麦茶・きな粉など、様々な農産加工食品の製造販売をする富士食糧。独自の「熱風焙煎方式」の採用により実現した“深煎り”の美味しさには定評がある。「品質本位」の考え方を重要視してきた佐藤清與治社長(50)と、藤井辰男相談役の2人にTKCの『FX2』と『継続MAS』を使った財務戦略について語ってもらった。

“品質本位”が生んだ独自の「熱風焙煎方式」

富士食糧:佐藤社長(前右)

富士食糧:佐藤社長(前右)

――主に麦茶・きな粉などの製造販売を手がけていると聞いています。

佐藤 売上の上位を占めるのは、麦茶(34%)、きな粉(26%)、漬物の素(21%)の3つです。他にも、香辛料、唐辛子、そば粉、だんご粉、粉寒天などを商品として扱っています。業務用の分野では、大手飲料メーカーや和菓子メーカーが主な得意先。家庭用については、東日本を中心にした各食品問屋や全国の生協さんなどに販売しています。

――商品の特徴について教えてください。

佐藤 独自の「熱風焙煎方式」を採用し、深煎りの美味しい麦茶・きな粉を製造しているところです。簡単に言えば、炉内に熱風を送り込み、原料となる大豆や大麦の中心部からじっくりと焙煎していく方法です。熱風焙煎は他の同業者でも行っていますが、使用するハードやソフトに関しては当社オリジナルのもので、それが他社との差別化を生む源泉となっています。市販している釜を改良したり、その温度管理をするプログラムには独特のノウハウを落とし込んでいます。かつて職人たちは、自らの勘を頼りに焙煎の度合いをみながら温度調整を手作業でしていました。その頃の手書きデータを約8年間分集めて分析し、それをプログラムに反映させました。

――麦茶ときな粉の製造方法は共通する部分が多いそうですね。

佐藤 基本的な流れは一緒です。大まかに言えば、原料を焙煎→冷却→粉砕・製粉→包装→検品といった工程で進みます。
 ご存じのように、きな粉はお餅につけて食べることが多い。正月や雛祭りなど、お餅を食べる時期には出荷量がそれなりにあるのですが、夏場はあまり出ない。夏になると商売にならないわけです。そこで同じ設備を用いて、夏は麦茶を製造するというのが、我々の業界では一つのかたちとなっていました。

――会社の歴史について簡単にお聞かせください。

佐藤 明治7年に茨城県下館市(現在の筑西市)で製粉製麦業を始めたのがもともとのルーツです。昭和の初めにきな粉、辛子粉の製造を開始し、昭和21年に佐藤製粉所という名前の会社を設立しました。終戦後間もなくは政府の食糧危機突破対策に協力するために小麦粉製造に一時期転換したそうですが、食糧事情が好転すると再びきな粉や辛子粉の製造に戻りました。その後、関東一円、東北、甲信地方へと販路を拡張していくなかで販売子会社として設立したのが富士食糧でした。そして平成16(2004)年、両社の合併により、製造販売の2つを手がける現在の富士食糧が誕生しました。

――長年にわたり大事にしてきた経営上のモットーがあるそうですね。

佐藤 ええ。「品質本位」という考え方をずっと大切にしてきました。今は「安さ」が武器になる時代かもしれません。でも我々はあくまで品質の高さをウリに、お客様の信頼を集めることを重要視しています。

藤井 手前味噌になりますが、当社の『昔のむぎ茶』という商品に対して、「子供が他の麦茶を飲んでくれない」「生まれたときから飲んでいます」といった一般消費者からのコメントをいただいています。以前、ある小売業者のカタログ通販から、値段が少し高いという理由から『昔のむぎ茶』が外されたことがありました。しかしすぐに復活を求める声があがり、再びカタログに掲載してもらえることになりました。多くの消費者が低価格な商品に目を向けているのは事実ですが、多少値が張ってもそれに見合うだけの品質があれば買ってくれるお客様もいます。そうした人々に当社は支えられています。

――さらなる品質向上に向けて取り組んでいることはありますか。

佐藤 ISO9001(2008年度版)を取得し、より一層の生産体制の充実を図っているのがその一つ。「食の安全」に対して厳しい目をもつようになったお客様の意向に十分対応できるようになったと自負しています。

「社長メニュー(ASP版)」で最新業績の要約情報を確認

――『FX2』を導入した時期は?

