対談・講演

支援機関同士が顔の見える関係をつくり、中小企業を支援しよう!

高田坦史 中小企業基盤整備機構理事長 × 坂本孝司 TKC全国会会長

とき:平成29年4月17日(月) ところ:中小企業基盤整備機構本部

中小企業基盤整備機構(中小機構)は、販路開拓、海外展開、創業、事業承継など、幅広い面で中小企業を支援している。TKC全国会・TKCとの3者で業務連携の覚書も締結し、各地での連携も進む中、同機構の高田坦史理事長をTKC全国会坂本孝司会長が訪ね、中小企業の置かれた現状やこれからの中小企業支援の方向性などを語り合った。

◎進行 TKC全国会事務局長 浅香智之

巻頭対談

中小企業の約7割で人手不足が深刻 売り上げや利益にも影響が出てきている

 ──本日はお忙しいところありがとうございます。まず高田理事長から、日本の中小企業が置かれている現状をどうご覧になっているかお聞かせください。

中小企業基盤整備機構理事長 高田坦史

中小企業基盤整備機構理事長
 高田坦史

 高田 中小機構が商工会等と一緒に行っている「景況調査」によると、今年の1─3月期は、2期ぶりに業況判断指数が1.7ポイント改善されました。下がり気味だった景況感はそれなりに改善しはじめています。ただし今年の1─3月期は為替が円安に振れたトランプ効果がありました。したがって輸出関係が全体的に良かった。その反映だとすると、現状はやや心配な状況にあります。それがまず一つです。
 それと今回、以前から問題になっていた人手不足の現状についてアンケートを行ったところ、約1000社の企業から回答がありました。その結果によると、人手が足りないと考えているのが全体の7割くらい。そのうち5割強が、「大変深刻」あるいは「深刻」だと回答しています。現実的に人を雇用しにくくなっており、売り上げや利益にも影響が出だしているという人が3割くらいいるのです。
 今までは労働力人口がある前提で、需要を刺激するという経済政策をずっとやってきました。だから人手不足が進行するというのは、景気が良くなることに連動していたわけです。それがこの1年近く、ややその動きが変わりつつあります。要は、人手不足が進行するに従って景況感自体が横ばいないし、下がっているわけです。総人口が2008年から減少に転じていますが、労働力人口はその前(1998年)から減少しています。今後もこの傾向が続いていくと思われますが、人手不足の問題は単なる人口の減少という段階から、労働力不足、供給不足という、経済成長の足を引っ張るマイナスのファクターに変わってきているという感じがします。

 坂本 現場の実感としても人手不足の影響は大きくなっていると思います。

中小企業は海外も含めて需要を探して出ていく必要がある

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 中小機構さんが中小企業から受ける相談としては、どのようなものが多いのですか。

 高田 「よろず支援拠点」には、昨年度で約20万件の相談がありましたが、「売上拡大」の相談が多く、約7割を占めています。

 坂本 確かに中小企業の一番の悩みは売り上げの確保です。それに対してどのような手を打つべきだとお考えですか。

 高田 人口減少=市場縮小、個人消費の低下という基本的な問題があります。これに対して日本の中小企業は需要を探すことが重要です。地方ではさらに人口が都会に移ってしまうことから、「地方の中小企業は都会の需要をつかみなさい」という言い方もできます。
 それから日本全体が伸びきれない、ないしは縮んでいくとするならば、やはり大企業のように海外に出るしかないというのが有力な選択肢です。2013年からスタートした「日本再興戦略」では、5年間で新たに1万社の海外展開を実現するという目標があり、それに向けてずっとやってきました。私が着任した当時の2013年ごろの調査を見ると、海外に関心がある中小企業は3~4割でした。それが今年1月ごろ調べたところ、海外への関心を持つ中小企業が7割くらいに増えています。

 坂本 倍近く関心が伸びているのですから、すごい変化ですね。

 高田 TPP問題で、ある種国民的な議論が巻き起こったことも追い風になったことは間違いありませんが、「国内だけではだめだ」ということを伝え続けてきた効果が出ていると感じています。
 海外は消費市場として見てもいいし、生産拠点として見てもいい。実際にどうするかという具体策の問題はありますが、まずはその気になってもらうのがスタートですから、その流れがようやくできつつあると思います。

 坂本 私の事務所がある浜松でも、従業員が10人から50人といった規模の中小企業がタイやインドネシアに進出して、何百人も雇用する子会社を作っています。時代は変わりました。中小機構さんもわれわれも、これをどう手助けして差し上げるかが問われていると思います。

