千葉県銚子市に本店を置く銚子商工信用組合は、TKC千葉会と提携し、金融機関向けFinTechサービスである「TKCモニタリング情報サービス」の対応を昨年末からスタート。すでに複数の取引企業からインターネット経由で決算書データの提供を受けている。「境界杭」などの製造販売をする協伸化成も、そうした企業の一社だ。銚子商工信用組合の伊東輝侑理事長と鵜野澤勅常勤理事、そして協伸化成の宮﨑一男社長と税務顧問を務める加瀬昇一税理士の4名で座談会を開いた。
伊東輝侑理事長
加瀬税理士 「TKCモニタリング情報サービス(※1)」に対する評価をお聞かせください。
伊東理事長 信頼性が確保された決算書や申告書等の財務データをインターネット経由で受け取れるのは、私たちにとって非常にありがたいことです。このサービスによって、取引先企業との目線が一致し、双方向の会話がスムーズになると考えています。
加瀬税理士 現在どのくらいの数の企業が利用しているのですか。
鵜野澤理事 すでに10社以上の利用があります。今後さらに増えると思っています。
融資審査がスムーズに
加瀬税理士 TKCモニタリング情報サービスには、「決算書等提供サービス」や「月次試算表提供サービス」などの種類があります。利用が多いのはどれですか。
鵜野澤勅常勤理事
鵜野澤理事 私たちは半期ごとに試算表の提出をお願いしていますが、現時点では比較的取り組みやすい「決算書等提供サービス」の利用が多いです。法人税の電子申告のあと、それと同じ内容の透明性の高い決算書データを送ってもらえるのはうれしいですね。
宮﨑社長 当社も決算期にあたる5月末に、TKCモニタリング情報サービスを通じて銚子商工さんに決算書データを提出しました。税務顧問の加瀬先生に勧められたのがきっかけです。
実は今年の夏、銚子商工さんから資金を融資してもらいました。融資の申し込み後、すぐに審査が通ったのは、決算書データをあらかじめ提出していたことと無関係ではないと思っています。とにかくスムーズに融資を実行してもらえました。
伊東理事長 協伸化成さんは今回、主力製品(境界杭・土木杭、掛矢など)の受注量が増えたことから、売り上げが前年比60%アップになったといいます。喜んで資金を提供させてもらいました。
宮﨑一男社長
宮﨑社長 どうしても購入したい設備機械があったので、その購入資金を融資してもらえたのは本当にありがたかったです。
当社の場合、製品によっては、すぐに出荷できるようにある程度の在庫をストックしておくことが求められています。しかしその場合、材料の仕入れ先に対しては早めに代金を支払わなければならない一方で、製品の売上代金が入ってくるのはもう少し先になります。資金が不足する時期があることから、スピーディーに融資を実行してもらえるのは非常に助かります。
鵜野澤理事 協伸化成さんのメインバンクは政府系金融機関ですが、割引手形や運転資金など、身近な資金需要については、私たちがお手伝いさせてもらっています。近年は同業者の廃業によって、一部の製品については寡占に近い状態にあるといいます。今後も増加資金や設備投資の需要に対し、計画的な金融支援に取り組んでいければと考えています。
「事業性評価」への取り組み
加瀬昇一税理士
加瀬税理士 ところで銚子商工さんは、融資判断の際の「事業性評価(※2)」について、どんな取り組みをされていますか。
伊東理事長 金融庁の金融行政方針もあり、かなり積極的に取り組んでいます。具体的には、「クレジットライン(融資枠)」を活用した事業性評価融資を推進しています。
地域金融機関である当組合は、営業担当者が定期的に取引先企業のもとを訪問し、いろいろな会話をするなかで後継者の有無といった定性情報を入手してきました。これらの定性情報と、決算書の数字などの定量情報をもとにクレジットラインを設定。それをベースにした融資を平成28年2月より実施しています。この仕組みを通じて、不動産担保や個人保証に過度に依存しないプロパー融資の推進を実践しています。
加瀬税理士 当座貸越ローンにおいても、事業性評価を取り入れているそうですね。
鵜野澤理事 ええ、事業性評価にもとづくクレジットライン設定先の法人と個人事業者を対象に、利便性とスピード性を兼ね備えた当座貸越ローンをご提供しています。「当貸biz」新規38件、「一般当貸」新規44件の実績があります(平成29年8月末)。
加瀬税理士 「銚子商工TKC経営者ローン」の商品化もしていただきました。
鵜野澤理事 TKC会員(税理士・公認会計士)の先生方は、月次巡回監査を通じて関与先企業の月次決算を支援しています。これにより決算書の信頼性が確保できるという考えのもと、「記帳適時性証明書」と「書面添付(※3)」がある企業については、経営者の個人保証を求めていないところに、当組合のTKC経営者ローンの特長があります。ここには、「経営者保証ガイドライン」への対応という意味合いも含まれています。
宮﨑社長 当社でも、加瀬先生の指導のもとに「正しい決算書」を作成しようと、月次決算を実践したり、中小会計要領(※4)に準拠した会計処理を行うように努めています。月次巡回監査に来てくれる担当者の方に、いつも「これはどう仕訳したらいいのか」と、いろいろ質問しています。
鵜野澤理事 それは素晴らしいですね。
幅広い企業支援のために
銚子商工信用組合の本店
加瀬税理士 地域経済活性化のために、銚子商工さんが地元の中小企業に期待したいことは何でしょうか。
伊東理事長 金融仲介機能という部分では、以前は資金を貸し出すことが主体でしたが、いまは資金供給だけにとどまらない経営支援をしていく必要があると考えています。そのためにも、信頼性の高い決算書や月次試算表などを提供してもらえたら非常にありがたい。それがベースとなって、新しい事業戦略の策定、他社とのビジネスマッチング、資金導入などの幅広い経営支援に取り組めると考えているからです。TKCモニタリング情報サービスが今後ますます広がり、中小企業の側から積極的に財務データを提供してもらえるようになればいいですね。