経営改善計画策定を支援するTKC会員紹介の申込みコーナー

金融機関インタビュー バンカーが語る「モニタリングではここを見る」

経営改善計画の実行管理、すなわちモニタリングを行うことは全国の金融機関に課せられた大きな使命とされる。茨城県の地銀「常陽銀行」(融資審査部の馬場勇・企業経営支援室長)と、静岡県浜松市の信金「遠州信用金庫」(審査部の山田享課長と経営情報室の稲垣美喜夫室長)に、モニタリング時のチェックポイントなどを聞いた。

常陽銀行 計画の“進捗管理”を通じて経営者は進化を遂げる

――中小企業金融円滑化法にもとづいて貸出条件変更をした件数はどのくらいですか。

馬場勇 常陽銀行 企業経営支援室長 馬場勇・企業経営支援室長 昨年12月末の段階で、約1万5600件ありました。そのうち実際に貸出条件の変更をしたのが約1万3800件。企業数でいうと、約4700先からの申込みがあり、約4500先に対応しました。企業数が申込み件数の約3分の1となっているのは、1社で複数の種類(設備資金や運転資金など)の借り入れをしているからです。
 いずれにしても金融機関がまず最初に果たすべき役割は、取引先企業の資金繰りを維持すること。貸出条件の変更については申込みがあれば極力応じるようにしています。

――条件変更をした企業のうち、すでに経営改善計画を提出している割合は?

馬場 約26%の企業が提出ずみです。ただ、次回の集計(平成23年3月末)があがってくるときには、その数字はかなり大きくなると思われます。おそらくあと1100社ぐらいは増えると見込んでいます(それにより約50%が提出済みとなる)。というのは、条件変更の申込みを受け付けてから、実行性の高い経営改善計画ができあがるまでに6ヵ月間ぐらいかかり、タイムラグがあるためです。昨年の夏から秋にかけて条件変更の申込みが相次いだことを考えると、計画を提出する企業はこの先さらに増えるのは間違いないはずです。

――計画の策定後はその進捗管理、つまり定期的なモニタリングが必要になりますが…。

馬場 経営改善計画は、再建に取り組む企業にとってのいわば“道標”といえます。でも、いくら立派な計画を作ったところで、それが計画倒れに終わってしまったら元も子もない。だからこそ、計画通りに進んでいるかをモニタリングしていく必要があるわけです。

――「モニタリングの基本的な進め方」について、具体的に教えてください。

馬場 1ヵ月に1度の割合で取引先企業を訪問したりするなどして、計画と実績との比較検討を行っていくのが基本です。月次試算表や資金繰り表をもとに経営状況がどう改善しているかを詳しく検討していきます。ただ、1ヵ月に1度のスパンが本来は望ましいものの、必要な書類作成に時間を要するといった理由などから少々難しいところがあります。1~3ヵ月のサイクルでというのが現状ですね。
 またモニタリングを通じて、経営計画に落とし込んだ改善策の方向性・骨子が機能しないと判断した際には、すみやかに会社側と協議して見直しを図ることも基本ルールとしています。

――モニタリング時にとりわけ重要視しているチェック項目は?

馬場 計画どおり「売上が伸びているか」「経費削減は進んでいるか」といった部分は必須ポイントです。90年代のバブル崩壊後の頃は会社再建のための経営計画というと、遊休資産の売却といった財務リストラが主流でしたが、今はどちらかというと損益計算書(PL)に影響する(1)売上の増加や(2)経費削減が改善の主流になっています。とにかくキャッシュフローベースで会社にお金が入ってくる状態をきちんと築くことが、まずは先決なのです。

――地域金融機関として、条件変更先の売上拡大や経費削減に関して、どんな支援をしていますか。

馬場 売上拡大については、新たな販売先を見つけてもらうためのビジネスマッチングを積極的に提案しています。一方で経費削減については、仕入コストを少しでも減らしてもらうために新しい仕入先を紹介するといったことをしています。中小企業の場合、とくに「昔からの付き合いだから」という理由だけで、あまりコストを意識せずに仕入先を選んでしまっている傾向があります。その辺りを見直してもらいたいという意向から、見積もり方式などによる仕入先の選定などを提案しています。

