「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬や業績連動報酬の導入等~

第1回 新たな株式報酬や業績連動報酬の導入等(その1)

更新日 2016.07.11

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アヴァンセコンサルティング株式会社

アヴァンセコンサルティング株式会社
 TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
  公認会計士・税理士 大野 崇
  公認会計士・税理士 野村 昌弘

本年4月に経済産業省より『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』が公表されました。当コラムでは、2回にわたりこの手引の主な内容を解説します。

1.はじめに

 2016年4月に経済産業省産業組織課より、『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』が公表されました。政府は、日本再興戦略のもと、我が国のコーポレートガバナンス強化に向けた複数の施策を実施しています。その中で、我が国企業の「稼ぐ力」向上に向けた「攻めの経営」を促し、企業経営者に中長期的な会社の業績等を反映させた適切なインセンティブを付与するため、役員給与における多様な株式報酬や業績連動報酬の導入促進等を図ることとされています。これを受けて、コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会での整理等を踏まえ、「攻めの経営」を促す役員給与等に係る税制の整備、新たな株式報酬の導入・利益連動給与に関するQ&Aをまとめたものが、本手引となります。今回と次回にわたって、本手引の主な内容を解説します。

2.業績連動・株式報酬の現状

 現状、我が国企業の役員報酬は固定報酬中心であり、英米と比べ、業績連動報酬や株式報酬の割合が低く、業績向上のインセンティブが十分働いていない状況です。

 また、日本では、欧米で一般的に利用されている株式報酬の手法(パフォーマンス・シェア、リストリクテッド・ストック等)が未発達です。欧米では極めて一般的である株式保有ガイドラインでは、例えばCEOは在任中には年間基本報酬の3~5倍相当の株式を継続保有することを求めています。実際に経営者の株式保有数は投資の一判断要素ですが、日本では経営者が自社株を持つ割合は少ない状況です。

 今後、こうした報酬体系の違いが、グローバルに経営人材を獲得し、我が国の有能な経営人材と統一的な管理を行う体制の構築に障害となる可能性があります。
 これに対して、特に、株式報酬は経営陣に株主目線での経営を促したり、中長期の業績向上インセンティブを与えるといった利点があります。その導入拡大は海外を含めた機関投資家の要望に応えるものであり、我が国企業の「稼ぐ力」の向上に資すると考えられています。

3.株式報酬の種類

 中長期の業績向上インセンティブを与える株式報酬の手法として以下の4つを確認します。

(1) パフォーマンス・シェア

 パフォーマンス・シェアとは、中長期的な業績目標の達成度合いによって交付される株式報酬です。
 具体的な支給方法として、中長期の業績目標の達成度合いに応じ、現物の株式の譲渡制限を解除し、残りの株式については、役員から無償取得する方法があります(初年度発行-業績連動譲渡制限解除型)。また、当初時点では株式を付与せず、業績評価期間終了時(制限解除時)に普通株式を付与する方法もあります(業績連動発行型)。

(2) リストリクテッド・ストック

 一定期間の譲渡制限が付された現物株式を報酬として役員に付与するものです。

(3) 株式交付信託

 報酬相当額を信託に拠出し、信託が当該資金を原資に市場等から株式を取得した上で、一定期間経過後に役員に株式を付与するものです。GMOペイメントゲートウェイ(2012年)、武田薬品工業(2014年)が採用し、最近は採用する企業が増加しています。

(4) ストックオプション

 自社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で購入する権利を付与するものです。権利行使価格を低廉な価格とすることで、株式保有と類似した状態を実現する株式報酬型ストックオプション(1円ストックオプション)の利用も近年増加しています。全上場企業のうち1年間(2013年7月から2014年6月まで)の集計によれば、ストックオプションを付与した企業は535社、そのうち株式報酬型ストックオプションは379社となっており、日本では最もポピュラーな方法です。

4.株式報酬にかかる会社法上の整理

 我が国では、会社法上、無償で株式を発行することや労務出資が認められていなかったため、役員に報酬として株式自体を直接交付することができませんでした。また、近年では、「信託」を用いた新しい株式報酬が導入され始めていたものの、いまだ株式報酬を導入するための仕組みが十分に整備されているとはいえない状況でした。
 この点について、2015年7月に公表された「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書において、実務的に簡易な金銭報酬債権を現物出資する方法を用いて、いわゆるパフォーマンス・シェアやリストリクテッド・ストックを導入するための手続が整理されました。このうち、リストリクテッド・ストックについては、報告書の法的論点に関する解釈指針において、以下の一連の手続が示されました。

  1. ①法人が役員に対して金銭報酬債権を付与
  2. ②役員が金銭報酬債権を現物出資財産として払い込み
  3. ③法人が役員に対して株式を交付する

 これに伴い、2016年6月の株主総会で市光工業株式会社、株式会社ネクストジェン、横河電機株式会社等が譲渡制限付株式報酬制度の導入を決議しました。

プロフィール

アヴァンセコンサルティング株式会社
 TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
  公認会計士・税理士 大野 崇(おおの たかし)
  公認会計士・税理士 野村 昌弘(のむら まさひろ)

著書等
  • 『グループ経営をはじめよう~非上場会社のための持株会社活用法(第3版)』(共著・税務経理協会、2016年)

「税務QA」「税経通信」「日経産業新聞」などにも執筆。

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