2018年4月号Vol.110

【特集】100% デジタル化へ

──転換点を迎えた行政サービス

内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室内閣参事官 柴崎哲也氏
インタビュアー 本誌編集人 湯澤正夫

e-Japan戦略の策定から17年。いまや国民の8割以上がインターネットを利用し、ライフスタイルや仕事のあり方も大きく様変わりした。こうした時代環境の変化を踏まえ、行政サービスも国民・利用者視点に立って「デジタルファースト」へと舵を切らなければならない。国は、昨年末に「IT新戦略の策定に向けた基本方針」を示し、その動きをますます加速させている。今、市区町村は何をすべきか──内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室の柴崎哲也内閣参事官に聞く。

柴崎哲也(しばざき・てつや)

柴崎哲也(しばざき・てつや)
兵庫県出身。1993(平成5年)総務省(旧郵政省)入省。総合通信基盤局データ通信課課長補佐、大臣官房総務課課長補佐、内閣府沖縄政策担当政策統括官付企画官、総合通信基盤局事業政策課市場評価企画官などを経て、2017年より現職。

──「行政サービスのデジタル化」が国のIT施策の重点課題となっています。その背景を教えてください。

柴崎 わが国では2000年以降、世界最先端のIT国家を目指した取り組みが進められてきました。この間、情報システム改革や業務の見直しなどでは一定の成果を挙げています。しかし、行政サービスのデジタル化という点では、その多くがいまだ“紙”の書類の提出を求めています。インターネットが社会の隅々にまで広がっているのに、行政がそれに対応できていないのは、多くの住民・事業者にとって不便なのではないでしょうか。また、市区町村の業務効率化の観点からも改善すべき課題です。
こうした現状を踏まえ、昨年5月に策定された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」において、添付書類も含めてこれまでの紙文化から脱却し、行政手続きなどの“原則オンライン化”を推し進めるとの方針が示されました。
また、基本計画の重点分野の一つである電子行政について、方向性や活動計画を示した「デジタル・ガバメント推進方針」と「デジタル・ガバメント実行計画」では、行政のあり方そのものをデジタル前提で再設計することを宣言しています。これを受け、各府省に対して今年6月をめどに中長期の実行計画の策定を求めています。

──そして昨年末には「IT新戦略の策定に向けた基本方針」も示されました。毎年夏頃に公表されるIT戦略を待つことなく、こうした方針が先に示されるのは異例といえますね。

柴崎 そうですね。行政サービスのデジタル化は掛け声だけでは進みません。すでに各府省が中長期計画の策定に動き出しています。計画に掲げられた事項の中には、その実現に法律改正が必要となるものもあります。
基本方針は昨年末に、内閣総理大臣をトップとする「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」と「官民データ活用推進戦略会議」で決定されたものです。その場で、安倍晋三総理から「電子申請にかかる紙の添付を一括して撤廃」する法案の作成に着手するよう指示がなされました。われわれは、これを仮称として「デジタルファースト法案」と呼んでいますが、今秋の臨時国会にも関連法案が提出できるよう準備を進めています。
基本方針は、この一連の動きの起点に位置付けられます。

“デジタル改革”断行へ基本方針が掲げた三つのテーマ

──基本方針の内容を教えてください。

柴崎 基本方針では、今夏に策定するIT新戦略の軸に「ITを活用した社会システムの抜本改革」を据え、そのため①行政サービスのデジタル改革断行②民間部門のデジタル改革およびIT・データ活用ビジネスの推進③地方のデジタル改革──へ取り組むことを明言しました。このうち行政サービスのデジタル改革断行では、「行政サービスの100%デジタル化」「行政保有データの100%オープン化」「デジタル改革の基盤整備」──の三つのテーマが掲げられています。
第一に、中で最も重要なのが「行政サービスの100%デジタル化」です。
昨年、内閣情報通信政策監(政府CIO)の指揮の下で各府省庁の行政手続きの棚卸し(実態調査)を行いました。その結果、約4万3000ある行政手続きのうち、デジタル化されているのは約5000件(12%)にとどまっていることが分かりました。また申請内容を詳細に分析すると、395(0・9%)の手続きで申請件数全体の98・2%を占めていました。つまり、このわずか0・9%の行政手続きをデジタル化するだけでも、現状が大きく改善されるわけです。
今後、デジタル・ガバメント推進方針で示された「デジタル化3原則」(デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップ)に沿って、行政のあらゆるサービスを最初から最後までデジタルで完結させます。
まずは、オンライン化を徹底するため本人確認手続きの見直しと、行政事務の慣習を一から見直す業務改革(BPR)を進めます。
次に、ワンスオンリーの具体的な取り組みとして添付書類の廃止があります。これは先述の法律改正と、行政機関同士の情報連携のためのシステム整備の2段階で進めます。
さらに、コネクテッド・ワンストップということでは、すでに子育てワンストップサービスがスタートしています。これを成功モデルとして、介護、死亡・相続、引っ越しのライフイベントを基幹プロジェクトと位置付け、民間サービスとの連携も含めたワンストップ化の実現へ取り組みます。

