2016年10月、信用保証協会では全国で初めて「TKCモニタリング情報サービス」の利用を申し込んだ静岡県信用保証協会。そのねらいについて大村福次常務理事と片山倫一本店営業部執行役部長に、TKC静岡会の畑義治会長と木村治司副会長が聞いた。
木村 金融庁は資産査定を重視するこれまでの姿勢を転換し、金融機関に自らビジネスモデルを考えるよう求めています。そうしたなか静岡県信用保証協会さんは、どのような方針をお持ちでしょうか。
大村福次常務理事
大村 金融庁が行った1000社アンケートの結果を見ても分かる通り、「企業の話を聞いてくれない」「いまだに担保や保証に頼った融資をしている」など、経営者は金融機関に対しさまざまな不満を抱いています。こうした実態への反省から、「金融機関はもっと地域に貢献すべき」「行き過ぎた担保・保証に依存するのではなく、事業性評価をしっかり行い担保・保証に過度に依存しない企業への融資にも積極的に取り組むべき」という金融庁の方針につながったのだと思います。実際にはローカルベンチマークを活用して会社の経営状態を把握していくことになりますが、保証協会も同じように、企業の沿革や得意分野、ノウハウ、設備、不動産の状況を分析しつつ将来性をふまえて判断しなければならないと考えています。現在中小企業は、人材不足や後継者不足などの課題を抱えています。当協会の利用企業約5万者をみても、代位弁済の額と条件変更残高の割合が、減ってはきているというものの全国と比べいずれも高水準にあります。経営改善をはじめとした中小企業支援をさらに推進していかなければならないと思っています。
木村 具体的には?
大村 これまで保証協会はどちらかというと黒子の存在で、金融機関から提供された決算書などの情報をもとに保証の判断をしてきました。しかしこれからはもっと前に出て、「顔の見える協会」として企業ニーズを的確にとらえなければなりません。具体的には企業のライフステージに応じた経営支援や専門家派遣、事業承継支援で、それらの支援を実施するため、保証利用先を直接訪問して、「悩みや困りごとはありませんか」とフランクに話を聞く活動を行っています。
木村 代位弁済の割合が高いということは、それだけ静岡県信用保証協会さんが中小企業を積極的に支援した結果ということでもあります。
大村 静岡県内の経済が思いの外回復しなかったのも、代位弁済が高水準で推移している一つの要因だと思います。製造品出荷額はピーク時の19兆円から15兆円まで落ち込みました。全国的にも高いことで知られていた有効求人倍率も、いまでこそ1.42まで戻りましたが、リーマンショックの後は全国平均を下回る低い状態でした。積極的に支援しましたが、県外や外国への工場移転が相次いだ影響もあったと思います。
情報開示で円滑な資金繰り
木村 昨年、保証協会としては全国で初めて「TKCモニタリング情報サービス」を申し込まれましたが、どのあたりを評価されたのですか。
大村 初めてお話をお聞きしたとき、すぐに「これはいいぞ」と判断して即答したのを記憶しています。その理由は、TKC会員税理士さんが毎月巡回監査して指導・作成された試算表や財務データは非常に信頼性が高く、またそれをタイムリーに早い段階で手に入れられる点にあります。将来的に利用が広がればさらに活用できることになるでしょう。いままで試算表や決算書は金融機関経由で入手しており、クッションが余計にかかっていましたが、この仕組みを使えば金融機関が入手する前にデータを見て状態を把握することができるようになります。これは非常にありがたいことで、しかもそのデータの信頼性が極めて高いとなれば、利用しない手はありません。
畑 金融機関からは「事前に試算表をもらえるので、ある程度データをみてポイントをつかんだうえで支店長等が企業を訪問できるメリットを感じている」という声があがってきていますが、保証協会さんにも信頼のある書類を出しているということを一番のメリットに感じてもらえたらありがたいですね。
木村 情報を提供する頻度については、「半年に1回」「四半期に1度」「年に1回」などいろいろありますが、どのようにお考えですか。
大村 企業側からすると、あまり頻繁にリアルタイムで情報を送られるのは抵抗があるというところもあると思います。しかし金融機関や保証協会がモニタリングをしていくなかでは、毎月の売上高以外の情報が多ければ多いほど適切な判断ができるようになることは確かです。つまり直近の試算表があれば経営状態が分かり審査自体も早くなるし、われわれの理解も進み、よりタイムリーな資金繰り支援につながるわけです。情報提供の頻度は多いにこしたことはないと思います。
片山 経営支援のモニタリングを行っている四半期に1回の頻度が、タイミング的にはやりやすいかもしれません。しかし新規の申し込みはいつ必要になるか分からないもの。毎月試算表を用意していただければ、いつ申し込みをいただいても審査ですぐに判断することができます。
木村 企業自ら積極的に情報を開示することによってその後の円滑な保証なり融資につながるという考え方をしたほうがよいということですね。
片山 経営者は従業員の生活に対する責任があります。会社の売上高や利益状況がどうなっているのか毎月立ち止まって把握するのは、経営者として最低限必要なのではないでしょうか。
大村 経営者は忙しいので、どうしてもルーティンをこなしながら「1日大過なくすごせた」で日々が過ぎ去っていくことが多いと思います。じっくり経営を振り返ってみたりだれかに相談したりする場面も少ないでしょう。金融機関が相談にのってくれるでしょうが、それでも経営者は孤独です。そうした状況でもデータをしっかり読みこむことが、自分自身で経営を考えるよいきっかけになると思います。
信頼性の高い決算書の重要性
木村 保証協会は金融機関以上に決算書を見る機会が多いと思います。粉飾の有無なども見ていると思いますが、決算書の信頼性についてどのようにお考えですか。
大村 TKCさんは自計化や巡回監査、遡及(そきゅう)して加除訂正できない、記帳適時性証明書の発行などを特徴としており、われわれとしてはその信頼性を掛け値なしで高く評価しています。最近粉飾決算のニュースが相次ぎましたが、実際のところ粉飾が分かった時点で企業審査は即ストップせざるをえません。それくらい信頼できる決算書が大事だということを、経営者の方にはぜひ再認識してもらいたいと思っています。
木村 このサービスを利用する企業側に期待されることは?
大村 企業と金融機関には情報の非対称性があるといわれます。実際、情報が一方通行なのが現実です。それを改善するためにも、企業はどんどん情報を金融機関に開示し、話し合いなども交えて自社についてもっと理解してもらうのがよいと思います。出すものを出して判断してもらうという姿勢ですね。そうして初めてお互いの理解が深まると思います。