独立開業

巡回監査を積み重ね「関与先を幸せにしたい」

新規開業会員が語る

とき:平成24年6月27日(水) ところ:TKC東京本社

会計事務所勤務などを経て新規独立開業したTKC会員3名が、独立開業に至る経緯や関与先拡大、今後の課題などについて大いに語り合った。

出席者(敬称略・順不同)
 山田賢太会員(西東京山梨会武蔵府中支部)(35歳)
 望月慎一郎会員(静岡会富士支部)(38歳)
 深田 壽会員(近畿大阪会豊能支部)(36歳)

司会/TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会
 副委員長 佐藤正行会員(近畿京滋会)

座談会

経営者や地域にとってかけがえのない税理士を目指す

 ──本日は、新規独立開業したニューメンバーズ会員にお集まりいただき、開業からこれまでの取り組みを大いに語っていただきたいと思います。事務所の紹介からお願いします。

 望月 平成20年4月に静岡県富士市で開業してから4年ほど経ちました。関与先は、法人45件、個人15件。職員は私と男性3名、女性1名です。関与先数の割に先行投資をしている分、職員の数は多い方だと思います。
 いまは、関与先拡大に力を入れていて、サービスの充実を図るとともに、既存の関与先に対する顧問料の見直しをしています。私のことを信頼してついてきてくれる経営者や地域の皆さんにとって、かけがえのない税理士でありたいです。

 深田 事務所は、昔大阪万博が開催された近くにあります。平成23年1月にTKCに入会してから1年半ほど経ちました。関与先は法人が16件、個人が12件の合計28件で、職員は1人います。
 関与先の資金力アップにつながる支援を目指し、会社の経理担当者や経営者の奥さまとのコミュニケーションを特に重視しています。経理の話を社長にフィードバックして、財務数値に関心をもってもらうように意識して取り組んでいます。私は、特に融資や資金繰りに関するバックアップに力を入れていて、「融資といえば深田」と言われる事務所を目指しています。

 山田 私は西東京山梨会の山田賢太と申します。平成21年2月に税理士登録、平成23年3月にTKCに入会しました。関与先は法人が9件、個人が13件です。お客様から依頼を受けてからサービスを提供するまでのスピーディーな対応を心掛けています。職員は、パートが3名です。
 事務所は東京の狛江という地域にあります。地域の垣根を越えて、ご依頼があればどこにでも行くというスタンスです。ご縁があった関与先の周りを開拓し、地道に活動をしています。

事務所見学会などへの参加で視野が広がる

 ──皆さんが税理士になった理由とTKCに入会した経緯を教えてください。

望月慎一郎会員

望月慎一郎会員

 望月 私は、税理士事務所に勤務する前に、会社員として4年半勤務していました。会社勤めをするうちに将来への葛藤が湧き、誇りを持てる職業に就きたいと思ったことが税理士を目指したきっかけです。職業紹介の本にも、税理士は開業率も高くて、稼げると書いてありましたから(笑)。
 その後、最初に勤務したのがTKC会員事務所でした。初めは職員時代と同じシステムを使いたいという気軽な気持ちで入会しました。実際に入会してみると、事務所見学会などの機会に先輩会員の話を聞くことができるので得るものが多く、視野が広がったと思います。
 実は、佐藤先生の講演を聞いたことがあるのですが、「売れない商品を売るのが営業。我々は、TKC会員の意見が反映されたTKCシステムとTKC活動を基本としたビジネスモデルという売れる商品を広報活動すればいいだけ」というお話しが、とても印象に残っています。それから気持ちが楽になった覚えがあります。

 ──それはよかったです(笑)。TKCシステムは、TKC会員の意見が反映されたシステムですからね。深田さんはどうですか。

 深田 私が大学を卒業する頃は消費税が3%から5%に上がる頃でした。ちょうど就職難の時代で、大学の恩師に「手に職をつけなさい」と税理士をすすめられたことが志望理由です。その後、兵庫県の岸原会計事務所(岸原宏明会員)で8年間修行させてもらった後、独立開業しました。TKC会員事務所で純粋培養されて(笑)、自然な流れでTKCに入会しました。
 TKC全国会は、しっかりとした理念のもと、重点活動テーマがとても細かく決められているので、私はそれを実行することに集中できます。また、多くの会員からノウハウの提供を受けられますし、会員同士が切磋琢磨できることがありがたいと思います。

 山田 以前会社員をしていたときの会社の棚卸しで、公認会計士の人と出会ったことがきっかけで、いつか独立したいと思うようになりました。その後、公認会計士の資格を取り、社会的な認知度を高めるために税理士登録をしました。

 ──会計事務所に勤務されたご経験はありますか。

 山田 私は、監査法人で4年ほど監査関連の仕事をした後に独立しましたので、税務の流れを理解するのに1年くらいかかりました。入会の動機は、TKC会員の講演を聞いたときに、私の理想の事務所像だと思ったことです。周りに税務について教えてくれる人がいなかったので、TKCに入会して非常に助かりました。特に、TKCシステムは、自計化システムから電子申告まで連動していることがとても便利です。

