瀬戸内海に面した愛媛県西条市。そこの壬生川地区に「秋山魚市場」がある。漁師が持ち込んださまざまな魚介類を、仲買人たちが威勢のよい声で競り落としていく。それが、魚の卸商である秋山魚市場の朝の風景だ。
「とにかく種類豊富な魚介類の取引がなされているのが、うちの特長です。同じ愛媛県の東予地方といっても、今治周辺で取れる魚と、壬生川周辺で取れる魚の種類は意外と違っていたりするんです。約60名が集まる仲買組合の人たちにとっては、選べる楽しさがあると思います」と現在、社長を務める2代目の秋山るみさんは語る。仲買人が競り落とした魚介類は地元スーパーなどに卸され、一般消費者のもとに届く。
また、秋山魚市場では鮮魚を一般消費者に販売することはしていないものの、漁師から買い付けた魚介類をふんだんに使った「仕出し弁当」を近隣の冠婚葬祭施設に納入することもしている。焼き魚やボイルしたカニなどに加えて、野菜の煮物、卵焼き、巻きずしなども入っており、そのクオリティーの高さには定評がある。このほか、20年ほど前から「不動産事業」も手がけており、賃貸マンションの家賃収入を得ている。
「試算表」を四半期ごとに提出
そんな秋山魚市場と高田税理士事務所が顧問契約を結んだのは、30年以上前。先代社長である秋山真澄さんが会社を切り盛りしていた頃の話だ。以来、高田会計の指導のもと、秋山魚市場は「正しい決算書」を作成することに努めてきた。「書面添付(※)」の表敬状を何度かもらっているのは、その取り組みが評価されてのことである。
「正しい決算書を税務署に提出するだけでなく、地元金融機関である愛媛銀行さんにはさらに四半期ごとに月次試算表を提出して、会社の業績報告をすることもしてきました。それを昨年から『TKCモニタリング情報サービス』を利用して、データの形で提供するようにしました」(秋山社長)
TKCモニタリング情報サービスとは、TKC会員(税理士・公認会計士)が、顧問先企業からの依頼に基づき、信頼性の高い決算書や月次試算表等の財務データを提供する無償のクラウドサービスのこと。法人税の電子申告の後に、それと同じ内容の決算書等のデータをインターネット経由で提供する「決算書等提供サービス」や、TKC会員による月次巡回監査の終了後に月次試算表等のデータを提供する「月次試算表提供サービス」などの種類がある。秋山魚市場の場合は、それらを使って決算書のほか、四半期ごとに月次試算表のデータも送るようにした。
高田勝人・顧問税理士がTKCモニタリング情報サービスの利用を秋山社長に勧めたのは、こんな理由からだったという。
「ふだんの月次決算を通じて、質の高い試算表や決算書を作っていることから、どうせならそのことをどんどんアピールしていくべきではないかと思ったんです」
実際にインターネットを通じて月次試算表を提出するようになると、資料をコピーして銀行の担当者に手渡すという手間がなくなり、「かなり便利になった」と、秋山社長は感想を述べる。また、メインバンクである愛媛銀行との関係性もより一層深まったような気がするという。愛媛銀行壬生川支店の稲見勇樹支店長がこう語る。
「正しい決算書や試算表を作っているという自信がなければ当然、情報公開はできません。財務データを自ら積極的に公開してくれている秋山魚市場さんの姿勢を、私たちも高く評価しています。『事業性評価』への取り組みに力を入れていることもあり、会社の業績がどうなっているかを定期的にモニタリングできる資料を提供してもらえることは、スムーズな資金提供にもつながります」
(※)企業が税務申告書を税務署に提出する際に、その内容が正しいことを税理士が確認した書類を添付する制度
金融機関にとってもメリット
秋山社長によると、魚市場事業における資金需要はいまのところ特にないという。ただ同社は不動産業も手掛けているため、たとえば競売物件で非常に安い物件が出たら急に資金が必要になる場合が出てくる可能性はある。
「そんなとき、ふだんから月次試算表によるモニタリングを通じて会社の経営状態を知ってもらえていたら、何もないところからスタートするよりも融資審査はスピーディーに行われるのは間違いない。TKCモニタリング情報サービスによって、そうした関係性を銀行と築けるのは大きなメリットといえるでしょう」(高田税理士)
いま、愛媛銀行では地元企業の経営力強化のために、資金面だけにとどまらないさまざまな提案をおこなっていく方針を掲げている。適切な提案をするには、その企業の経営内容を詳しく知っておく必要があることから、企業の側から積極的に情報公開してくれることは非常にありがたいという。
「また、当行では『経営者保証ガイドライン』を踏まえて、経営者から過度な個人保証を取ることを見直すことにも努めています。TKCモニタリング情報サービスによって直近の経営状況を示す試算表が入手できれば適時、個人保証の見直しがスムーズに行えます。その意味からも、定期的に月次試算表を提供してもらえるのは助かります」(稲見支店長)
「総菜」の販売にも着手
秋山魚市場では近年、自社の経営力をさらにレベルアップすべく「経営改善」の取り組みを進めている。例えば、〝地物〟の産品を取り扱う「道の駅」の産直市場で、アジの三杯酢、いわしの煮物、エビの唐揚げなどの「総菜」を販売するようになった。総菜の種類を増やすため、新メニューの開発も積極的に行っている。
「ほかにも、ふるさと納税の〝お礼品〟として、瀬戸内海の鮮魚を全国に直送することも始めており、人気のあるワタリガニの仕入れを強化したりもしています」と、3代目の秋山佳加さんは話す。
地元の仲買人からも「秋山魚市場がないと自分たちの商売が成り立たない」と言われる存在でありたいと日々努力している同社。3代にわたり秋山魚市場を守り続ける女性たちのさらなる活躍が期待される。