更新日 2012.10.09
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
公認会計士・税理士 大野 崇、野村 昌弘
公認会計士 稲垣 泰典
上場会社では当たり前になった連結決算。情報開示という面が強く認識されていますが、グループ経営の意思決定のための会計として、時として非上場会社にも連結決算・連結管理会計の導入が必要なのではないでしょうか?
このコラムでは、連結決算を組むメリット、単純合算では見えてこない点、グループ経営のためのキャッシュ・フロー計算書、決算早期化、予測連結、海外子会社の連結等、上場/非上場に関わらず、グループ経営の観点から連結決算を分かりやすく解説します。連結決算書を利害関係者への報告のためだけではなく、グループ経営戦略の立案やグループ管理を実施するために活用していくことが求められます。そのために、単体における管理会計の考え方を連結決算に応用した『連結管理会計』という視点が必要になってきます。そこで、今回は、連結管理会計の導入の2つ目の項目として、変動損益計算書の活用を考えてみます。
1.変動損益計算書とは
変動損益計算書とは、原価を変動費と固定費に区分して作成した損益計算書をいいます。変動費と固定費に区分することにより、生産量等に左右されない採算性をみることができるとともに、損益分岐点売上高などの把握にも役立ちます。
変動損益計算書は、制度会計上認められた方法ではなく、あくまでも管理会計目的で作成される点に注意が必要です。
この変動損益計算書の例を示したのが図表1になります。
変動損益計算書の特徴は、売上高から変動費を差し引いた利益が貢献利益と表示されているところにあります。貢献利益は売上の増減に応じて変動する単位あたりの利益を合計したものです。
2.変動損益計算書の効果
変動損益計算書を作成すると、損益分岐点も把握することができます。
損益分岐点を求める算式は、以下のとおりになります。
損益分岐点の販売量=固定費 ÷ 販売単位当たりの貢献利益
損益分岐点の販売量ではなく、損益分岐点売上高を求める算式にするには、以下のように貢献利益ではなく貢献利益率を使うことになります。
損益分岐点売上高=固定費 ÷ 貢献利益率
(貢献利益率=貢献利益÷売上高)
図表1の変動損益計算書の数値を使って、損益分岐点売上高を算定すると以下のとおりになります。
固定費5,200 ÷(貢献利益6,400÷売上高10,000)
=損益分岐点売上高8,125
損益分岐点売上高を把握することにより、損益が均衡する売上高を知ることができます。また、現在の売上高が今の損益分岐点からどれだけ余裕があるかを示す指標が安全余裕率であり、現在の売上高から何パーセント減少すると損益分岐点になるかを把握できる指標になります。安全余裕率は下記の計算式により算定されます。
安全余裕率=(売上高-損益分岐点売上高)÷売上高×100
図表1の変動損益計算書の数値を使って、安全余裕率を算定すると以下のとおりになります。
(売上高10,000-損益分岐点売上高8,125)÷売上高10,000×100=18.75%
以上の結果を図表化すると図表2のとおりになります。
3.損益分岐点による会社分析
変動費と固定費を分けることにより、会社の費用構造の特徴をみることができ、売上高が増減した時の損益に与える影響が異なることがわかります。
この点について、売上高、営業利益が全く一緒のA社及びB社の損益計算書を見てみたいと思います。A社は固定費の割合が少なく変動費の割合が多い会社で、B社は固定費の割合が多く変動費の割合が少ない会社です。
A社は固定費の割合が低いので、損益分岐点がB社に比べて低く、少ない販売量で黒字化することがわかります。これに対してB社では、損益分岐点売上高が9,412と高く、そこまで売上高をあげないと黒字化できないことがわかります。
また、次のようなこともわかります。A社では売上高線と総費用線との傾きがあまり変わらないため、損益分岐点より多く販売したとしても、それほど利益はあがりません。B社は損益分岐点を超えるまでに多くの販売量が必要ですが、一旦超えてしまうと多くの利益を計上できる会社といえます。反対に、販売量が減少した場合には、B社は固定費を回収できないため多くの損失を計上してしまいます。
このような費用構造は、業種等によっても異なってくるため、どちらが良いとは一概には言えませんが、一般的に固定費が大きいと黒字転換に苦労するといえるでしょう。
4.連結での活用
今までの話は、単体ベースにおける変動損益計算書の話になりますので、連結ベースでの活用を考えてみます。連結グループにおいて様々な事業を行っている場合には、単純に連結決算書を用いた損益分岐点分析はあまり意味を持ちません。しかし、複数の会社が同じ事業を営んでいる場合や製造会社と販売会社で分かれている場合などには、個々の会社単位で損益分析するよりも事業グループ単位で見た方が実態を表します。
したがって、その事業を営む会社の損益を合算し、内部取引及び未実現利益を消去した金額により損益分岐点分析を実施することは、事業の状況を把握するのに有用であるといえます。
図表5において、親会社で製品を製造し子会社で販売しているような親子会社の変動損益計算書の単純合算と連結ベースにおける金額を記載し、その金額をもとに損益分岐点売上高等の指標の比較を図表6で行っています。
図表5、6を見ると、個々の決算や単純合算では利益を計上しており、損益分岐点売上高も超えています。しかし、同じ事業を営んでいる親子会社の連結決算書ベースでは、貢献利益率は高くなったものの、固定費を回収できず損益分岐点売上高を下回っていることがわかります。
これは個々の決算や単純合算では、連結会社間の未実現利益が計上され、グループの内部利益が計上されたままになっているため、連結ベースの金額と差異が生じたといえます。連結ベースではグループ内の未実現利益の消去により営業損失になることがわかります。
このように、個々の決算や単純合算では見えない特徴が、連結の視点を取り入れた変動損益計算書を導入することにより見えてきます。このような結果を把握することで、連結ベースで重複した固定費の削減等の対策を講じるきっかけを作れるものといえます。
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