税理士事務所開業前に
すべきこと

資金繰りと資金調達

できれば借金はしたくない、と誰しも思うことですが、資金繰りに余裕がないと心も余裕がなくなり、落ち着いて事務所経営ができなくなります。
そこで、開業する時に自己資金が足りない場合は、どこからか資金を調達しなければなりません。

1.開業に必要な3つの資金

開業に必要な資金は、大きく「開業資金」「運転資金」「当面の生活費」の3つあります。
開業1年目で、それぞれ必要な資金を書き出して、整理します。

必要資金を把握することは、「実際にいくら準備すればよいのか」といった問題だけに留まりません。

  • どのくらい顧問先を増やせば良いか、年間の平均顧問報酬はどのくらいを目安にするか
  • その目標を達成するために、どのような行動をするか、どのようなサービスを提供するか。
  • また、広告宣伝費や接待交際費など営業に必要な費用と人件費をどのくらい予算化するか。

など、売上・利益と比較して、必要な費用と資金(支出)のバランスが取れているか、資金繰りと事業計画を作成します。

このとき、目標の「顧問先数×年間報酬」=売上が、1年目にすべて収入としてお金が入ってくるとは限りません。
たとえば、1年目に10件の顧問先が決まって、平均年間報酬が60万円だとします。
年間報酬の合計は600万円だとしても、1年目は顧問契約した月、顧問先の決算月の関係で売上は300万円だったということがあります。
そのため、開業1年目は、がむしゃらにお客様を増やしても売上の入金をあてにしない方が良いです。
そこで、開業時は、1年間でかかる費用(支出)と同程度の資金を準備することをオススメします。

2.金融機関からの資金調達

開業に必要な資金の全てを「貯金などの自己資金」で準備できれば良いのですが、事前に自己資金を蓄えるのは大変です。
資金調達は、金融機関からの借入金のほかに、タイミングが合えば「補助金・助成金」を利用することができます。
ここでは、一般的に金融機関からの借入れがもっとも多いと思いますので、その融資を受けるポイントを紹介します。

金融機関からの借入れを利用するメリットは、開業資金に限定された有利な借入制度が整備されている点があります。社会的にも開業(起業)をバックアップされている状況です。

また、借入の手続きを通じて、資金・事業計画書を作成するので、事業に対するアドバイスも受けられることがあります。さらに、ご自身の経営者としての「自覚」が芽生えます。

そして、借入時には、当然に「審査」があります。
金融機関の基準を満たしていなければ、融資を受けることはできません。
この借入を受けたことが良い経験となるので、今度は自分のお客様が創業融資を受けるときにアドバイスできるようになります。

貯金は当面の生活費として蓄えておき、事業資金は有利な金融機関からの借入れを利用するのが良いと思います。
どの金融機関でも「開業資金に占める自己資金は、最低3割は求められる」ことも頭に入れておきましょう。

3.どこの金融機関に創業融資の相談に行けば良いか

金融機関から見た場合、創業融資はリスクが高いです。
国の政策として、創業は地域を活性化させる起爆剤になるので、積極的に支援しています。
ですが、金融機関にも得手不得手があります。地域におけるポジショニングがあります。
そのため、金融機関の特性を見極めて、「創業融資に積極的な金融機関」に相談したいものです。

過去に冷たい経験をされたことがあったとしても、それは金融機関に合致した融資の相談ではなかったかもしれません。
自分の事業計画にあわせて、開業エリアで金融機関の優先度を定めて交渉しましょう。

では、創業融資を相談するのはどちらへ行けば良いのでしょうか。

  • 1政府系金融機関

    政府系金融機関はいくつかありますが、創業関連の融資については「日本政策金融公庫」の国民生活事業に行くのが良いでしょう。

    創業融資はリスクが高く、金融機関によっては取り組みにくい面がありますが、行政として創業を積極的に支援しています。

    政府系金融機関は、国の政策と連動した融資を取り扱っており、創業関連の融資制度も充実しています。

    ぜひ、一度、日本政策金融公庫のホームページをご確認ください。
    どれだけ創業支援に力を入れているかが分かります。
    創業の手引き、業種別の創業ポイントは必見で、自らもお客様の創業を支援するときにもとても役に立ちます。

