アザース株式会社 様

アザース株式会社 様

上場の鐘をつく中川周平社長。左は稲葉修一取締役

統合型会計情報システム(FX4クラウド)ユーザー事例

東証プロマーケットに上場した
松山発ラーメンチェーンの狙い

愛媛県松山市を中心にラーメンチェーンを展開するアザースが東京プロマーケットに上場して注目を集めている。地方のラーメン店が上場する例は珍しく、愛媛県では初めて。その狙いについて、中川周平社長は「地場の文化を守る」ことと、海外での多店舗展開を挙げる。

上場セレモニーにて

上場セレモニーにて

 去る9月19日、東京・兜町の東京証券取引所において、愛媛県松山市のラーメン店チェーン「アザース」の東証プロマーケット(プロ投資家向け市場)への上場セレモニーが行われた。料理人姿の中川周平社長は、約50名が列席するなか、恒例の「鐘つき」などの行事を満面の笑顔でこなしていた。

 そもそも、独立系のラーメン店が上場する例は少なく、とくに地方ではほとんどない。愛媛県においても初めてのラーメン店上場で、その意味での注目度は高かった。

 中川社長は言う。

「〝近所のラーメン屋が上場した〟という事実が、愛媛の人たちに〝私にもできるかもしれない〟と勇気を与える。そういう結果になればうれしいと思っています。また、地域で上場して周囲から資本を呼び込むことができれば、東京にお金が流れるというこれまでの負のメカニズムにブレーキをかけることができる。それと、どこへいっても同じ全国チェーンの飲食店が軒をならべている現状は、おもしろくありません。愛媛の地域文化を守っていく先駆になりたいですね」

ニュージーランドで開眼

「麺鮮醤油房 周平」1号店

 中川社長は大学卒業後、大手飲食チェーンに就職。その後、納入業者の誘いに応じて日本酒とワインに特化した飲食店に転職。少しずつ飲食業のノウハウ、人脈を築きながら独立の機会を狙っていた。転機は28歳の時に訪れる。

「独立の前の気分転換にとニュージーランド旅行に出かけました。そのときにひょんなことから日本人オーナーのラーメン店でアルバイトをすることになったのですが、その経験が強烈でした。それまで勉強してきたお酒は、自らつくることができません。一方、ラーメンは自分次第でいかような味にすることもできると……。外国なので、出来合いの麺やスープは使えず、すべて自家製ですから余計にそう感じたのでしょう」

 しかも、この店には、日本式の「修業」的な雰囲気はなく、フランクで自由だった。「ラーメンづくりにはルールがないんだなとも実感しました。楽しかったですね」と中川社長は言う。

「麺鮮醤油房 周平」1号店

「麺鮮醤油房 周平」1号店

 1年間のニュージーランド滞在から帰国(2005年4月)した中川社長は、さっそく出店の準備に取りかかる。イニシャルコストとして政府系金融機関から1000万円を借りた。場所は松山市の繁華街「一番町」。申し分のない立地だ。あとは品質、つまり味である。

 とはいえ、中川社長にはほぼ修業経験がない。ニュージーランドでの3カ月のみが唯一のよりどころだ。逆にいえば、慣習にとらわれず先入観なしに商品開発ができるという強みがあった。

「ずっと食品業界にいたので、食材についての多少の知識とネットワークは持っていました。それらを駆使しながら、試行錯誤を繰り返し、その年の11月には1号店〝麺鮮醤油(しょうゆ)房周平〟をオープンしました」

 帰国からわずか7カ月という短期間で、中川社長は商品開発における驚くべきセンスを発揮する。採用した食材や特徴をつらつらと列挙してみると……。

 まず、地元の大洲市、梶田商店の「生揚げ醤油」を採用。昔ながらの製法を守る香り高い一品だ。これが醤油味スープのベースとなる。

 そして、瀬戸内のいりこ(とくに「こば」と呼ばれる小さいもの)。甘みが強く自然本来の味が強く感じられるものだ。また、熊本・牛深産「さばぶし」。これも甘みが強いことが特徴。カツオでなくサバを使用するのは、新鮮で独特の味わいのある香りと味のバランスが良いと中川社長が感じたため。