──なるほど。

柴崎 第二のテーマが「行政保有データの100%オープン化」です。これは行政保有データの原則オープンデータ化を徹底し、データを活用したイノベーションや新ビジネスの創出を後押ししようというものです。
当たり前の話ですが、オープンデータの前提条件として、公開しようとする行政保有データが電子的に保管・管理されていなければなりません。しかし、国の実態調査の結果、電子的に保管・管理されているデータは20%程度でした。また、オープンデータへ取り組んでいる自治体は42都道府県が100%であったのに対し、市区町村は15%程度にとどまっています。
一方、オープンデータが民間ニーズに対応したものとなる工夫も必要です。このため、今年に入り観光・移動インフラ・防災など多分野について官民ラウンドテーブルを2回開催しました。今後、行政保有データの棚卸しリストを公開して潜在的なニーズの掘り起こしなどにも取り組む考えです。
第三が「デジタル改革の基盤整備」です。これは国と地方、民間の全てがデジタル改革やデータ連携に取り組む上での基本ルール(やコード、文字などの標準化)を整備するものです。先行分野として医療・農業分野でのデジタル改革・データ連携を進め、ベストプラクティスの創出を目指します。

5年後の実行計画のゴールへ市区町村がなすべきこと

地方公共団体に求められる取り組みとその効果

──そうした国の取り組みを地方へも横展開しようというのが、基本的方向性の三つ目に掲げられた「地方のデジタル改革」ですね。

柴崎 そうです。行政サービスを提供する上で、国民・利用者と最も接する機会が多いのは市区町村の皆さんです。したがって、利用者視点で考えれば、地方の行政サービスについても原則デジタル化の推進と手続きの見直しが欠かせません。
そのため基本方針では、地方のデジタル改革として①地方の行政サービスの原則デジタル化②オープンデータの推進・活用(原則オープン化)③IT・データ活用による行政・生活サービスの高度化──へ取り組むことを打ち出しました。
市区町村はそれぞれ地域特性や抱えている課題などが異なり、なすべき取り組みは一様ではありません。ただ、可能な限り国と歩調を合わせたデジタル改革を進めていただきたいということです。
中でも行政サービスのデジタル化については、添付ファイルも含めて原則デジタル化を進めるとともに、その前提として業務システムのクラウド化によりコスト削減や業務の標準化を図ることが大切といえるでしょう。

──基本方針では、それらの取り組みが円滑に進むよう、地方公共団体の「官民データ活用推進計画」の策定も支援するとしています。

柴崎 話は前後しますが、16年末に公布・施行された「官民データ活用推進基本法」では、国のほか都道府県にも「官民データ活用推進計画」の策定を求めています。都道府県については20年度末までが一つのゴールと期待される一方、市区町村については努力義務としています。
しかし、利用者から見れば国も地方も同様にデジタル化されるのが理想です。その意味では、市区町村も計画策定に着手していただきたいですね。実際、当室へ市区町村からの問い合わせも増えており、そうした先進的自治体から全国へ計画策定の動きが広がっていくことを期待しています。
また、そのための参考としていただけるよう『市町村官民データ活用推進計画策定の手引』をとりまとめ、推進計画のひな型も例示しました。
ひな型では推進計画に盛り込む個別施策として、①オンライン化原則②オープンデータの推進③マイナンバーカードの普及・活用④デジタルデバイド対策等⑤システム改革、BPR──の五つを例示しました。これらはいずれもデジタル改革実現に不可欠な要素であり、計画を策定する際にはぜひ検討していただきたいと考えています。