  • 2都道府県・市区町村

    都道府県もしくは市区町村が、地元の信用保証協会と金融機関の三者で協調して、創業資金の制度融資を用意している場合があります。

    また、市区町村または商工団体等による創業支援を受けた場合に、金利優遇を設けていることもあります。

    地元の制度融資をホームページなどで探して、実際に窓口へ相談に行くことは良い経験になります。

  • 3民間金融機関

    民間金融機関は、大きく「都市銀行」(メガバンク)、「地方銀行」(地銀)、「信用金庫・信用組合」に分けられます。

    「都市銀行」は、少額の創業融資への対応には消極的な場合があります。

    「地方銀行」は、創業融資に「積極的な地銀」と「消極的な地銀」の両方があります。
    積極的な銀行は、創業に関するイベントやセミナー、相談会などの情報提供を行っている場合が多いので、それぞれ銀行の取り組み姿勢を確認することが良いでしょう。

    「信用金庫・信用組合」は、地域に根ざした協同組織です。比較的小規模の事業者を対象としているので、創業融資に積極的です。

信用金庫と銀行との違い

銀行は、株式会社であり、株主の利益が優先されます。
また、大企業を含む全国の企業などとの取引が可能です。

信用金庫は、地域の利用者が会員となって互いに地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした協同組織の金融機関で、主な取引先は中小企業や個人です。
利益第一主義ではなく、会員すなわち地域社会の利益が優先されます。
営業地域は一定の地域に限定されているので、預かった資金はその地域の発展に生かされている点も銀行とは異なります。

4.借入れは開業時のタイミングを逃すと難しくなる

一般的に金融機関が融資をしてくれるタイミングは、開業時を逃すと、2期決算が終わるまで、融資を受けるのは難しくなります。

開業して1期終えた頃に、資金が底をつき、慌てて金融機関に借入の相談をしたら断られた、という声を聞きます。
金融機関は事業性を評価して、審査して、融資するので、事業が順調にいっていない場合に、借入を相談すると難しくなってしまいます。
そのため、金融機関から創業融資を受けるならば「開業後」よりも「開業前」の方が有利なので、もし、資金繰りが苦しくなりそうだったら、開業前に創業融資を受けることを検討しましょう。

5.借りたお金の使い道

開業に必要な資金を調達できたら、その使い道をしっかりと考えておきます。
事業資金を有効に使うことで、将来の収益を生み出します。
事業資金をムダに使うことで、税理士事務所は伸びなくなります。

お金は、住宅ローンや生活費として、どんどん消えていってしまった、という声を聞きます。
それは、開業に必要な資金を準備できなかったことも要因ですが、お金の使い道にも問題があります。

  • お金が将来の事業・収入につながる

    有効な使い道
    • 1 広告宣伝になるモノ
    • 2 営業ツールになるモノ
    • 3 業務効率化を図れるモノ
    • 4 職員のモチベーション向上になるモノ
    • 5 快適な職場環境の構築になるモノ
  • お金が将来の事業・収入につながらない

    ムダな使い道
    • 1 将来の投資を全く行わず、自分の収入にする(自分の収入だけが高い)
    • 2 将来の投資を全く行わず、自分のために浪費する(高級車購入や過剰接待)

秦 勝行(はた まさゆき)

TKC全国会は、開業税理士が独立して3年間で事務所経営を軌道に乗せていただくためにニューメンバーズ・サービス委員会を設置しています。当委員会は、全国各地で活躍する約300名の税理士・公認会計士で構成されています。当サイトの記事は、この委員会で制作された独立開業ノウハウの書籍・セミナー資料をもとに執筆・編集しました。

編集責任者(執筆者) 株式会社TKC

秦 勝行(はた まさゆき)

昭和50年生まれ。千葉県出身。専修大学大学院経営学研究科経営修士課程修了。平成10年、TKCに入社。平成23年、独立行政法人中小企業基盤整備機構に出向。令和3年10月現在、SCG営業本部在籍。