税理士による開業コラム

事務所のビジョンと戦略

営業活動の前に
事務所の方針を
考えるのが先!

富永 一也

あゆみ税務会計(税理士伊藤鮎美事務所)

税理士 伊藤鮎美(昭和54年生まれ、千葉県船橋市で平成29年に開業)

私も開業して4年が経ったばかりの新米税理士です。開業したての頃に、先輩税理士の皆さんから教わったことは今でも財産です。どんどん周りに仲間を作って、自分一人で抱え込まずに相談してみて下さい。いつでもウェルカム!の先生方ばかりです!私も新米ですがいつでもウェルカムです!

開業当初、私自身が一番知りたかったこと。
それは「どうやったら顧問先を獲得できるのか?」その一点につきます。
開業にあたって、まずは顧問先が欲しい、売上が欲しい、会社員ではなくなることを考えれば、それがなければ自分たちの生活が立ち行かない…。
そんな思いばかりが先行していたのです。

同じ税理士業でも千差万別

同じ事務所に勤務していた主人よりも先に退職し、主人が合流してくるまでの間に何としてでも自分たちで事業を開始できる基盤を作りたいと思っていた私は、とにかく時間だけはあったので諸先輩方との関係を構築して、 いろんなノウハウを勉強させてもらおう!
と積極的に先生方の輪に飛び込んでみることにしました。

同じ税理士業でも千差万別なんだということをまず感じました。
勤めていた税理士事務所はいわゆる「記帳代行事務所」。
その事務所しか経験のなかった私はそのやり方が税理士事務所のやり方だと思っていたので、当然のように、自分も記帳代行込みの顧問を想定していました。
現在は顧問契約の条件の一つに「自計化」していただくことを掲げていますので、開業当初に色々な事務所の先生方の話を聞いたことは正解だったと思います。
そのような中で、自分が目指す税理士としての姿とはいったいどのようなものなのか、その方向性を自分自身で定めることの重要性を教えてくださったのがTKCの先生です。

開業前に事務所の方針を定める

今になって思うことは、開業前の時間のある時に「事務所の方針」を定めたのはとても重要な事だったと思います。

「事務所の方針」が決まれば、その方針を実現するために自分がどのように行動すれば良いかが見えてきます。
やみくもに「顧問先が欲しい!」と思うのではなく、「どんな税理士を目指すのか」→「顧問先にどのようなサービスを提供するのか」ということから逆算して「どんな顧問先を獲得していくのか」ということを考えるようになります。
具体的に考えることで、より具体的な行動につながっていきます。

事務所の方針が「お客様」を絞り込む

私はまず初めに、「経営者の方にとって専門家として必要とされる事務所にしたい」、という方針を掲げました。
これを実現しようと思うと、まず「記帳」という作業に時間は割けないと考えて、「記帳代行」を望むお客様はターゲットから外れます。
開業当初は顧問先を増やすことが目的になって、お客様が望むように自分たちが合わせてしまう、ということをしてしまいがちです。
開業当初で時間があるうちならば、また、所長がすべてのお客様の対応をしているうちならば、自分の頑張りでどうにかなるかもしれません。
しかし、顧問先が増えて忙しくなり、従業員に仕事を任せたいという時になると自分の頑張りだけでは対応が難しくなります。
私の事務所に税理士変更されたお客様に話を伺うと、そのような状態に陥った税理士事務所への不満から税理士変更に至っているケースが多いように思います。

事務所の方針が「強み」を作り出す

税理士として顧問先に必要とされるために、資金繰り支援ができることは強みになるとも感じていました。
ですので、開業前に地元の銀行や日本政策金融公庫に自分の名刺と事務所の方針書、提供できるサービスをまとめて挨拶まわりをしました。
今の事務所に決めたのも地元地銀が真横と斜め前にあったというのは大きいです。
開業時には地元地銀それぞれに税理士当貸(税理士当座貸越制度)の枠を作っていただき、日本政策金融公庫からは事業資金を借入ました。
まずは自分自身が金融機関のお客になって、本気で税理士業を始めることをアピールしました。
今でも金融機関のご担当者様とは定期的にお話しさせていただいて、情報交換などを続けています。

現事務所の写真、事務所スタッフの写真
現事務所の写真 事務所スタッフの写真

事務所の方針が「サービス」と「報酬」を決める

また、「規模の大小にかかわらず顧問先には同じサービスを提供する」、ということも決めています。
私の事務所は開業から丸4年が過ぎたばかりのまだまだ創業期の事務所ですので、新規開業のお客様も少なくありません。
開業間もないころ、新規の相談のお客様で「まだまだ小さな会社なので、毎月の顧問は必要ないので、その分顧問料を安くしてほしい」と言われたことがあります。
毎月の巡回監査の必要性をお話しして、顧問料についても報酬体系により決定するので、ご理解いただけない場合には顧問契約は結べないことをハッキリと伝えました。
本当は顧問料を下げてでも顧問先を獲得していきたい時期でしたが、今考えるとそれで良かったと思います。
事務所の方針にご納得いただいて顧問させてもらっているお客様がいるそばで、それをブラすことをしてしまうのは、事務所と顧問先の信頼関係を崩すことにもなりかねないと考えているからです。

事務所の方針が「事務所の発展」につながる

自分の事務所の方針に合わないお客様を顧問先にしないので、ストレスもかなり少ないと感じています。
無理難題を押し付けられたり、顧問料の値上げ交渉ができない、ということもありません。従業員の皆さんとも事務所の方針を共有することで、どのような姿勢で業務にあたるのかをしっかり意識しながらお仕事を頑張ってもらえます。
それが従業員の皆さんの成長につながり、お客様の満足につながり、そして事務所の発展へとつながっていくと信じています。

メッセージ最後にお伝えしたいこと

開業時の先生方にとって、一番の関心ごとは「顧問先の拡大」だと思います。
事務所の発展のためには、もちろん「顧問先の数」は必要だと思います。
私も仲間の先生方が顧問先の数を増やしていくことに焦りを感じていた時期もありました。
暇な時間が怖いと感じて、忙しくなりたいと思っていました。
でも、実は「顧問先を増やすことよりも、事務所の方針に合わない顧問先を解除することが、本当に苦労する」そうです。
せっかく自分の事務所なのだから、こちらがお客様を選んだっていいと思います!
それは傲慢でも高飛車でもなくて、お客様と自分、お互いの為だと思います。

一緒に切磋琢磨しながら頑張っていきましょう!