「すごいですね」
加藤大常務取締役
プラスチック射出成形金型を製造する恵那三洋製作所のもとに、取引先の金融機関から電話があったのは、昨年10月。TKCの金融機関向けフィンテックサービス「TKCモニタリング情報サービス」を利用して、初めて月次試算表をインターネットで提供した翌日のことだった。
常務取締役の加藤大(37)さんは「このサービスを使うことで金融機関との関係がますます強まるのではないかと期待しています」と語る。
TKCモニタリング情報サービスには、①決算書等提供サービス(年1)、②月次試算表提供サービス(月1)、③最新業績開示サービスの3つがあるが、同社が利用したのは②だった。これは、TKC会計事務所による巡回監査と月次決算の終了直後に、金融機関に対して月次試算表などのデータをインターネット経由で提供するというものだ。
以前は車で往復1時間
浅野雅大税理士
実はもともと同社では、月次試算表を取引先の大垣共立銀行と岐阜信用金庫に毎月提出していた。ただ、恵那三洋製作所のある場所は市街地から少し離れた山あいの場所にあるため、車でそれぞれの支店に行くにしても往復1時間はとられてしまう。
「それがインターネット経由で提供できるようになったわけだから、だいぶ便利になりました」
税務顧問を務める浅野雅大税理士は、新たにTKCモニタリング情報サービスがはじまることを知って、まっ先に思い浮かんだのが恵那三洋製作所だったという。「金融機関に対して毎月試算表を提出している会社はそれほど多くない。まさにこの会社のためにあるサービスではないかと思いました」(浅野税理士)。
その後、話はとんとん拍子に進み、昨年10月にTKCモニタリング情報サービスがはじまったのにあわせて、恵那三洋製作所は取引のある両金融機関に9月分の試算表データを送った。会計事務所のお墨付きを得た信頼性の高い月次試算表がインターネットで提供されるというのは金融機関にとって初めてのことで、それが冒頭の「すごいですね」との言葉につながった。
「最近は金融機関におじゃましても、支店長さんから直接声を掛けてもらえています。うそ偽りなく数字を開示することで信頼感が得られているためか、『ビジネスマッチング』の相手先を紹介してもらえるケースも増えています」(加藤常務)
「金型119番」サービス
そもそも恵那三洋製作所はなぜ以前から取引金融機関に月次試算表を提出していたのか。それは同社が『経営改善計画策定支援事業』を活用した取り組みをしていたことと関係がある。
「リーマンションをきっかけに売り上げ減少に見舞われました。そのピンチを乗り切るために利用したのが『経営改善計画策定支援事業』でした。経営改善計画を作り、2010年10月から1年間にわたる返済猶予を金融機関に合意してもらいました」(同)
このときの経営改善計画のなかで一番のポイントとしたのが、他社の金型を修理・メンテナンスする新事業の立ち上げだった。「金型119番」と名付けた新サービスの旗振り役となったのが、2代目の加藤常務だった。
もともと恵那三洋製作所は、1983年の創業以来、自動車部品や家電など幅広い分野で使われるプラスチック射出成形金型の設計・製作を手がけてきた。本来、メーカーであるはずの同社が金型のメンテナンスサービスに目を向けたのは、コスト競争が激しさを増すなかで一度作った金型をできるだけ長く使い続けたいと考える企業が増えていることが背景としてある。金型は使い続けるうちに精度が落ちてくる。すると、成形品にバリが出やすくなったりする。特に海外製の金型の場合、アフターフォローしてくれる業者が少ないため、困っている会社も多かった。そこに商機があると見てはじめたのが金型119番のサービスだった。
「自分たちが持つ技術力を生かして金型の精度向上、寿命延長を実現してあげると、大いに喜ばれました。さらにそれがきっかけとなって、新規顧客獲得につながるケースも出てきました」(同)
情報開示のレベルアップ
またその一方で、会社のコスト削減にも努めた。経営改善への取り組みをはじめたのを機に顧問契約を結んだ浅野税理士の指導のもと、月次決算や部門別管理を導入したり、部品・材料等の購入価格や外注加工費などを見直し、経費を削減していった。これらの取り組みが奏功し、2011年7月期には黒字転換を実現。その後も順調に業績を回復させていった。
そして2015年、2度目の経営改善計画(5カ年)を策定した。その目的は、設備投資・運転資金のための新規融資を獲得することにあった。取引先の両金融機関を呼んで「バンクミーティング」を実施。後日、融資の実行が決まった。
実は、経営改善計画策定支援事業を活用して返済猶予や新規融資などの「金融支援」を受けた場合、経営改善計画の定期的なモニタリングが金融機関によって実施される。恵那三洋製作所については3カ月ごとのモニタリングとなっていた。
「なので、もともと3カ月に一度は自社の財務内容を開示する必要があったわけですが、どうせなら毎月の経営状況を知ってもらおうと、試算表を毎月金融機関に提出するようになりました」(同)
TKCの月次試算表提供サービスを利用すると、月次試算表に加えて、経営改善計画のモニタリングの際に求められる数字も盛り込んだ「月次決算報告シート」や、「資金繰り実績表」なども一緒に送ることができる。恵那三洋製作所の情報開示は間違いなくレベルアップした。加藤常務がいう。
「私たちは、人に見られて恥ずかしい仕事をしているつもりはありません。だから、誰に財務情報を見られてもいいような会社であり続けたいと思っています」