2017年10月号Vol.108

【対談】住民サービスや業務が変わる!
「官民データ利活用社会」がやってきた

内閣官房内閣審議官 情報通信技術(IT)総合戦略室室長代理(副政府CIO)
内閣官房番号制度推進室長 内閣府番号制度担当室長 向井治紀氏
本誌編集人 株式会社TKC 取締役常務執行役員 地方公共団体事業部長 湯澤正夫

世界規模で進む第4次産業革命を背景に、わが国の新たなIT戦略が動き始めた。昨年12月には、その基本法となる「官民データ活用推進基本法」が成立。国・自治体、民間事業者が持つデータの大流通時代の到来へ──いま市町村は何を考え、どう準備すべきかを考える。

向井治紀氏

向井治紀(むかい・はるき)
1981(昭和56)年、東京大学法学部卒、大蔵省(現財務省)入省。財務省主計局法規課長、財務省理財局国有財産企画課長、内閣官房参事官(社会保障国民会議担当)、財務省理財局次長を経て2010年より現職

湯澤 昨年12月に「官民データ活用推進基本法」が可決・成立しました。その基本理念には、地域経済の活性化・就業機会の創出を通じた自立的で個性豊かな地域社会の形成、新規事業の創出、産業の健全な発展と国際競争力の強化を図り、活力ある日本社会の実現に寄与する──と掲げられています。
 あらためて、その背景などについてお聞かせください。

向井 わが国では、2000年11月にIT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が制定され、本格的なIT施策がスタートしました。その後、戦略は随時見直され、目的もネットワークインフラの整備から、ITの利活用による「国民の利便性向上」「行政の効率化」へと変化してきました。この間に急速な技術革新が進み、いまやネットワーク上では多種多様かつ大量のデータが流通するようになっています。まさに“データ大流通時代”の到来です。
 そうした中で、国・自治体など“官”と“民間事業者”が保有するデータを相互に流通・利活用し、すべての国民がその便益を享受し、真に豊かさを実感できる社会を、世界に先駆けて構築するために策定されたのが、官民データ活用推進基本法です。今後はこれに沿った各種施策が推進されていくことになります。

行政手続きは原則オンライン化に

湯澤正夫

本誌編集人 湯澤正夫

湯澤 同法では七つの基本的施策が掲げられました。特に気になるのは、〈行政手続のオンライン利用の原則化・民間事業者等の手続に係るオンライン利用の促進(第10条)〉です。

向井 そうですね。官民を問わず、これまでの申請手続きは「相手と対面して、書類に記入し、押印する」のが一般的でした。つまり、業務の流れが“紙”を前提としていたわけです。もちろん従来も電子申請・手続きはありましたが、それらは“電子的にもできる”というもので、業務の流れは依然として紙が主だったといえます。
 しかし、これからは違います。行政手続きについては、今後、本人確認も含めてオンライン利用を原則とし、そのために必要な措置を講じます。ここまで言い切った法律は過去にはなかったと思います。

湯澤 おっしゃるとおりですね。

向井 二つ目が、〈国・地方公共団体・事業者による自ら保有する官民データの活用の推進等、関連する制度の見直し(第11条)〉です。これについては今後、個人情報に配慮しつつ国・自治体、民間事業者が保有するデータのオープン化を進め、さまざまな場面で利活用できるようにします。ここでいう“オープン化”には、単に情報を閲覧できるというだけでなく、利活用できるデータ形式とすることも含みます。
 人やモノが相互にネットでつながっていく時代には、自らが保有する情報を抱え込むのではなく、分野を超えて流通・活用することで新たな価値を生み出すことが大切です。例えばマクロの視点では、さまざまなデータを集約してビッグデータとすることで、がん治療の研究など医療分野での活用が期待できます。一方、ミクロの視点では個人の健康に関するデータを集めてマイナポータルで一元的に閲覧できようにすることで、その人の健康維持や将来の疾病予防・対策などに役立てることができるでしょう。

湯澤 その点では、個人も民間事業者も安心してデータを流通・利活用できるようにする必要がありますね。

向井 そうですね。またデータといっても実にさまざまです。これまで国・自治体が保有するデータは非公開が前提で、そのために情報公開請求の制度がありました。プライバシーの確保や個人情報保護などは今後も必要ですが、これらを除けば、本来、官が保有するデータは国民のものであるはず。そこで官が保有するデータは、匿名加工情報も含めて原則オープンにするということです。
 一方、民間事業者が保有するデータは事業活動の中で収集したものであり、そこには個人や法人の権利利益に関するものや他社との競争上重要な情報なども含まれ、単純にオープン化しろといえるものではありません。とはいえ、データを相互に利活用することで生産性の向上やイノベーションの創出も期待できます。そのため、可能な限りデータをオープン化し、相互利用できるようにすることが望まれますね。