後継者不在の企業情報を集約する「事業引継ぎ支援センター」を知ってほしい

 坂本 経営者の高齢化も中小企業の大きな課題になっていますが、「事業引継ぎ支援センター」の事業についてお聞かせいただけますか。

 高田 経営者の平均年齢はいま60歳を超えていますが、事業承継の平均年齢は70歳ぐらいですから、10年経てば多くの経営者が承継の問題に直面します。
 ところが『中小企業白書』によれば、60歳代の経営者のうち6割は後継者のことを考えていないとされています。後継者がいればいいですが、いなければ売却するという選択肢があります。しかしそういう売り手や買い手がどこにいるのかという情報の集まる場がない。これが問題なのです。
 そこで、事業引継ぎ支援センターの全国本部が主導して、そういう情報のデータベースを作りました。今はまだ1万社くらいのデータで、売り手が8千件、買い手が2千件ぐらい登録されているという状況です。これをもっと充実させていくようにします。
 このデータベースは、守秘義務契約を結んだ上で、金融機関を中心とした民間の皆さんに見てもらえるようにしており、税理士さんでもそういう業務をする場合は、データを見ることができるようにしています。

 坂本 私が開業した36年前は、町工場の経営者などは絶対に一族に事業を継がせるといった思い入れがすごく強く、売るなんてあり得ないという感じでした。それがここにきて、少し経営者の考え方が変わってきたように見えます。「後継者がいないから、どこかいい売り先があったら教えてください」という相談が普通に出るようになってきています。

 高田 創業者は自分の会社がわが子のようにかわいいわけですよね。通常は自分の親族に継がせなければいけないという執着というか愛情が強い。それが若干変わりつつあるということでしょうか。

 坂本 全部とは言いませんが、相当な比率で親族外への引継ぎないし、会社を売ってもいいという人が増えているのは事実です。それをどうやってマッチングするかなのです。
 少し背中を押してあげると乗ってくる経営者が相当数いるというのが一実務家としての実感です。そういう案件があったときに、われわれが事業引継ぎ支援センターに相談を持っていけるという立て付けにしていただけるとありがたいですね。

 高田 事業引継ぎの支援は長い道のりになると思いますが、まずは事業引継ぎ支援センターの存在を皆さまに知ってもらいたいですね。まだとりかかったばかりなので、これからの大きなテーマだと思っています。

生産性向上にはICT活用が不可欠 若い人はチャンスととらえてほしい

 坂本 そのほかに生産性向上の支援などを掲げておられますね。

 高田 先ほど述べた人手不足問題に関連して、生産性の向上が必要とされます。今までは人手不足に対して、残業や多能工化、習熟度の向上といったヒト系の工夫で対応してきました。これから考えていかなければならないのはICTを活用することです。
 大企業と中小企業で大きく差が出るのはICTの活用です。アメリカとも差が開いています。アメリカはインターネットを導入して2000年ごろから大きく変わっています。日本は大企業はともかく中小企業が遅れている状況で、早急に中小企業がICTを使いこなせるように取り組まないといけません。

 坂本 これは特に小規模事業にとって大きな課題だと思います。

 高田 もう一つ、創業を増やす取り組みを行います。創業の数が増えて廃業・倒産の数を上回れば、全体の中小企業数は増えます。ICTは若い人たちに引っ張ってもらいたいですし、医療関係やヘルスケア関係のベンチャーがもっと増えてもいいと思います。
 産業構造の転換を図るにはそういうところに出てきてもらわなければなりません。逆に言えば人手不足という環境変化は、そういう人たちにとってチャンスなんですよ。

 坂本 分母となる企業数が減るわけですから、知恵を発揮していくことで付加価値を上げられます。

 高田 そうなのです。知恵を生かす好機ととらえてほしいのです。

7000プロジェクトはTKC会員の実行力を示した

 坂本 TKC全国会では7000プロジェクトを結成して、昨年まで中小企業再生支援全国本部と連携して「認定支援機関による経営改善計画策定支援事業」に取り組みました。今後の経営改善支援について、高田理事長はどのようにお考えですか。

 高田 7000件の目標に対して実績が6000件弱だったとお聞きしていますが、事業全体の実績に対する割合で約45%を占めているんですよね。認定支援機関全体に占めるTKC会員の割合は28%ぐらいであるのに対して45%の実績を挙げておられるのだから、これは大変な実行力ですよ。前から申し上げていましたが、TKC全国会のように中小企業支援策を一斉に実行推進できる組織は、あまり見たことがありません。
 経営改善計画策定支援の件数は減少傾向にありますが、これからは通常業務の中で、早期に経営改善を支援していくという形が主流になっていくのではないでしょうか。