受講者として参加した創業塾で新規の関与先を得る

 ──開業を決意されたきっかけはなんですか。また、独立開業前の準備や初期段階の関与先拡大について教えてください。

 望月 私は、最初から開業するつもりでこの業界を志望しましたので、最初に勤務した事務所の面接でも、いずれは開業したいと素直に伝えていました。実は、開業直前まで前の事務所に勤務していたので、準備らしいことはほとんどしていません。名刺と開業案内を作ったことと、自宅兼事務所を建てたことくらいでした。

 ──自宅を建てるときに、事務所も併設したことは、大きな決断だったでしょう。

 望月 そうですね(笑)。私は、比較的思い切りがよい方なのか、成功イメージしか頭にありませんでした。それから、開業当初は大井敏生会員(東京都心会)のご著書に書いてあった、「1日12時間以上、できれば14時間働いて、1日3人以上の人と会うこと」を愚直に実践しました。親戚で事業を営む人、顔が広い人、金融機関に勤める同級生などに連絡して人脈を広げましたがこれがなかなか大変で。そのうちあてがなくなり、市民館などで開催される無料講座に顔をだしたこともありました(笑)。

 深田 私も望月さんと同じく、会計事務所に勤めるときから独立したいと伝えていたので、所長が独立のための道筋を作ってくださいました。自分で関与先を10件獲得することが独立の条件で、それができた段階で独立に至りました。
 関与先拡大のために、最初にしたことは、受講者として商工会議所の創業塾に通ったことです。そのときの縁で、「どうせ頼むなら、同じ時期に開業した深田に」と言われて関与が決まったことから、運営側に回るよりも受講者同士の方が交流が深まると実感しています。いまでもそのときに知り合った人を含めて、他士業の6人で集まり、チームのように連携し合っています。

山田賢太会員

山田賢太会員

 山田 自宅なら固定費がかからないので、はじめは自宅の一室で開業しました。この先どうしようかと迷っていたときに、ちょうどニューメンバーズ・サービス委員会主催の会合で、先輩会員から、「自宅だと人を呼びにくいから、事務所は外にあるべきだよ」と聞き、事務所を借りる決断につながりました。
 開業当初は、事務所の資金繰りのために銀行の借り入れに奔走しながら、金融機関にお客様の紹介をお願いしました。実際に紹介を受けた後は、きちんと対応することで、その後もご紹介をいただき、徐々に関与先が増えていきました。他にも、ホームページや、地元のコミュニティー雑誌に掲載するなどの活動もしましたが、これは期待したほどの効果はありませんでした。

業務をルーティン化せずに絶対に「忙しい」と言わないこと

 ──巡回監査で特に重視していることを教えてください。

 望月 巡回監査は我々の重要な武器です。私も職員もルーティン業務にならないように経営者とコミュニケーションをとり、関与先の現状を引き出すように心掛けています。そして、絶対に「忙しい」と言わないようにしています。我々にとっては毎日の業務でも、関与先にとっては1カ月に1度の機会という意識が大事だと思うのです。

 深田 私は、経営者と一緒に四半期に1回融資先の金融機関に出向いて、業績報告をしています。巡回監査のときには、金融機関の訪問を見据えたアドバイスを心掛け、売上が良いときは「次回のアピールポイントになりますね」と伝えると、経営者の売上や業績に対する動機付けにもなるからです。業績報告を目標とすることで、FX2で自計化を進める際も理解が得やすくなります。

 山田 巡回監査のときに気を付けていることは、経営者との対話の時間を長く取ることです。社長は月に1回私と会うことを楽しみにしてくれます。関与先にとっては相談もしやすく、緊急の要件があっても話しやすいと思ってもらえているようです。

 ──FX2による関与先の自計化や、書面添付の推進状況はいかがですか。

 望月 KFS(継続MAS・FX2・書面添付)は事務所の強みになるので、積極的な活用が求められると思います。毎月そのための会議を行い、年頭に立てた計画に沿って、進捗状況を確認しています。また、頻繁にはありませんが、税務調査が来たところは、必ず1年後までに書面添付をすると決めています。関与先に対する意識付けもしやすいので、書面添付をするチャンスですから。他には、事務所業務の標準化に向けて巡回監査支援システムを積極的に使っています。

 深田 私は、他社システムを一切使っていないので、法人の関与先は、FX2での自計化が条件になります。そのときに「記帳適時性証明書」を使って「金融機関の評価を得るためにはこの◎印が大事です」と説明するとより効果的です。
 実は、独立するときに関与先を10件引き継いだのですが、法人3件には前の事務所で書面添付をしていました。そのうちの1件は、私が関与してすぐに意見聴取が行われて、その後いわゆる調査省略通知をもらったことが嬉しくて(笑)。いまでは全関与先に書面添付をしたいと思っています。