 麺は毎日仕込む自家製麺。当時は、既成麺を使用するラーメン店の方が圧倒的に多く、チャレンジングな試みだった。

 さらに、使用する器は近隣の名陶・砥部焼。

 それらを包括する形で「化学調味料を一切使用しない」という調理スタイルに行き当たる。これは「当店の思想的なこだわりではなく、おいしさを突き詰めると化学調味料は必要なかった」と極めて合理的な中川社長の判断から採用されたものであった。

募集せず拡大志向はなし

自家製麺がつけ麺のおいしさを際立たせる

自家製麺がつけ麺のおいしさを際立たせる

 とはいえ、商売はそう甘くはない。市街地のラーメン店は飽和状態。とくに近年ブームが続く豚骨ラーメン店が幅をきかせている。一風変わった味の周平ラーメンが松山市民の胃袋をつかむには時間がかかった。

 オープンから8カ月後、新たなメニューに、当時まだ珍しかった「つけ麺」を加えてから徐々に近隣のサラリーマンや主婦の評判に上がるようになる。「つけ麺は麺が良くないと成り立たない。ここに来て自家製麺が功を奏した形です」と中川社長。一日の来店客が100名を超え200名、300名と跳ね上がるにつれ、中川社長の胸中には自信が芽生える。そして、その勢いを借りながら2007年6月に法人成り。それとほぼ時を同じくして、顧問税理士に高須賀敦氏が就任。後述するが、これが多店舗化、上場へ向けてのスタート地点だったといえよう。

 さて、その後は広島(直営)、松山(直営)、広島(FC)、大阪(FC)、山口(FC)、松山(直営)、高松(FC)と数年でトントンと店舗網を広げ、店名も業態によって「周平」「周一」「周月」「真中」などと使い分けていく。ちなみに現在の店舗数は直営4、FC9。よくある拡大戦略のようにも見えるが、中川社長はそれを否定する。

「当社はFCの募集をまったくしないんです。同級生などの知人、あるいは偶然食べた方が〝自分もやりたい〟と自己申告された場合に考えるという程度です」

 ちなみに、現在まで、経営不振によってスクラップした店舗はない。その背景には、高須賀税理士の指導のもと行われていた緻密な計数管理があった。TKCの財務会計システム『FX2』の導入、巡回監査、月次決算、予算の策定によって店舗別損益、キャッシュフローなどリアルタイムの財務状況を把握。それにもとづいた事業計画の作成が、失敗のない出店を可能にした。

高須賀敦税理士

高須賀敦税理士

 高須賀税理士は言う。

「融資を受ける際には、月次試算表を金融機関に提出し、また、年次決算のときは担当者を呼んできちんと説明をするということを続けていました。その結果、資金調達がスムーズとなり多店舗化が可能になったのだと思います」

 中川社長も「餅は餅屋です。月次の数字はありがたいし、新規出店の際にはもちろん高須賀先生に相談をします。財務面については安心して任せている状態ですね」

 さて、最大のターニングポイントとなったのは、2012年の香港進出であった。

 いきさつはこうだ。「周月」大阪日本橋店を、香港の事業家がたまたま家族で訪れ、その味に感動。滞在中何度も食べに来た。そして、〝こんな店が香港にあれば〟と後にある人を通じて香港での出店を打診してきたのだという。

「ラーメン激戦区の香港でわれわれの味が通用するかどうか不安でしたが、これが受けました。香港にはつけ麺文化がないことと、味も独創的だったのでしょう。現在、3店舗へと拡大していますが、2店舗が〝ミシュランガイド香港・マカオ〟に掲載されるほど高い評価をいただいています」(中川社長)