 坂本 TKC会員もそれぞれ自分の事務所があって、一国一城の主ですが、よくぞ志を受けてやってくれていると思います。
 再生支援全国本部と連携して、傷んでいる企業の経営改善を相当数支援してきましたが、その過程で金融機関とも親しい関係ができましたし、経営者にもより踏み込んでいけました。税務・会計の専門家であるだけでなく、経営改善のノウハウも身に付けることができました。中小機構さんと金融機関、認定支援機関であるわれわれ税理士とで、よい枠組みができつつあるなと感じています。
 この成功事例を踏まえて、今後も税理士をうまく活用していただけるとありがたいです。税理士は日本の法人企業の約9割に関与しており、社長個人、家族、従業員、会社全体を現場で見ています。マクロ的な施策をするときに、われわれをうまく組み込んでいただければ、血の通った施策が展開できると思います。

経営者に考えてもらう素材をデータで提示するのが会計人の経営助言

 坂本 TKC全国会では、職業会計人の社会的役割を改めて整理し、向こう2年間の運動方針を決めたところです。これまでは税理士の業務が日本では税務に偏ってしまっていました。アメリカでは50年前から言われていることですが、職業会計人には四つの分野の専門家として社会的役割を発揮することが期待されています。「税務」「会計」「保証」「経営助言」がその四つです。
 これらの中心には「会計帳簿」があり、その数値を使って税務申告書を作ったり、決算書を作ったり、あるいは決算書や申告書の信頼性を保証する。経営助言の際は、ぼんやりと「頑張って売り上げを増やしてください」というのではなく、正しい財務データを使って「社長、あと年間3千万円売上高を増やせば大丈夫です」というように具体的な数字で示す。これがわれわれの仕事だと思っております。
 経営状態を数値化してどれだけ頑張ればいいかということを示せる経営者は少ないのです。高田理事長がトヨタ自動車にお勤めのころは、数字を使って管理することが多かったのではないですか。

 高田 その通りです。販売目標の設定にあたってどのくらいのシェアを取りにいくか、商品のラインナップをどうしていくか、ブランドをどのように植え付けていくかにしても、すべて数字で管理します。

 坂本 今の中小企業に足りない部分は、そこだと思います。

 高田 自動車は国土交通省に登録するので、今どこにどのくらいの車があるか、今年新たにどのくらい需要が生まれたのかなどの実績が全部分かる。だからマーケティングもやりやすいのです。

 坂本 われわれがやりたいのもそういうことです。TKC全国会では「会計で会社を強くする」というフレーズを掲げていますが、数字とシステムで客観事実の7、8割を押さえられます。単なる数字の集計ではなく、部門別や支店別、ライン別といった課題発見に役立つ数字を社長さんに提示して、「ここに課題があります」とお伝えし、どう解決するか考えていただく。そこがわれわれの仕事です。マーケティングのための素材を出すということなのです。

 高田 中小企業にも必要なことですよね。

 坂本 中小企業ではすべての経営者がそういうサービスを受けられているわけではなく、やみくもに頑張っているケースも多いのです。ここをしっかりさせて、マーケティングを考えられるレベルに持っていこうということです。
 トヨタでは会計数値はどのくらいの頻度で経営者に上がっていくのですか。

 高田 月次決算は当然です。販売だと現場の数字は毎日上がってきます。毎日、今日は予定通りにいったかを確認します。

 坂本 ITを使って中小企業でも経営者に続々と数字が上がってくるようにしたいと思っているのです。

 高田 企業のオペレーションとしてベーシックなことですよね。結果が見えなければPDCAが回らない。具体的な戦略・戦術がこれでいいのかどうか分からないままになってしまいます。

「中小企業会計啓発・普及セミナー」を1000回目標で共催予定

 坂本 今の話の大事な根っこにある「会計」について、普及するためのセミナーを中小機構で企画されていますね。

 高田 中小機構では、中小企業大学校の事業として「中小企業会計啓発・普及セミナー」を行っています。これは各支援機関との共催の形をとっており、過去に全国で4240回開催し、延べ12万2千人の受講実績があります。

 坂本 TKC会員事務所は毎年秋から冬にかけて全国で事務所主催の経営者向けセミナーを開催しておりまして、今年も3000回を目標にしているのですが、そのうち1000回は、中小機構さんの「中小企業会計啓発・普及セミナー」企画に参加させていただく形で一緒に取り組ませていただきたいと考えています。

 高田 ぜひよろしくお願いします。

「中小企業会計啓発・普及セミナー」の趣旨
中小企業者の皆様が『中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)』に沿った決算書を作成することの意義、財務情報の経営活動への活用方法等について理解を深めることにより、自社の経営状況を把握し、金融機関からの資金調達力の強化、取引先からの受注拡大等へのきっかけをつかんで頂くことを目的としています。 (資料:中小機構リーフレット)

