更新日 2016.04.25
有限責任監査法人トーマツ
公認会計士 加藤 耕平
アジア諸国への日系企業の展開にあたり、現地子会社の資金や贈収賄に関連する不正が行われるリスクが高まっています。当コラムでは、アジア子会社における不正の実態と不正防止のための取組みについて事例をもちいて解説します。
1.在アジア子会社の不正の実態
アジア現地子会社の不正には、圧倒的に、資金に関連する不正や贈収賄に関連する不正が多いと思われます。アジア子会社における典型的な不正の事例をご紹介します。
資金管理 |
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購買 |
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営業 |
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人事・給与 |
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経理 |
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工場 |
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その他 |
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上記不正は一例であり、日本人的には「そんなことはしないだろう」「たいした金額ではない」「ビジネスを続けるためには不可避の支出もある」といった側面もあり、こうした現地任せの対応が原因で実際に不正が起こっているということを深く認識することが必要です。
2.不正防止のための組織ガバナンス力向上
不正は自社の財務的影響などの直接的な損害のみならず、企業に関与する様々な利害関係者の信頼関係を損ない、間接的にも損害をもたらす結果となります。昨今の日本社会全体のコンプライアンスに対する意識の変化を背景に、不正全般を事前に防止するための内部統制に対して真剣に取り組む企業が増えてきていると感じます。
現地子会社の不正防止・早期発見のための具体的な施策については、以下の2つの面で検討することが効果的です。
- 制度面での防止策・・・統制活動の強化(組織・業務)
- 心理面での防止策・・・組織風土の改善
3.不正防止のための取組事例の紹介
グループ本社及び現地子会社が主導した不正防止のための取組事例をご紹介します。
事例① グローバル行動規範の展開
- グローバル本社のイニシアチブ:
グローバルに共通の経営理念・行動規範を見直し、企業グループとして必ず遵守すべき最低限の要求事項を「グローバル行動規範」として再編集。 - グローバル展開:
「グローバル行動規範」を事業部長からグループ各社へ展開する責任体制とし、国・地域ごとの特徴を反映した所在地国別の「行動指針(Code of Conduct)」を整備し、現地従業員に理解できる内容(容易さ・価値観の反映等)にして浸透を再徹底。 - 浸透に向けた努力:
海外拠点で年に4回のコンプライアンス強化月間を設置。
各強化月間に、各部署でコンプライアンスの観点でしてはいけないことを「べからず集」としてとりまとめ、管理部署は各部署から提出された「べからず集」を審査し、最優秀作品を決定。最優秀作品を作成したチームが、強化月間の後半に開催される全従業員向け集会で作品を発表し、現地従業員の目線から他の現地従業員へコンプライアンスの重要性を訴求。また、その集会においてチームを経営者が表彰しモチベーションを鼓舞。
事例② 現地人材が活躍する企業風土の醸成
- 経営の現地化に向けた目標設定
日本人駐在員と、ローカルマネジャーが、一緒になって、3年後、5年後の組織図イメージを作成し、ローカル人材のプロモーションに向けた動機付けとした。 - ローカル人材のキャリアパスを明確化
部門ごとに、各職位に求められる役割要件を設定し、キャリアアップのために何ができるようになる必要があるかを、明確化した(人事評価の明確化)。 - 日本人駐在員とローカルマネジャーが合同でワークショップを開催
経営層、管理職、一般職からそれぞれ代表となるメンバーを選出してワークショップを実施。ワークショップの過程で、サーベイによる全従業員の意識調査を実施。意識調査の結果を分析し、全社的に取り組むべき優先課題を特定し、対応策を検討。
事例③ 不正リスク管理体制強化
- 不正シナリオの抽出:
自社および他社の不正事例を元に、主要な業務プロセスに関して、想定される不正のシナリオを洗い出す。 - 不正シナリオに対する現状調査:
各拠点の担当者にインタビューを実施し、不正シナリオごとに、現状業務の中でそのリスクに対応することができているかどうかを調査する。 - 不正シナリオに対する対応策の検討:
不正リスクに未対応のシナリオのうち、優先的に対応すべきものを設定するとともに、その対応策を検討する。なお、対応策の検討に当たっては、経営層(日本人)と管理職(ローカル)とが協働するが、経営層(日本人)は意思決定、管理職(ローカル)は現場業務への適用可能性の確認・検証、および一般職(ローカル)への周知・トレーニングをメインに行う。
4.親会社によるモニタリング
一般に、現地子会社の規模に応じて、財務的視点からモニタリング方法は異なるものと考えられます。
大規模子会社の場合:親会社経理から日本人経理マンを派遣し、経理実務を日常的にモニタリングが可能となります。
小規模子会社の場合:小規模とはいえ、不正リスクは存在するため、親会社の経理担当者がリモートでモニタリングせざるを得ません。効率的・効果的にモニタリングするためには、毎月、現地子会社から、試算表やKPIに関する財務情報の変更内容を入手し、推移分析、ビジネス情報との比較、財務比率分析等を実施し、異常値やミス・不正の兆候の有無を検証することが必要となります。こうしたモニタリングは「親会社に見られている」という牽制効果も期待できます。
本記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではありません。
プロフィール
公認会計士 加藤 耕平(かとう こうへい)
有限責任監査法人トーマツ パートナー
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