今後1年は「実行性」が問われる

――モニタリングによって、貸出条件変更先が得ることができた「効果」といえば何でしょうか。

馬場 計画を作り、それを実現するために懸命な努力を重ねていると、「さらなる改善に向けて取り組むべきことは何か」といった問題意識が経営者に芽生えてくるものです。実は一番の効果はそこにあるのではないかと思っています。「できたこと」と「できなかったこと」は何かを自己診断して、「次にやるべきこと」を考える習慣を身に付ける。これは、経営者にとって非常に大切なことです。 多店舗展開するある飲食チェーン店の社長は、経営改善を進めるなかで、新たに店舗別の収益管理をはじめました。すると、存続すべき店舗と撤退すべき店舗とを判断する基準が明らかになり、不採算店のリストラと出店戦略の精度が増した結果、会社の収益性がみるみる改善されていきました。経営計画の達成を目指すなかで経営者自身が成長を遂げた好事例といえます。

――昨年12月、金融庁は金融円滑化法を1年延長することを発表しましたが…。

馬場 おそらく今後、2回目の条件変更を求める企業が増えてくると予想されます。われわれ金融機関にとってこれまでの1年間は、条件変更先に対して経営改善計画の提出をうながすことが大きな課題とされてきましたが、これからの1年間は経営改善計画を確実に遂行するための支援をすることが主体になってきます。そのなかでモニタリング活動の重要性は、さらに高まっていくはずです。
 もちろんモニタリングを実のあるものにするためには、精緻な経営改善計画の存在が欠かせません。その意味では、税理士や経営コンサルタントなど、計画策定のスキルをもつ外部の専門家の手を借りることも中小企業にとって必要になるでしょう。

会社概要
●本店所在地 茨城県水戸市南町2-5-5
●行員数   3811名
●預 金   6兆5627億円
●貸出金   4兆9459億円

(インタビュー・構成/戦略経営者・吉田茂司)

遠州信用金庫 経営者の“顔”を見ての定性的な実態把握も重要

――中小企業金融円滑化法の適用対象かどうかで、リスケ先に対するモニタリングの内容に違いはあるのでしょうか。

遠州信用金庫 経営情報室 稲垣氏 審査部 山田氏 山田享・審査部課長 私たちは地域密着型の金融機関として、金融円滑化法が施行される前から貸出条件変更の相談に応じ、モニタリング活動をしてきました。その内容については、金融円滑化法の適用対象の企業においても大きな差はありません。

――モニタリングの基本的な進め方を教えてください。

山田 まずは、その会社の業績悪化や資金繰り難に陥った原因分析をし、次に課題を抽出する。そのうえで具体的な改善策を検討し、その内容を盛り込んだ経営改善計画を策定します。そして、担当営業店のスタッフなどが月に1回を原則として、その計画の進捗状況を月次試算表や資金繰り表などを見ながら確かめていく。それがモニタリング活動の基本的なところです。モニタリングを行う現場の担当者には専用のチェックシート(「経営改善チェックシート」)がありますので、そこに載っている詳細な確認項目をもとに計画の進捗度合いを調べていきます。

――金融円滑化法にもとづき条件変更した取引先の数は?