 山田 私は、いまFX2で関与先の自計化に一生懸命取り組んでいます。私の関与するお客様は、基本的には創業間もない方が多く、はじめは帳簿のつけ方も一からという状況でした。まずは初期指導をしっかり行い2カ月ほどかけて軌道に乗せたところで、自計化をすすめています。いまでは巡回監査に行くととても喜んでもらえます。
 TKCシステムでは、特に申請・届出書類の作成ができる、「税務届出書類等作成支援システム(e-DMS)」が非常に便利です。手書きで届出書を作成していたときは転記していましたから、これはとても重宝しています。

座談会

金融機関向けに勉強会を開催気軽に相談してほしい

 ──事務所の料金体系についてお伺いします。関与先からのニーズも含めて、事務所の体制に変化はありましたか。

 望月 開業当初は、関与先を獲得するために、顧問料を少し低めに提示したこともありましたが、いまは一定の金額に近づけるようにしています。その際、単に顧問料を上げてくださいとは言いにくいので、KFSを推進してサービスの質が上がったことを強調しています。毎月の目標を決めて1件ずつ料金の見直しを行っているところです。
 また、関与先も多少増えてきたので、ご紹介の案件を増やすために、キャンペーンチラシを作成し、関与先に配りました。4月に開始してから、1件ご紹介をいただくことができました。

深田 壽会員

深田 壽会員

 深田 私は、処理業務ではなく、相談業務に付加価値を付けることを重視しています。そのため、関与先に対するアプローチとして経理のムダを排除するようにしています。先月からFXシリーズだけではなく、SX(販売・購買管理システム)やPX(給与計算システム)の導入もすすめています。
 また、他の税理士との差別化を目指して、6人の他士業チームで、金融機関の担当者向けの勉強会を開催しています。勉強会という名目ではありますが、これは、我々士業の職域を知ってもらうことと、相談しやすい体制を作ることが目的です。これまで何度か開催しましたが、支店長がいると渉外担当者が萎縮してしまう傾向があるので、今後はもっと気軽に話し合えるように、渉外担当者だけの勉強会も企画しています。

 山田 以前、ホームページ経由でご依頼いただいたときに「顧問料を安くしてほしい」と頼まれたことがありました。しかし、私が提供する業務は関与先を発展させるものと思っているので、基本的にはそのようなご依頼はお断りしています。

関与先が安心できる事務所になりたい

 ──どのような事務所を目指していますか。職員採用のタイミングや課題も含めて教えてください。

 望月 私はある程度余裕を持って仕事がしたいので、よい人材がいれば、タイミングが早くても採用しています。職員研修は、TKCの中級・上級職員研修への参加を中心に行い、会計事務所や経理事務の未経験者には、事務所の経理・事務を経験させることにしています。スケジュール通りに進めないとすまないたちなので、職員にうるさく言って辞めてしまったことがあり、それからは職員の性格を見て指導することも大事だと実感しました。

 深田 従業員として自分の弟が1人いるので、採用活動は未経験です。まずは弟にしっかりと働いてもらい、一緒に事務所を支えていってほしいというのが私の願いです。
 今後の課題は、金融機関からご紹介をいただくことです。相談業務という付加価値を加えた巡回監査をしっかり行っていきます。金融機関に関与先と共に業績報告に行くことは金融機関との関係を深めることにもなりますので、これを続けることで、業務即ち営業につながればいいなという思いもあります。

 山田 実は、職員を1人採用したことがありましたが、2カ月で辞めてしまいました。早く職員を入れたいのですが、時期はいまのところ未定です。
 いまは、1人の事務所なので、万が一のときにお客様が路頭に迷わないよう、税理士法人化を検討しています。お客様が安心できるバックアップ体制をつくることが課題です。

司会/佐藤正行副委員長

司会/佐藤正行副委員長

 ──今後の抱負をお聞かせください。

 望月 私は開業当時から、関与先や従業員に安心感を与え、優秀な人材を確保するためにも税理士法人化は必須と考えています。そのため、3年から5年以内には、税理士法人化と月次関与先100件以上という2つの目標をクリアしたい。関与先が安心できて、従業員が誇りを持って働いてもらえる事務所になりたいと思っています。

 深田 これまで先輩会員などから教えていただいたことがたくさんありますので、これからは自分がブレずにその実践をするのみです。去年は星回りが良く、関与先が次々に決まった時期もありましたが、ここ数カ月は踊り場も経験しました。ときには結果が伴わず不安になることもありますが、今後も信念を持って実践を続けていきます。

 山田 私の抱負は、関与先の拡大です。業務を通じて社会貢献を目指し、「私が関与先を幸せにします」という意気込みです。お客様から、「銀行に持参した決算・申告書が褒められました」と聞き、巡回監査を基礎に適時正確な決算書を作成することの効果を実感し、さらにそのスピーディーな対応を目指しています。
 実は、開業時の目標に「関与先数を5年で100件にする」という目標がありました。改めて、5年のリミットに向けて、関与先100件の達成を目指し、ここに宣言します。

 ──皆さんの活躍によって、各地域会のニューメンバーズ会員も、ますます刺激を受けられると思います。本日はありがとうございました。

(構成/TKC出版 益子美咲)

(会報『TKC』平成24年8月号より転載)