TKCの金融機関向けフィンテックサービスをベースにした新しい融資商品「当座貸越クイックTKC」の取り扱いをスタートした長野県信用組合。黒岩清理事長、越川豪理事、竹内三明経営支援部部長に、TKC会計人の伊坪眞税理士と飯沼新吾税理士が商品開発の設計思想などを聞いた。
伊坪 長野県信用組合さまの特徴をご紹介ください。
黒岩 創業以来63期にわたり、長野県の経済を担ってきたと自負しています。現在、51店舗を運営。昨今とりざたされている「金融仲介機能」の役割については、信用組合としての元々の成り立ちからも特に力を入れており、地元企業の課題解決を支援するための融資やコンサルティング活動を積極的に行っています。
事業性評価にもとづく融資
伊坪 長野県の経済情勢をどのように見ていますか。
黒岩 全国的に景気の長期低迷が続いていますが、長野県もその影響を免れていません。そうしたなかで私たちが果たすべき役割は、当組合のスローガンとしても掲げている「地域の魅力をプロデュース」することだと考えています。地元の観光や農業の6次産業化によって生み出された商品をPRしたり、製造業が盛んな「ものづくり県」としての魅力をうまく情報発信していきたいですね。
伊坪 平成27年度の金融行政方針では、金融機関に対し融資判断の際の「事業性評価」と、「フィンテック対応」を求めています。それぞれの取り組み方針をお聞かせください。
黒岩 取引先企業の今後の成長可能性や、現在直面している経営課題をきちんと認識することを、事業性評価にもとづく融資をしていくうえでの基本方針としています。またフィンテック対応については、TKCさんが提供する金融機関向けフィンテックサービス「TKCモニタリング情報サービス」を利用した取り組みを開始しています。
伊坪 TKC関東信越会と連携協定の「覚書」を締結したのは、どのようなお考えからだったのでしょうか。
黒岩 TKCの税理士・公認会計士の皆さんが、関与先企業と親密な関係を築きながら優れた活動をしていることに共感し、6年ほど前に覚書を締結しました。以来、「経営改善計画策定支援事業」を協力して行うなど、TKCの先生方とのコミュニケーションを活発化させています。
経営状況を迅速に把握できる
飯沼 長野県の金融機関として最初に、TKCモニタリング情報サービスを採用いただいた理由を教えてください。
竹内 通常、私たち金融機関が取引先企業の経営状況を知るためには、その企業に出向いて社長にヒアリングをしたり、各種資料をもらったりというプロセスを踏まなければなりません。ところがTKCモニタリング情報サービスを利用すれば、TKCの先生方の指導のもとに作成された信頼性の高い決算書等のデータを、インターネット経由でタイムリーに提供してもらうことができます。情報を入手するタイミングが早ければその分、経営課題の解決に向けた支援をよりスピーディーに行えます。事業性評価に対してもまさに直結するサービスであることから、採用をためらう必要はないと感じました。
飯沼 同サービスには、「決算書等提供サービス(年1回)」「月次試算表提供サービス(月1回)」「最新業績開示サービス(開発中)」の3種類があります。貴組合の融資政策において優先順位はありますか。
竹内 TKCモニタリング情報サービスは、私が所属している経営支援部において、取引先企業の「経営課題の解決」に活用できると考えています。一方で、越川理事が審査部長を兼務している審査部については、とくに「事業性評価」とリンクします。どちらの視点から見ても、提供いただける情報は新しければ新しいほどありがたいです。企業は生き物ですから、1年前の診断結果よりも、1カ月前の診断結果のほうが健康状態を正しく把握できるのです。
越川 事業性評価は、決算書の内容や担保・保証に必要以上に依存することなく、事業内容や成長可能性なども評価して行う融資のことであって、企業のデータを月次で提供してもらえるのは、その企業の成長可能性などを見極めるうえでの大きな判断基準になり、本当にありがたいですね。
「当座貸越」の新商品を開発
当座貸越クイックTKC
飯沼 TKCモニタリング情報サービスを利用するTKC関与先企業を対象にした「当座貸越クイックTKC」の取り扱いを昨年11月から開始しています。このローンはどのような設計思想で作られたのでしょうか。
竹内 TKCモニタリング情報サービスの利用を推進するにあたり、何らかのインセンティブを与えられるようなローンを開発したいと考えたところ、多くの中小企業が日頃から不安に感じている瞬間的な資金不足を解消してあげられるような「当座貸越」の商品がよいだろうという話になりました。さらにタイムリー(T)、簡単(K)、コストカット(C)の3つの特徴をもたせた商品に仕上げました。原則無担保・無保証で、融資限度額は上限1億円(ただし平均月商の2倍以内)。融資期間は6カ月ごとの自動更新としました。専用伝票を1枚提出すれば、限度額の範囲内でいつでも繰り返し利用できます。
黒岩 「お客さまにとって使い勝手がよい商品は何だろう」と考えるなかで出てきたのが当座貸越でした。おかげさまで新規のお客さまを含め、多くの企業から注目を集める商品となっています。
飯沼 「当座貸越クイックTKC」は金融庁が志向する「短期継続融資」に応えた商品と考えることもできるかと思いますが、商品企画設計の段階でそのような検討はなされましたか。
越川 あくまで中小企業がいま何を一番金融で求めているかということが入り口で、それが結果的に金融庁の志向しているところと一緒だったのではないかと思っています。
伊坪 「当座貸越クイックTKC」と同じような商品を他の金融機関でも出しているのでしょうか。
竹内 おそらくないと思います。全国の金融機関に先駆けての取り組みだと言えるでしょう。
伊坪 今後、TKC会計人に期待することはありますか。
越川 職員向けの勉強会の講師をお願いするなど、両者が協力しての活動をもっと増やしていきたいですね。団塊の世代の職員が抜けたこともあり、いまは企業分析の勘どころを上手に教えられる人間が減ってきていることから、ぜひとも会計の専門家であるTKCの先生方の力を借りたいと思っています。