山田 昨年12月末の時点で、個人事業主を含めて約700先です。ただしこの中には、住宅ローンの条件変更も入っており、事業性ローンだけでいうと約650先となります。

――すでに経営改善計画を提出している企業はその内、どのくらいの割合ですか。

山田 今のところ約650先のうち約25%が提出ずみです。この割合は今後さらに増えると見ています。

――モニタリング活動を展開していくうえで特に意識していることは何ですか。

山田 経営者とのコミュニケーションを大事にする点でしょうか。取引先とフェイス・トゥ・フェイスの関係を築くことが、私たちが理想としているところです。つまり、決算書の財務データなどの数字ばかりを気にする定量面だけのモニタリングに終始せず、経営者の顔の表情や、社内の雰囲気といった定性的な側面もモニタリングの中で大事にしています。

――提出された経営改善計画が、あまり精緻でない企業に対するモニタリングはどうされていますか。

稲垣美喜夫・経営情報室室長 零細・小規模企業については、確かにそうした傾向が見られます。でも、たとえあまり精緻な計画でなかったとしても、そこに社長の思い入れが反映された経営改善計画もあり、その場合はモニタリングの中で計画の中身が薄い部分を補完していくようにします。具体的な改善策のアドバイスをしたり、一緒になって「次の一手」を考えていきたいと思っています。

――未だに経営改善計画を提出していない企業への働き掛けは…。

稲垣 経営者に「顧問税理士に計画作りを依頼してみてはいかがでしょうか」と促したり、それが難しければ経営者からの依頼があったときは外部の経営コンサルタントを紹介したりすることをしています。顧問税理士はその会社の経営状況を一番よく知っています。だからまずは、顧問税理士に相談することを提案しています。また、“顧問”と呼べるほどの税理士がいない零細・小規模企業に対して、経営情報室が経営改善計画の策定支援をしたり、経営者からの申し出があればTKC会員税理士による『経営改善計画策定支援サービス』を紹介することもあります。

PDCAサイクル構築を期待

――経営改善の成果が出ている企業と、出ていない企業との違いはどこにありますか。

山田 その会社に「ストロングポイント(強み)」があるところはやはり業績回復のスピードは早いですね。

稲垣 あと、顧問税理士と経営者との結びつきが強く、会社の経営について腹を割った話し合いができているところも確実に成果を出し始めています。税理士と社長の2人で普段から、売上減少の原因分析をしたり、その打開策について頻繁に話し合っている企業はそれなりに経営改善のきっかけを見つけています。

――成果の出ていない企業に対する今後のアプローチは?

稲垣 目標売上高を下回った要因などについて再度、経営者と膝を詰めて真剣に協議することが求められます。また、地元のビジネスマッチングフェアへの出展や、新しい商品・サービスを開発して経営革新計画(中小企業新事業活動促進法)の承認獲得を目指すといった、販路開拓のための新たな取り組みにも積極的に目を向ける必要が出てきます。
 建設工事請負会社X社は、公共工事削減などの煽りから苦しい経営を迫られていましたが、斬新な発想から生まれた「井戸」を商品化して経営革新の承認を受けました。従来の(打ち込み)井戸には「砂を多く汲み上げてしまう」という短所がありましたが、X社では砂の汲み上げをほとんど伴わない技術を開発し、特許も出願しています。この商品が行政などの目にとまったことで公立学校等に対する売上拡大のチャンスを手に入れています。

――現在のモニタリング活動を通して今後、中小企業に期待したいと感じていることはありますか。

山田 現状分析、問題点の抽出、改善策の検討をもとに中長期の経営計画を策定し、その計画の実行管理(点検・改善)をしていくというのは、言ってみれば「PDCAサイクルを回す」ということと同じ意味合いです。これを機に、社内にPDCAサイクルを根付かせることをぜひ期待したい。PDCAサイクルを身に付けると「目標達成の阻害要因は何か」といったことに自然と目が向くようになる。こうした企業が1社でも増えることを望んでいます。

稲垣 きちんとしたモニタリングを実施するためには、月次決算にもとづくタイムリーな数字が反映された月次試算表の存在が欠かせません。顧問税理士の指導を仰ぐなどして、月次決算をはじめる企業がたくさん出てくると、われわれ金融機関にとっても助かります。

会社概要
●本店所在地 静岡県浜松市中区中沢町81-18
●役職員数  393名
●預 金   3686億円
●貸出金   2116億円

(インタビュー・構成/戦略経営者・吉田茂司)