グループ経営のための連結決算

連結決算書を見るポイント

更新日 2013.01.28

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あがたグローバル税理士法人

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
公認会計士・税理士 大野 崇、野村 昌弘
公認会計士     稲垣 泰典

上場会社では当たり前になった連結決算。情報開示という面が強く認識されていますが、グループ経営の意思決定のための会計として、時として非上場会社にも連結決算・連結管理会計の導入が必要なのではないでしょうか?

このコラムでは、連結決算を組むメリット、単純合算では見えてこない点、グループ経営のためのキャッシュ・フロー計算書、決算早期化、予測連結、海外子会社の連結等、上場/非上場に関わらず、グループ経営の観点から連結決算を分かりやすく解説します。

 今回は、連結決算書を見るポイントを説明します。
 通常、決算書の財務分析は期間比較や同業他社比較を行います。期間比較では前期、前々期の決算書と比較することで企業の趨勢を見ることができ、対四半期の決算書からは売上の季節要因などが分かります。また、同業他社との比較ではその企業の業界におけるポジション、強みと弱みが見えてきます。分析対象として収益性指標(売上高、利益)や効率性指標(ROE)、安全性指標(流動比率)等が考えられます。
 一般的には、上記の財務分析は連結決算書同士、もしくは個別決算書同士の比較で行います。今回はより深く連結決算書を読むために、連結と個別の比較を取り上げます。すなわち、「連結財務諸表-個別財務諸表」や、「連結財務諸表÷個別財務諸表」から算出される数値が分析の対象です。連結と個別を比較することで、個別財務諸表だけではわからない子会社や連結仕訳の状況を推測することができます。

(1)連結損益計算書

連結売上高
-個別売上高
子会社が獲得した売上高と、連結上消去された関係会社間売上高(マイナス)の合計を表します。この数値が低ければ、子会社の売上規模が大きくない、あるいは親子会社間の売上高の割合が高いことを示します。
連結営業利益
-個別営業利益
子会社が獲得した営業利益と、連結上の未実現利益の調整額(未実現利益の消去あるいは実現)の合計を表します。
連結営業外損益
-個別営業外損益
子会社が計上した営業外損益と、連結上消去された関係会社間取引の合計を表します。
子会社から受領している配当金が多ければ営業外損益の連単差異が大きくなります。
持分法投資損益は関連会社に対する投資成果を表します。なお、有価証券報告書上の連結貸借対照表注記に「非連結子会社及び関連会社に対する投資額」が注記され、(非連結子会社に対する投資額が重要でないという前提で大まかに)持分法投資損益考慮後の関連会社に対する投資額が分かります。
(連結)特別損益
-(個別)特別損益
子会社が計上した特別損益にどのような項目があるかを確認できます。
(連結)税金負担率
-(個別)税金負担率
親会社と子会社の税金負担率の差異を表します。
(連結)税金負担率の方が大きい場合、例えば次のようなことが考えられます。
  • 子会社で交際費等の加算項目(永久差異)で重要なものがあった。
  • 子会社で繰延税金資産の取崩し等、評価性引当額が増加した。
  • 親会社の税金計算上減算していた受取配当金の益金不算入額を連結手続上相殺消去した。
  • 連結手続上のれんの償却額を計上した。
  • 日本よりも高税率の国で子会社展開をしている。

なお、有価証券報告書上の税効果注記で法定実効税率と税金負担率との差異が注記されます。

少数株主利益 親会社が100%保有していない子会社で、持分比率に応じた少数株主(親会社以外の株主)に帰属する利益を表します。

(2)連結貸借対照表

(連結)純資産
÷(個別)純資産
連単倍率が1を下回っている場合、連結上は子会社の純資産のマイナスを取り込んでいるが、個別上はその含み損が顕在化していない状況を表します。つまり、不採算の子会社を抱えており、かつ親会社の個別財務諸表上特に子会社株式を減損処理していないことが想起されます。
(連結)時価総額
÷(個別)時価総額
親子上場している場合で、親会社の時価総額が子会社の時価総額より小さい場合、より少ない金額で子会社の経営支配権も獲得できるため、買収されるリスクが高まります。
のれん 親会社の投資と子会社の資本の相殺消去時に生じる差額であり、企業にとっての超過収益力を意味します。
のれんはその効果が及ぶ期間(最長20年)にわたって償却することとされています。このため、のれんの償却額とその子会社の営業利益を比較することにより、超過収益力を維持しているのか、あるいはのれんの価値がすでに毀損しているのかを判断できます。
為替換算調整勘定 海外子会社の純資産のうち親会社持分に帰属する、為替レートの変動により生じた含み損益を表します。この含み損益は海外子会社を清算や売却する時に実現します。

(3)セグメント情報

 セグメント情報は企業が経営にかかわる意思決定をするため、及び業績評価を行うために重要な情報です。
 セグメントは"事業"単位で集約しますが、経営管理の目的により"地域"や"顧客"単位で集約することも考えられます。"事業"で区分けされたセグメント情報は、積極的に事業の多角化を行ってきた企業を分析する場合に重要です。"地域"で区分けされたセグメント情報は、国際化の進んでいる企業の地域別の収益貢献度や事業効率性を理解する手掛かりを与えてくれます。
 各セグメントの収益貢献度や効率性、グループ経営の中での位置付け、そして「有形固定資産及び無形固定資産の増加額」から、企業の経営資源配分の考え方も読み取れます。通常、企業の屋台骨となる収益事業に多くの経営資源を配分し、不採算事業は投資額の削減ないし事業の撤退を検討しますが、今後の成長が見込まれる分野は不採算であっても投資を続けるかもしれません。また、各セグメントの「営業利益」と「減価償却費」が分かればEBITDA(earnings before interest,taxes,depreciation,and amortization)を計算し、事業価値の評価に活かすことができます。

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