税理士事務所
開業後にすべきこと
はじめての採用活動
採用に関する情報収集
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1税理士業界全体の傾向をつかむこと
自分だけじゃなくて、いま採用するのは難しい時代であることを認識します。
採用は、都市部でも地方でも、小規模事務所でも大規模事務所でも、以前と比べて苦戦している事務所が多いです。
税理士資格を目指す受験生が減少している傾向にあること、また、数年前に税理士の仕事はAIに取って代わられるという情報が流れたこともあったりして、税理士事務所で働こうとする方(求人数)は、決して多くはありません。まずは、どの事務所でも採用は苦戦している状況を受け止めます。
そのうえで、どのような人材を、どのように探すか、考えていきましょう。 -
2地域の求人情報(採用市場)を確認すること
税理士業界以外の地域(開業する周辺)における求人と採用の情報を収集します。
たとえば、都道府県の労働局のホームページで、雇用に関する統計資料を確認できます。採用市場を確認することで、次のようなことを考えます。
- 1 いま、人気がある産業はどこか
- 2 コロナで求人数が減っている業界はないか
- 3 他の業界から中途採用者を求人できないか
税理士事務所での経験者や即戦力になる人材を求めがちですが、中小企業を支援するパートナーとなる人材を、税理士業界にとらわれず、他の業種に眠っている人材を思い描いて、採用情報を発信すると効果があります。
長い目で育てることを考えると、新卒採用したいところですが、比較的年齢の若い方で中途採用も視野に入れてはいかがでしょうか。
将来的に事務所を支えてくれる良い人材に巡り会えるかもしれません。コロナで厳しくなった業種もあるので、地域の雇用を守る視点からも業界・業種にこだわらないで、求人する機会を狙っても良いと思います。
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3他の税理士事務所の求人情報を収集(競合他社の動向)
採用活動も競争です。地域の有名な税理士事務所と競うことになります。
そこで、他の税理士事務所の求人情報やどのように採用活動をしているか、情報収集することが大切です。自分の事務所で働く魅力や価値をいかに発信するか、他の税理士事務所の求人情報を収集しながら考えます。
仕事を探す側(求職者)の視点に立てば、大規模事務所で安定した職場で働きたいと思う方がいる一方で、小さな事務所でも明るく元気に自分らしく、自分を成長させてくれるような事務所で働きたい方がいるはずだ、と思えるようになります。
開業して、はじめて採用することを強みや魅力に変えて、どのように発信(求人)していけば良いか、事務所のホームページや求人票に書くと良いでしょう。
また、同じエリアの給与水準や休日などの労働条件も情報収集して、一覧にしておきます。
内定を出しても、他の税理士事務所を選ばれてしまい、競り負けることがあります。
他の税理士事務所の労働条件を把握していれば、面接時に、賃金など多少の労働条件に負けても、事務所の将来性をアピールすることで、ともに働きたくなる人材を確保することができます。このように、採用に関する情報収集はとても大切な準備です。
採用計画をつくる
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1採用のタイミング(いつ)
売上が安定していない開業当初から、毎月の人件費が発生するのは、資金繰りにも精神的にも負担になる場合があります。
でも、顧問先の拡大ばかりに気を取られ、職員の採用を後回しにしていたら、採用したときには、所長先生は忙しくて、教育する時間が十分でないため、お客さまからサービスが低下したと信頼を失墜させてしまうことがあります。だから、採用は計画的に、「採用のタイミング」が大切です。
「どのような事務所」、「どのような規模にしたいか」という事務所のビジョンをもとに、「どのタイミング・時期で職員を採用するか」をあらかじめ決めておきます。
たとえば、顧問先数と売上の目安としては、顧問先が10件~15件で、年間売上が600~800万円まで見えてきた頃までに、一人目の採用が決まったらベストです。
顧問先の拡大ペースにもよりますが、このケースで、採用活動のスケジュールは次の通りです。- 1 「事前準備」は、顧問先を5件獲得して、見込客が5件あるときに
- 2 「活動開始」は、事前準備が終わったらすぐに
- 3 「採用完了」は、顧問先が10件になるころまでに
採用活動をスタートしたら、すぐに採用が決まるわけではありません。
また、はじめての採用は「事前準備」も意外と時間がかかりますので、余裕を持って採用活動に取りかかるようにします。 -
2職員の人材像を明確にしておく(どのような人を)
インターネットで「求める人材」で検索してみてください。
大企業の採用サイト(リクルート用のウェブサイト)に、さまざまな「求める人材」が書かれています。大企業と同じような人材を求めるわけではありません。
大切なことは、はじめての採用でも、職員に求めることが、曖昧で、漠然としているまま採用活動をスタートしないでください、ということです。ともに仕事をするうえでは、「人柄が良い」ことよりも、「事務所にあった人材」という視点で人材像を具体化したほうが、雇用後にお互いのミスマッチが発生する可能性も低くなります。
「事務所にあった人材」の視点として、所長先生の思いに共感してくれるような人がひとつ目のポイントだと思います。実際に人材像を設定する際は、考えられる要素を列挙した上で、すべてを満たすということではなく、優先順位の高い要素を絞り込んでいくことがポイントです。
経験や能力・スキル、態度や姿勢、人柄などを洗い出し、求める人材像を具体的にしておきます。
