〝これだけのキャッシュを真水で入れれば回るでしょう〟などと担当者を説得しました。すると、即日OKが出て翌日には融資を受けることができました」(村瀨税理士)
宇田代表にとって村瀨氏は「命の恩人」となった。廃業まで考えていた会社が一気によみがえったわけだから当然だ。これは、前述のきっちりとしたTKC方式の財務管理体制によせる金融機関の信頼感が呼び込んだもの。この時、宇田代表は、ようやく村瀨税理士の意図が分かりはじめたという。
ちなみに、さらに数年後、中京銀行が手がける、中小会計要領準拠、書面添付の実施、記帳適時性証明書の年次決算、月次決算の「◎」が合計30個以上(ユニティスは36個)など、3(現在は4)項目の実践を条件にTKC会員事務所の関与先企業が最大0.9(現在は1.0)%の金利優遇措置を受けられる『太鼓判』という商品で、運転資金を超低利で調達できた。
月次業績をクラウド上で公開
図表1
そんなユニティスが、村瀨税理士の勧めで「TKCモニタリング情報サービス」(図表1参照)の利用をスタートしたのが昨年の11月。同サービスは、TKC会員税理士を通じ、TKCデータセンター(TISC)にある関与先企業の経営データがオンラインで金融機関に提供されるというもの。つまり、昨年の11月から、ユニティスの毎月の試算表が、翌月初旬にはダイレクトに中京銀行に提供されているのだ。宇田代表はいう。
「従来は3カ月に1回程度、紙ベースの試算表を金融機関に提出していましたが、いまでは毎月。しかも持って行く手間もかかりません。当社の帳簿には何の不正もないし、とにかく業績を見てもらい、資金繰りの対応をスピーディーにお願いしたい。その意味で非常に便利ですね」
もちろん金融機関からの評価も良い。毎月のキャッシュフローをあらかじめ把握しているので、だいたいどのあたりでお金が必要になるかが分かり「融資関連の話は早くなる」(村瀨税理士)という。
「ユニティスさんでは、国の施策である『早期経営改善計画策定支援』事業を活用される意向ですが、当事務所は通常業務で経営計画策定支援を実践しているため、スムーズに手続きを進めることができます。また、この事業に基づいて作成された『早期経営改善計画』は『早期経営改善計画提供サービス』(図表1参照)を利用して中京銀行にデータ提供する予定です。ちなみに先月、その事前相談のために宇田代表と中京銀行を訪問した際、借り換えの要望を伝えると、先方は試算表をあらかじめ見て事情が分かっているため『必要だよね』と即応でした」
実は、ユニティスの決算書は、愛知県信用保証協会にもTKCモニタリング情報サービスによって提供されている。そのため、ほとんどの中小企業が利用している保証付き融資の実施や変更、借り換えなどに、確認作業など余分な手間がかからない。村瀨税理士の話。
「TKCモニタリング情報サービスをいやがる経営者がいるとすれば不思議なことです。当事務所では借り入れのあるすべての関与先に導入を予定しています」
ちなみに、当サービスを一番最初に活用したのは、村瀨税理士が代表をつとめる税理士法人パートナーズ。ユニティスにおいても前述の通り、TKC方式の適時・正確な記帳に基づいた財務管理が行われていて、利用は非常に早かった。「当サービスは、スピードが要求される今後の企業経営に欠かせないツールとなる」と村瀨税理士は強調する。