更新日 2012.12.03
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
公認会計士・税理士 大野 崇、野村 昌弘
公認会計士 稲垣 泰典
上場会社では当たり前になった連結決算。情報開示という面が強く認識されていますが、グループ経営の意思決定のための会計として、時として非上場会社にも連結決算・連結管理会計の導入が必要なのではないでしょうか?
このコラムでは、連結決算を組むメリット、単純合算では見えてこない点、グループ経営のためのキャッシュ・フロー計算書、決算早期化、予測連結、海外子会社の連結等、上場/非上場に関わらず、グループ経営の観点から連結決算を分かりやすく解説します。
企業経営においては、事業活動によりキャッシュを生み出し、企業経営を永続的に続けていくことが最も重要になります。たとえ利益を計上していたとしても、キャッシュが回らなければ会社は続いていきません。その企業経営に重要なキャッシュの動きがわかる決算書がキャッシュ・フロー計算書であり、連結ベースで作成したものが連結キャッシュ・フロー計算書です。
(1)連結キャッシュ・フロー計算書とは
連結キャッシュ・フロー計算書とは、その企業グループが1年間でキャッシュ(現金及び現金同等物)をどのように獲得し、どのように使用したかを表す決算書です。連結キャッシュ・フロー計算書では、1年間のキャッシュの増減を営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー及び財務活動によるキャッシュ・フローの3つに区分して表します。
連結キャッシュ・フロー計算書の中で、営業活動によるキャッシュ・フローは、図表1のとおり直接法と間接法という2種類の表示方法があります。直接法とは主要な取引ごとに収入、支出を表示する方法です。また、間接法とは純利益に調整項目を加減して表示する方法です。直接法は全ての取引から営業取引に該当する収入、支出を集計しなければならないため作成作業は煩雑になります。よって、実務上は間接法を採用することが一般的です。
間接法によるキャッシュ・フロー計算書は、一般的には、図表1のように税金等調整前当期純利益という利益から始まり、売上債権、仕入債務等の資産負債の増減が計上されます。この営業活動の仕組みは、下記の図表2から説明することができます。
図表2に期首と期末の貸借対照表があります。この期間の貸借対照表の各項目の増加は「貸借対照表の増減」のように表され、現金は20増加しています。「貸借対照表の増減」の貸借がバランスしているところから、現金の増加20を求めるためにその他資産を貸方に移動させると間接法の営業活動によるキャッシュ・フローの考え方になります。
投資活動によるキャッシュ・フローは、固定資産の取得及び売却などの設備投資、有価証券の取得及び売却など投資に関する以下のような取引が記載されます。
- 固定資産の取得支出、売却収入
- 有価証券の取得支出、売却収入
- 貸付による支出、貸付の回収による収入
また、財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の借入れによる収入や返済による支出、増資による収入、配当金の支払いなど財務に関する以下のような取引が記載されます。
- 株式の発行による収入
- 配当金支払い
- 社債の発行による収入、償還による支出
- 借入金の借入れによる収入、返済による支出
(2)キャッシュ・フローの重要性
キャッシュ・フローが損益とともに重要であると言われているのは、損益の計上時点とキャッシュの動きが異なるからです。例えば、売上を計上していても、売上代金の回収がなければ、利益は計上されますがキャッシュの増加はありません。売上代金の回収よりも仕入代金の支払いサイトが短ければ、売上が増加すればするほど仕入代金の先払金額が増加しキャッシュが足りなくなります。
実際に利益を計上していたとしても、資金が回らずに倒産する上場会社も過去にありました。倒産まではいかなくとも、キャッシュ・フローの状況を把握し、いかに効率的な資金管理を実施していけるかは、企業経営にとって重要な課題であるといえます。
キャッシュ・フロー計算書を見た時に、営業活動によるキャッシュ・フローにおいてキャッシュを獲得しているかどうかが重要です。また、それだけでなく営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリーキャッシュ・フローも重要です。事業を行うためには当然投資活動が必要ですが、営業活動に比べて多額の投資を行っていた場合には、フリーキャッシュ・フローがマイナスになります。フリーキャッシュ・フローが大幅にマイナスである場合には、キャッシュが不足し借入等の財務活動による資金調達が必要になります。したがって、成長性のある事業に投資している場合は別ですが、フリーキャッシュ・フローがマイナスにならない形で経営していくことが、会社の財務体質を強くするといえます。
また、キャッシュ・フローの情報は、グループ会社を多く持つグループにとっては、個々の会社のキャッシュ・フローよりもグループ全体としてのキャッシュ・フローが重要です。上記のフリーキャッシュ・フロー等のグループ全体でのキャッシュの状況を把握できるためです。
以上のように、連結キャッシュ・フロー計算書を作成することで、グループ全体のキャッシュ・フローの状況を把握することができます。したがって、グループ全体の損益を把握するのと同時に、グループ全体のキャッシュの動きが把握できる連結キャッシュ・フロー計算書を作成し、分析することがグループ経営の観点から必要不可欠です。
プロフィール
公認会計士・税理士 大野 崇、野村 昌弘
公認会計士 稲垣 泰典
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
ホームページURL
あがたグローバル税理士法人
あがたグローバルコンサルティング株式会社
免責事項
- 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
- 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
- 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。