地方版計画の検討・策定状況

──計画策定にはかなりの労力と時間がかかり、特に小規模団体にとってはハードルが高いといえそうです。

柴崎 今年2月、全国の市区町村に対して推進計画に関する意向調査を実施したところ、都道府県とは対象的に厳しい結果でした。結果については今後、地方ごとに丁寧にご説明していきます。
計画を策定するといっても必ずしもゼロから作る必要はありません。すでに情報化計画を策定しているところでは、既存の計画に基本法が掲げる要素を追加する方向で検討いただければいいでしょう。また情報化計画を策定していない場合は、ぜひこの機にひな型を活用して計画を策定していただきたいところです。とはいえ、最初から完璧な計画を目指すのではなく、五つの施策についてもまずはできるところから着手するスモールスタートで構いません。
大切なのは計画策定をきっかけとして、これからの行政やサービスのあり方を再考することなのです。

Society5・0の時代へ利用者目線で考える

本誌編集人 湯澤正夫

本誌編集人 湯澤正夫

──今後の推進策として、地方公共団体に対してどのような働きかけを行っていくのでしょうか。

柴崎 現在、全国行脚をしながら、これまで国が取り組んできた業務システム改革の方法やノウハウなどの情報共有を図るとともに、三つのテーマに取り組んでいただくようお願いをしているところです。
その1点目が「オープンデータの推進」です。これまでもガイドラインや手引き書、事例集の提供に加えて、“伝道師”の派遣などを行ってきましたが、今後もこれを継続します。
2点目が「マイナンバー制度の活用」です。特にマイナンバーカードは行政サービスのデジタル化の“生命線”といえ、まずはより多くの国民に取得してもらうことが重要です。総務省が先進事例を公開していますので、ぜひ参考にしていただきたいですね。
3点目が「自治体クラウドの推進」です。これについては総務省と連携して先進事例を分析し、その結果を「自治体クラウドの現状分析とその導入に当たっての手順とポイント」としてまとめ公表しています。

──行政サービスのデジタル化はもはや避けようがなく、その動きはますます加速していきそうです。市区町村は今、e-Japan戦略以来の大きな転換期を迎えているということですね。

柴崎 02年の行政手続オンライン化関係三法など、これまでもデジタル化を推進する施策はありましたが、デジタル化を「第一=ファースト」としたのは初めての取り組みです。これを推進する上では行政機関の縦割りや、国と地方、官と民という枠を超えて行政サービスを見直し、行政の在り方そのものを変革していくことが必要でしょう。
ただ、誤解しないでいただきたいのはデジタルファーストや100%デジタル化といっても、それは「デジタルオンリー」ではないということです。
『平成28年通信利用動向調査』(総務省)を見ると、インターネットを利用する個人の割合は83・5%に達しています。これを詳しく見ていくと、やはりデジタル利用には世代間格差があることも否めません。10代後半~50代のインターネット利用率は90%以上と、ほとんど心配はありません。また60代でも75・7%の方が利用しています。しかし、70代以上の高齢者の方になるとがくんと利用率が落ちてしまいます。一口にデジタルデバイドといってもいろんな課題がありますが、行政手続きのデジタル化を本格化する上では、この年齢によるデバイドは重要な課題といえるでしょう。

IT新戦略の策定に向けた基本方針(概要)

──そうしたデジタル利用の格差を可能な限りなくす取り組みが求められますね。市区町村にシステムを提供する事業者としても、そうした方も含めて利用者視点にたった製品・サービスの研究が重要なテーマです。

柴崎 e-Japan戦略策定から17年が経過し、当時と今ではICTの進歩やそれに伴う利用者の価値観の変化において隔世の感があります。その点、行政サービスの本当の意味でのデジタル化は時代の要請といえるでしょう。
これまでの行政手続きの電子化は、必ずしも国民の利便性向上や行政事務の効率化につながっていませんでした。いまだなすべきことは多いと捉えています。この反省を踏まえ、基本方針では「Society5・0時代にふさわしい行政サービスを国民一人ひとりが享受できるよう、非効率なシステム化や書面による申請などにより、申請者の手間のみならず、行政のバックオフィス作業も含めて生じる官民のコストを削減しなければならない」と明言しています。
そのために、行政サービスを一気通貫でデジタル化するという大改革を断行し、国を起点として改革の波を地方や民間へ広げていく──それには、行政サービスの利用者と最も接する機会が多い市区町村の取り組みが鍵を握っているといっても過言ではありません。
市区町村において行政サービスのデジタル化を進める過程では、都道府県と国の支援が必要となるかもしれません。民間事業者の皆さんの役割も大きいでしょう。関係機関が、100%デジタル化という共通目標に向かって協力していければと願っています。

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

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