寄稿

「会計で会社を強くする時代」にあって

会計とは何か

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

「会計とは何か」と関与先の企業経営者から聞かれると、答えに窮するのではないでしょうか。

「会計とは企業の言語」などと言われますが、会計学者もいろいろな言い方をしています。会計とは「財産の変動とその現状を明らかにするシステム」と言われる方や「利益を計算するシステム」などと言う人もいます。

 中央経済社刊行の『会計学大辞典(第5版)』には次のように書かれています。

「会計の本質は、会計責任に基づく財産に関する計算、換言すれば、管理する財産に関する責任ある計算にある。会計は、簿記(財産の変動記録)、監査(他者による検査)、報告(他者への説明)及び責任(不正等の罰)を伴う。」『会計学大辞典(第5版)』(中央経済社)

 すなわち会計は財産を計算するシステムであると説明しています。また同じ出版社から刊行されている『財務会計(第13版)』では、次のように定義しています。

「会計とは経済主体が営む経済活動およびこれに関連する経済事象を測定・報告する行為をいう」『財務会計(第13版)』(広瀬義州著・中央経済社)

 日本を代表する会計学者である故武田隆二博士(元神戸大学教授・TKC全国会第3代会長)は、次のように記述されています。

「会計とは、企業の経済活動を通じて変化する貨幣資本の変動過程を追跡し、その結果としての貨幣資本利益を算定する行為を指す。従って、会計の目的は、企業目的である貨幣資本利益の最大化の原理を受けて、貨幣資本の増殖分としての期間損益を適正に決定することに求められなければならない」『会計学一般教程(第5版)』(武田隆二著・中央経済社)

 このように、さまざまな解釈が成り立つ「会計」の意義を、実務を担うわれわれ会計人としては、どのように理解したらよいのでしょうか。

「会計で会社を強くする」とは

 今から600年程前に、債権や債務の備忘録としてイタリアで発生した複式簿記が、やがて「会計」へと進化したのは、イギリスの産業革命による産業構造の変革期、とりわけ19世紀に入ってからのことです。

 産業革命による産業構造の変革は、巨大な株式形態を登場させ、それに伴って、会計諸法令に準拠した制度会計、管理会計、キャッシュ・フロー計算書などさまざまな新しい会計制度を生み出しました。

 複式簿記と会計の関係について、大阪経済大学・渡邉泉名誉教授は次のように述べています。

「貸借対照表や損益計算書によって企業の財政状態や経営成績を株主や債権者等の利害関係者に報告するという役割は、簿記の段階ではなく、本格的な情報開示は、会計へと進化した段階ではじめて機能したということができる。

 簿記が単なる経済的情報の記録・計算・報告のための技法であるのに対して、会計は、それに加えてどの経済的情報を対象に取り入れ、どの情報を対象から取り下げるかなどの判断を行う。また、資産や負債、費用や収益の価額を単に計算するのではなく、どのような物差しで計るのかを決めるのも会計の重要な役割である」『会計の歴史探訪』(渡邉泉著・同文館出版)

 このように会計は、簿記を超えた機能があると述べています。

 今日の中小企業経営において「会計」は、企業会計とも呼ばれ、その利用行為としては、利益の計算にも使えるし、財産の計算にも税金の計算にも使えます。

 利害関係者への報告に加えて管理会計として企業経営をコントロールする手段ともなれば、経営方針の決定にも、さらに経営分析による企業評価にも利用され、それぞれに応じて威力を発揮します。

 まさに会計がもつ機能を経営に活かすことが「会計力」であるといえます。その会計力を高めることなしには企業の成長と発展はあり得ないのです。

「会計で会社を強くする」このフレーズの生みの親であるTKC全国会坂本孝司副会長が、その著書『会計で会社を強くする』(TKC出版)で書いているように、その意味するところは「関与先経営者に『会計力』を徹底して高めてもらうこと」にあります。

 今日まで、大小さまざまな企業の倒産廃業が後を絶ちません。中小企業庁が最近発表した資料によれば、全国の中小企業・小規模事業者の数は2014年7月時点で309万者で、2年前の2012年に比べ4.4万者、1.1%減少したとされていました。この減少傾向は長く続いており、バブルの絶頂期と比較して200万者近くの企業が減少していることになります。

 このような状況が続く根本的な原因はどこにあるのでしょうか。結論からいえば、経営者の誤解にあるように思います。それは自分の企業の経営の現状に対する誤解、経営の先行きに対する誤解などです。そしてそれは「会計力」を経営に取り込まなかったという誤解でもあるのです。

 このことは、われわれ会計人にも「会計力」を指導する支援が不足していたという点で責任の一端があると思うのです。

「会計で会社を強くする」力量を磨こう

 今、会計事務所経営は一大転換期を迎えています。P・F・ドラッカー博士は、「ゼロ成長を当然のこととしてはならない」として次のように述べています。

「不況のために成長はできない。しかし、量的な成長はできなくても質的な向上はできるはずである。自らの強みは何か、その強みはどこに適用すべきか。自らの強みを知り、その強みに集中することによってのみ飛躍の機会がある」(『実践する経営者』上田惇生訳・ダイヤモンド社)

 それでは、われわれTKC会計人の強みは何であり、それをどこに適用すべきなのか。

 それは会計を経営に活かす力(会計力)を高めること、すなわち「会計で会社を強くする」ことにあります。

 本年度の年度重要テーマ研修は、「マイナンバー・複数税率・クラウド会計・フィンテック──これらの変化に対応し、危機を突破する事務所経営戦略とは」です。

 すでに受講された会員が多くおられますが、当研修の狙いとするところは、会計事務所の体質を強化して、関与先企業へ高品質の業務サービスを提供して、究極的には、関与先経営者の「会計力」を高めてもらうことにあります。

 すなわちすでに実践している「K・F・S」活動の強みを事務所総合力として集中的に取り組むことに尽きます。そのことが結果として、経営者の「会計力」強化につながります。

 これを必須研修と位置づけていますので、すべての会員が受講され、事務所総合力が発揮できる体制を構築していただきたいのです。

 本年度はこれに続き「TKC方式による自計化ステップアップ研修」(TKC主催)が開催されています。

 さらに職員向け研修として、「KFS実践講座」の一つである「現場力養成講座」(旧・巡回監査実践講座)がスタートします。本研修はリニューアルされた教材に基づいて、「巡回監査編」と「会計指導力編」から構成されています。職員の戦力化を図るためぜひ多くの職員を受講させてください。

 変化の激しい時代にあって、今が「会計で会社を強くする」絶好のチャンスなのです。

 第1ステージの最終年にあって、全会員が、自らの力量を磨き、関与先経営者の会計力を徹底して高めてほしいと強く願う次第です。

(会報『TKC』平成28年6月号より転載)