滋賀県東部に位置する東近江市は企業誘致に積極的で、市内には大企業の工場がいくつもある。サブコンを通じて、それらの工場の配管設備工事(空調など)を広く請け負っているのが、湖東総合システムだ。村田製作所をはじめ、さまざまな企業の仕事を数多く手がけてきた。その実力は、サブコン各社が高く評価するところだ。
「当社の強みは、高品質かつ短納期での施工ができる点にあります」と、山上泰央社長(53)は胸を張る。
溶接不要の特殊な工法
自社工場の専用加工機を使ってパイプを加工
一般的な配管設備工事の場合、現場でパイプをつなぎ合わせるための溶接作業が必要になる。しかし、同社ではその溶接作業を必要としない特殊な工法を10年以上前から取り入れている。それが、「ジャストフレア工法」で、①専用加工機を使ってパイプの端をツバ出し加工→②ルーズフランジとパッキンを装着→③ボルトとナットで締め付けるといった流れで進む。同社の場合、①を自社工場内で、②③を施工現場となる大企業の工場などで行っている。
「火を使わないため、火災や有害ガスを発生させる心配はありません。また、溶接よりも作業時間がかからないので、工期の短縮につながるというメリットもあります」
ジャストフレア工法を開発したのは、福島県郡山市に本社を置く日商テクノという会社。そのネットワークにいち早く参画することで山上社長は周辺の同業者との差別化を図った。この戦略は見事に当たり、サブコン各社の信頼獲得につながった。
「ジャストフレア工法を他社に先駆けて採用したのは、大きなアドバンテージになりました。ただ最近は、この工法を取り入れる同業者が増えてきたので、油断はできません」
同社が、チーズ継ぎ手や溶接作業を必要としない「バーリング工法」などに対応できるようにしたり、「1級管工事施工管理技士」などの資格取得を奨励して従業員のレベルアップに努めているのは、そうした危機意識の表れでもある。
財務データを積極的に提供
一方で山上社長は、三須宗次税理士の指導のもとに業績管理にも力を注いでいる。三須税理士には自社の会計参与(※1)に就任してもらい、月次決算体制の確立や書面添付(※2)の実践に取り組んできた。
そんな三須税理士の勧めで利用を始めたのが、「TKCモニタリング情報サービス」だった。TKC会員(税理士・公認会計士)が、関与先からの依頼に基づき、決算書や月次試算表等の財務データを金融機関に提供する無償のクラウドサービスである。それらの財務データは、税理士の指導のもとに作成されているので、その信頼性の高さは折り紙つきだ。
同サービスには、法人税の電子申告後に、決算書や申告書のデータを提供する「決算書等提供サービス」や、TKC会員による月次巡回監査の終了後に月次試算表等のデータを提供する「月次試算表提供サービス」などの種類がある。山上社長が、まず利用したのは決算書等提供サービスで、昨年10月に決算を迎えた後、取引のある地域金融機関のうち2行(滋賀銀行、関西アーバン銀行)に、インターネット経由でデータを送ったという。
「従来は、融資担当者が忙しい年末を避けて、年明けの1月を待ってから金融機関への決算報告を行っていました。TKCモニタリング情報サービスを利用することにより、そのタイムラグがなくなりました」
その後、月次試算表提供サービスの利用も開始。こうした積極的な情報開示の姿勢が銀行の担当者に好印象を与えたのか、必要な運転資金をすんなりと融資してもらうことができるようになった。
ローカルベンチマークを作成中
いま山上社長は、湖東総合システムをさらに強い会社にしようと、国の「早期経営改善計画策定支援」制度を利用して、中長期の経営計画を作ることに取り組んでいる。その中長期計画を金融機関に提出することも考えており、より良好な関係構築を狙う。その計画策定をサポートするのが、認定支援機関(※3)である三須税理士だ。会社の経営状態を金融機関などが把握するうえでのツールとなる「ローカルベンチマーク」も提出しようと、現在作成にあたっている。
ローカルベンチマークは、「財務情報(6つの指標)」と「非財務情報(4つの視点/商流・業務フロー)」をもとに会社の経営状態を分析できるところに特徴がある。経済産業省が公式ツールを作成・公表しているが、それをもとにさらに情報を追加したものが「TKCローカルベンチマーク・クラウド」で、クラウドの仕組みを利用して顧問税理士が作成を支援することができる。三須税理士はこれを活用して、湖東総合システムの業績をBAST(TKC経営指標)の業種データとも比較し、ローカルベンチマークに記載する。同社の場合、売上高の増加率や収益性などが非常に高い。
山上社長は「将来的には、電気や計装関係の工事にも対応できる『総合設備業』の会社に進化させていきたい。それが今の目標です」と語る。さらなるステップアップを実現するには、金融機関とのより密接な関係を構築していくことが必要。そのための準備がいま、着々と進められている。