そうすることで、求人募集の方法や選考の基準、面接での質問内容などがはっきりします。あとは、「数字が苦手ではない(好きな方)」「人と話すのが苦手ではない(得意な方)」など税理士事務所ならではの特性を人材像に加えていけば良いと思います。
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3求人募集の方法(どのような方法で)
開業したばかりなので、求人募集にあまりお金をかけられないと思います。
お金をかけないと、優秀な人材を採用できない、大手の税理士事務所に競り負けてしまう、と思うかもしれません。いまは、採用方法も多様化しているので、お金をかけない求人募集も沢山あります。
取り組んだ方が良い求人募集の方法(2つ)
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1ハローワークに登録する
ハローワーク(公共職業安定所)は、無料で登録できます。
求人掲載を申込みするには、管轄のハローワークで登録します。
ハローワークでは、求人に関する相談にも乗ってくださり、募集職種に対してどのくらいの求職者がいるのかも確認できます。
無料なのに、サービス・サポートが受けられるため、はじめての採用では必須です。 -
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2事務所ウェブサイトに求人情報を掲載する
事務所のウェブサイトを持っていることが条件ですが、ウェブサイトに求人情報を掲載してください。これも、はじめての採用では必須です。
事務所を調べてくれている人しか、事務所のウェブサイトは見ないかもしれませんが、それで良いのです。
ある程度、興味を持ったうえで、事務所のウェブサイトに掲載した求人を見てもらうことができます。
情報も自由に更新しやすく、求めている人材像も適時変更することができます。
お金をかけない求人募集の方法(5つ)
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1無料で掲載できる媒体を利用する
お金をかけない求人方法として、求人検索エンジンの「Indeed」「engage」や地域別の情報サイト「ジモティー」など無料で掲載できる媒体を利用する方法もあります。
ただし、求人の掲載自体にはお金がかからなくても、採用時に支払いが必要となったり、有料の広告掲載を勧められたり、と結果的に費用がかかる媒体もありますので、注意してください。 -
2「外部のブログサービス」等を活用する
事務所のウェブサイトとは別に、「note」などのウェブサービスを活用するのも手です。
たぶん、周りの事務所で「note」を活用して採用活動をしている人は少ないと思いますので、チャンスだと思います。「note」は、ブログのように手軽に情報を発信できるサービスで、求人情報を埋め込む機能が実装されている点も特長です。
採用活動の一環として社員インタビューや取り組みを発信している企業もあり、求職者の情報収集にも役立てられています。 -
3SNSで求職者を募る
税理士業界では、一般的にSNSでリクルート活動をしているケースは少ないのでチャンスだと思います。
SNSでの採用活動は「ソーシャルリクルーティング」とも呼ばれ、情報発信の手軽さや拡散力の高さなどから注目を集めています。
ただしSNSでの採用活動は炎上などのリスクがある点も考慮したいポイントです。
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4リファラル採用に取り組む
いま、リファラル採用が中小企業にとっても有力な採用戦略のひとつだと注目されています。
リファラル採用とは、会社が自社の社員に人材の紹介を受ける採用手法です。開業したばかりで職員がいないので、社員を所長先生自らに読み替えて、ご自身で人材の紹介を受けるように、ピンポイントで走り回ります。意外と効果があります。
所長先生の出身校、専門学校、ゼミ、サークル、アルバイト先など想定される交友関係の中から狙い撃ちして、「税理士事務所を開業したんだけど、一緒に中小企業を支援する仲間を探している・・・」と声をかけてみてはいかがでしょうか。 -
5 チラシやポスターを設置する
アナログな手法ではありますが、事務所の立地条件によっては、求人募集する際のチラシ・ポスターも効果的です。
手書きやパソコンで作成したものを、知り合いのお店などに掲示・設置をお願いするだけなので、ほとんどお金はかかりません。
また、近隣の学生等をターゲットにする場合は駅や大学の掲示板にポスターを貼らせてもらう方法もあるので、多くの人の目に触れさせたい方は各機関に申し込むのもよいでしょう。ただしチラシやポスターはお店を利用した人や近隣住民のみが対象となるため、目覚ましい効果は得られない可能性もあり、立地によります。 また、できるだけ早く採用を進めたい場合は別の手法を選択するのがよいでしょう。
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TKC全国会は、開業税理士が独立して3年間で事務所経営を軌道に乗せていただくためにニューメンバーズ・サービス委員会を設置しています。当委員会は、全国各地で活躍する約300名の税理士・公認会計士で構成されています。当サイトの記事は、この委員会で制作された独立開業ノウハウの書籍・セミナー資料をもとに執筆・編集しました。
編集責任者(執筆者) 株式会社TKC
秦 勝行(はた まさゆき)
昭和50年生まれ。千葉県出身。専修大学大学院経営学研究科経営修士課程修了。平成10年、TKCに入社。平成23年、独立行政法人中小企業基盤整備機構に出向。令和3年10月現在、SCG営業本部在籍。