 いわばラーメンの素人だった中川社長が、このように短期間で多店舗化を実現、しかも海外進出まで果たしたのだからすごい。その理由を高須賀税理士はこう分析する。

「とにかく中川社長の周りには人が集まってくる。これが大きいと思います。人徳でしょう。稲葉さんもその1人です」

つけ麺真中

つけ麺真中

 〝稲葉さん〟とは、取締役管理部長の稲葉修一氏。3店目を出店したころに、中川社長の思いに共鳴し入社。この稲葉氏が各店舗の店長経験を重ねた上で、高須賀税理士とともに、財務を含めた全社的管理を統括する役割を担う。稲葉氏は言う。

「毎月の取締役会で各店舗の数字を確認し、それを店長たちに伝えながら異常値については原因究明を行っています。結果、最近では、店長が数字の変化を敏感に感じることができるようになってきました」

 このほか、稲葉氏は、直営店舗の人手が足りないと、ヘルプにはいる遊軍的役割もこなす。また、味の標準化にも心を配り、FCを含めて常に各店舗を試食しながら指導に当たっている。稲葉氏は言う。

「中川社長は、上場関連もそうですが、企業のトップとしてのいろいろな仕事がある。なので私が現場管理を行ういわばスーパーバイザーの役どころを担っています。役割分担ということですね」

海外展開に意欲を示す

集合写真

 中川社長が上場を志した理由は冒頭に記した「地場企業を盛り上げる先駆になりたい」というのがひとつ。加えて、業界特有のブラックなイメージを払拭(ふっしょく)して従業員に安心して働いてもらうこと──このふたつだけというから意外だ。資金調達にかかわる生臭い話を中川社長からは聞くことはなかった。

「上場したからといって来客数が増えるとは思えません。資金調達の必要性もあまり感じていません。あえていえば、海外でのFC展開のための資金調達の手段として上場が生きてくるという程度でしょうか」

 国内での多店舗化は考えていないが、海外は別。つけ麺やいりこ・サバベースのタレも差別化にはうってつけだからだ。香港に加え今年5月には上海で1店舗を開業した。さらにタイのバンコクで来年前半、スロバキアにも来年出店する予定だ。もちろんいずれもFC。香港と同じく現地の事業家との邂逅(かいこう)によって実現したものだという。とはいえ上場するには、精緻な財務管理とガバナンスが要求される。これをどうクリアしたのか。高須賀税理士は言う。

「上場前にTKCの統合型会計情報システム『FX4クラウド』を導入しました。結果的にこれが良かったですね。店舗別のより緻密な業績管理が可能になり、上場に向けての資料づくりがはかどりました。具体的には、『マネジメントレポート(MR)設計ツール』という機能を利用して、詳細な財務データを吐き出し、上場するために要求される資料を作成したのです。予実対比、前年対比などを含め、決められた資料のフォームに合わせてつくるには通常の会計ソフトでは大変な作業になり無理なのです」

 淡々としながらも機を見て周囲があっと言わせる行動をとってきた中川社長。高須賀税理士も驚きつつ「結局は社長の人間性の豊かさが人や機会を引き寄せているのでしょう」と語る。FCビジネスにしても、とくに拙速に儲(もう)けようという気持ちはない。ちなみに国内でのフランチャイジーへのロイヤルティーは定額でわずか月5万円。これでノウハウをすべて渡すのだから、つぶれた店は皆無というのもうなづける。

「当初は売り上げに対するパーセンテージでロイヤルティーを決めていましたが、それではダメだと仕組みを変えました。店が頑張るほど本部が儲かるのではなく、FC店が儲かる仕組みをつくらないとね」

 中川社長の柔和な笑顔の底から、新しいラーメン店のスタイルをつくろうとする気概が感じられた。

企業情報

アザース株式会社

アザース株式会社

創業
2005年11月
所在地
愛媛県松山市松前町2-6-11
売上高
2億700万円(2019年3月期見込み)
従業員数
約60名
URL
http://www.az-earth.com/

顧問税理士 税理士法人ビジネスソリューションズ
所長 高須賀敦

所在地
愛媛県松山市朝生田町5丁目7番43号
URL
https://business-solutions.tkcnf.com/

『戦略経営者』2018年12月号より転載)