中小企業のリスク対策に共済制度を使わないのはもったいない

 坂本 中小機構さんとTKC会計人が連携している活動の一つに小規模企業共済と中小企業倒産防止共済の加入促進があります。

 高田 小規模企業共済は、小規模事業者を対象にした、いわゆるセーフティネットです。メリットを知るとみんな入るというぐらい競争力が抜群にあります。だからこれは利用していただかないと大変にもったいないことです。私が中小機構に来たときは約120万という加入者数で、すごい数だと思ったのですが、全体の事業者数のベースからすると3分の1程度。もっとできるはずだから力を入れようと取り組んで、平成27年度末までに128万ぐらいに増えました。
 具体的に加入促進していただいているところには、金融機関や、商工会、商工会議所などがありますが、TKC会員の皆さんもかなりのウエートを占めています。
 中小企業倒産防止共済のほうになるとTKCのシェアはもっと高くて、2割ぐらいになっていますね。すごい結束力と実行力だと思います。

 坂本 倒産防止共済も、節税の面でもすごくメリットが大きいですし、セーフティネットとしては最高です。

 高田 分かっている方が見たら何で加入しないのか不思議なぐらいですが、まだ入っていない方がいっぱいいらっしゃるので、もっと利用していただかなければならないと思っています。

 坂本 われわれもまだ努力不足のところがあると思うので、もう一回基本に戻ってすべてのお客さまにお勧めするということを確認させていただきます。

中小企業支援者へのガイド役を期待 お互いに顔の見える関係づくりを

 ──一昨年に三者協定が結ばれて、毎月関係者が集まって会議を開催し、いろいろな連携が出てきています。高田理事長がTKC会員1万名に特に期待していることを伺えますか。

中小機構の重点的取り組み
●海外展開支援
●事業引継ぎ支援
●創業支援
●ICT化支援

 高田 TKC全国会では自計化支援に力を入れられています。これは、中小企業の皆さんが存続できるように、自分たちで数値での管理を実践しなさいと仕向けているわけですよね。そういう一つのベーシックな考え方をしっかりお持ちです。先ほど坂本会長がお話しされた通り、単純に数字を集計するだけでは、今やダメなわけであって、集計した結果からその先を見て手を打っていかないといけないという考え方が必要だと思います。そういう意味ではまったく考え方が一緒なので、坂本会長が示されている方向性で取り組んでいただければいいと思います。
 これに加えて私が皆さんにお願いしたいとするならば、今日お話しした当機構が重点的に取り組もうとしている4項目、「海外展開」「事業引継ぎ」「創業」「ICT化」の支援について、経営助言と絡めて取り組んでいただきたいと思います。中小企業の一番身近にいらっしゃる顧問税理士の皆さん、TKC会員の皆さんに、ぜひともしっかりやっていただきたいです。
 もちろん海外展開支援や創業支援などには、すでに取り組んでいただいていると思います。しかし、全員がこういうものすべてに精通するなどということはとても難しいわけですから、さまざまな支援機関を活用してください。これらに関わっている人たちがたくさんいますので、他の支援機関の皆さんがやっていることをご理解いただいた上で、「そういう課題があるならここに行ってください」というガイド役をやっていただきたいということです。
 それをより実のあるものにするためには、各支援機関との関係を「顔の見える関係」にしていただくことが重要です。例えば、「よろず支援拠点へ行ってください」とアドバイスするならば、詳しい場所も教えるとか、よろず支援拠点の誰々さんに会うといいとか、「ひと言言っておきますから」というふうにしていただきたいですね。そういうやり方がこれから大事です。

 坂本 われわれにもできない部分がありますから、餅は餅屋でやるべきですね。専門家派遣なども全部そうですから。全国的によろず支援拠点と顔の見える関係をつくるというのを一つの方向に加えていくことも大事だと思います。

 高田 要は中小企業がいなくなったら、中小企業をお客さまとしているところのいろいろな仕事がどんどん縮んでいくということです。皆さんに創業を支援していただいて、どんどん中小企業数を増やしていかなければいけないし、既存の中小企業には経営支援をして元気になってもらわなければいけない。中長期的な視点でそうしたことの必要性を再確認していただきたいと思います。

 坂本 高田理事長を代表とする中小機構さんが、ここ数年、われわれTKC全国会とより強い連携関係を築いていただけたことに感謝しております。
 これはまだ第1ステップの段階なので、本当の意味で日本の中小企業に貢献できるよう、より強固な連携を取らせていただきながら、中小企業を指導し、支えるような仕事をしてまいりたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いします。

高田坦史(たかだ・ひろし)氏

トヨタ自動車株式会社宣伝部長、取締役、常務役員、専務取締役、トヨタアドミニスタ株式会社代表取締役会長、株式会社トヨタマーケティングジャパン代表取締役社長等を歴任し、平成24年7月 独立行政法人中小企業基盤整備機構理事長就任。

(構成/TKC出版 蒔田鉄兵)

(会報『TKC』平成29年6月号より転載)