藤井 平成16年です。佐藤製粉所と富士食糧を合併するのを機に『FX2』を導入しました。それまでは各会社ごとのやり方で経理事務をしていましたが、それを一本化するタイミングで『FX2』による自計化に踏み切りました。

――『FX2』を活用した業績管理の流れを教えてください。

佐藤 市販の販管システムにある仕入・売上データを『FX2』に入力してゆき、月次決算を実施するのがまずは前提となります。そのうえで《変動損益計算書》や《利益管理表》などの帳表を通じて現在の会社の業績をつかみ、「期末の予算を達成するためには何が必要か」といった経営判断をするのが大まかな流れです。要するに、いま現在会社がきちんと儲けているかどうかを確認し、そうでなければ何らかの打ち手を考える。その繰り返しですね。

――昨年9月に『FX2ドットネット(.NET)版』にしたそうですが、実際に利用してみての印象はどうですか。

佐藤 とりわけ「社長メニュー(ASP版)」を高く評価しています。最新業績の要約情報を確認するうえで便利な社長メニュー自体は以前からありましたが、それが社内、社外問わずネットに接続すればいつでもどこでも見られるようになったのは実に有り難い。というのは、私は埼玉県桶川市にある工場にいることが多く、経理スタッフがいる東京本社とは距離が離れているため『FX2』をインストールしたパソコン(親機)を気軽に見られる状態にはありません。だからASP版になって、他のパソコンからでも社長メニューが見られるようになったことは非常に助かるのです。限界利益の推移などを知りたくなったときには、すぐに自分のノートパソコンを開いて《365日変動損益計算書》を見たりしています。

平野慈子監査担当 ドットネット版はセキュリティ上の理由から、ウィンドウズビスタ以上のOS(基本ソフト)での利用が前提となっています。そのため佐藤社長は愛用のパソコンのOSを急遽バージョンアップしました。それくらい大きな期待を寄せてくれていました。

――黒字経営を維持するために普段どんなことに気を配っていますか。

佐藤 取引先からは値下げ要請がある一方で、私たちとしてはよい原料を使って少しでも美味しい製品を消費者に提供していきたいという気持ちがあります。その両方を考慮しながら利益を獲得していくためには、工場内のムリ・ムダ・ムラの排除に努めて生産効率を高めていくことが求められます。各工程における「時間当たりの出来高」などを定期的にチェックしているのは、そうした事情からでもあります。
 時折見受けられるのが、自動包装機で使う袋の材質あるいはサイズがまずいために、時間当たりの生産量が平均よりもだいぶ落ちているケースです。早めにそれがわかれば、袋を別のものに取り替えるなどの措置が取れるわけですが、いつまでも気付かないままでいると本来得られるはずの利益をみすみす逃すことになる。この辺りは日々の業績管理も一緒といえますね。タイムリーに業績を把握して問題点を早期に片付けていくことが、目標利益を達成するうえでも欠かせないのです。

毎月の実績と予算を比較しPDCAサイクルを回す

――『継続MAS』を活用して予実管理を実践されているそうですね。

佐藤 具体的な単年度計画(年間予算)を会計事務所とともに策定し、それを『FX2』に月別に登録していくやり方で予実管理をしています。『FX2』から出力される帳表に予算比が表示されるようになるので、それをもとに売上や利益が予算より上回っているか、あるいは下回っているかの見極めができます。

野口省吾顧問税理士 単年度計画の策定にあたっては、昨年実績と社長へのヒアリングをもとに勘定科目ごとに積み上げていきます。昨年の売上高に3%上乗せして計画を作りたいという意向があれば、材料費も3%増で予算を組むといった具合です。

――業績検討会は定期的に開催されていますか?

佐藤 もちろんです。PDCAサイクルを構築するという意味からも、業績検討会の開催は必要です。毎月、月次決算を終えた後に私と藤井相談役、そして佐藤克己会長の3人が集まり、「先月、予算を上回ることができた要因」などについて話し合っています。ちなみに昨年は、気温が上がらなかった5月頃は例年よりも麦茶の売上が伸びなかったものの、その後は猛暑で大量に注文がきました。結果として当初の予想以上にその期の売上は伸びたのですが、その辺りの分析を3人でしました。

――今後の抱負をお聞かせください。

佐藤 昭和初期からきな粉や辛子粉の製造を行ってきた当社は、その分野における国内屈指の老舗メーカーといえます。「お客様のニーズに合った、安全な商品の提供に努力する」という会社の基本指針を大切にしながら、これからも持続的な会社経営を実現していきたいと思っています。その一環として、今後はさらに新商品の開発に力を入れていくつもりです。過去に『黒ごまきな粉』というヒット商品を生み出すことに成功しましたが、それは藤井相談役一人のアイデアによるものでした。ISO取得をきっかけに今日では、営業の最前線に立つ複数のメンバーが共同で新商品の企画を立案する体制にしています。現場で知り得たニーズをもとにアイデアを練ることで、魅力的な新商品を生み出せるのではと考えています。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 富士食糧株式会社
業種 麦茶・きな粉等の製造・販売
代表者 佐藤清與治
所在地 東京都北区東十条3-6-4
TEL 03-3912-2331
売上高 約9億円
社員数 約50名(パート含む)
URL http://www.fujisyokuryo.co.jp/
顧問税理士 野口省吾
税理士法人ガイア
東京都北区西ヶ原3-48-4
03-3940-0831
URL:http://gaia-tax.com/

掲載:『戦略経営者』2011年2月号