行政手続き・業務の棚卸しがはじまる

官民データ活用推進基本法基本的施策(概要)

向井 また、そのために忘れてならないのが「情報システムの改革」です。これは紙や対面を前提とする従来の業務プロセスや申請手続きのあり方を見直し、情報システムを再設計して効率化と利便性向上を図ろうというものです。これまでは紙による業務プロセスをそのままシステム化したために、かえって使いにくくなるというケースもありました。さらに、そのために国と地方の行政手続きの棚卸しを進めます。
 このほかにも、「データ流通や利活用を促進するためのルール整備」や「マイナンバーカードの利用」、あるいは地域差や年齢差による不都合などが生じないよう「研究開発の推進」や「人材育成および確保」などの施策へ取り組む計画です。

湯澤 今回、都道府県に対して官民データ活用推進基本計画の策定が義務付けられました。市区町村は努力義務ですが、これについてはどのように考えたらよろしいのでしょうか。

向井 やはり、国の手続きは市区町村に事務移管されているものも多く、その最前線の現場が効率化しないと国全体としての利便性向上や効率化を図ることができません。その意味では、ぜひ市区町村でも計画を策定していただきたいと考えます。われわれとしても、これを支援するため、今秋をめどに計画のひな型をとりまとめる予定です。
 とはいえ、計画策定は〝目的〟ではなくあくまでも〝手段〟です。最初から完璧を目指さず、従来の情報化計画を見直し徐々に拡充していくものでもいいのです。要は、社会や環境変化に柔軟に対応できるよう、いまのうちから準備しておくため、まずは計画策定に取り組むことが重要でしょう。

湯澤 なるほど。今年5月に公表された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」で、具体的な推進施策も示されました。そうした中で市区町村は何を考え、どんな準備をしていけばいいのでしょうか。

向井 前述のとおり、行政手続きはオンライン化を原則とし、そのために年内から徐々に業務の棚卸しへ取り組みます。目指すのは全ての紙をなくすこと。考え方はとてもシンプルで、①手続きに必要な情報は何か②その情報はどこにあるのか③その情報をオンライン化するにはどうすればいいのか──です。これは市区町村も同じですよね。
 これを実現するには制度改正が必要なものもあるでしょう。一例が戸籍へのマイナンバー制度の利用拡大です。これらについても、「なぜできないのか理由を考え、それを解決し、全てオンライン化する」という姿勢で、何年かかっても必ずやりきる考えです。

市区町村は、いま何を考えどう準備すべきか

対談

湯澤 行政手続きや業務のあり方について、市区町村も発想の転換が必要だということですね。

向井 そうですね。これまで取り組んできた「国民の利便性向上」「行政の効率化」の流れは一段と加速します。その先駆けとなるのが「マイナンバー制度」と「マイナポータル」だといえるでしょう。すでに子育てに関連する手続きのワンストップサービスが動き始めていますが、今後は引っ越しや結婚、相続など、さまざまなライフイベントについてもサービスを拡大していく計画です。
 その点では、まず市区町村でもオンライン手続きを原則として、業務プロセスを再設計し、業務システムとのデータ連携などを検討する必要があると考えています。昨今、取り組みが進む自治体クラウドの導入を機に、業務やシステムの棚卸し、業務の標準化などの検討を進めるのも有効でしょう。
 また、マイナポータルやマイナンバーカードをどこまで活用できるかは、それぞれの市区町村の手腕にかかっています。個々の地域特性に合わせた独自サービスなども、ぜひ積極的に検討していただきたいと思います。そうした中で多くの成功例が登場し、互いに切磋琢磨してサービスが活性化されていくといいですね。
 なお、窓口サービスを利用するのは高齢者が多く、ITに馴染まないという声も聞かれます。当面は対面による窓口サービスがなくなることはないと思いますが、10年後、20年後にはITリテラシーの高い高齢者が確実に増え、オンライン化のニーズも高まっていくはずです。いまのうちから将来を見据え、住民の利便性や業務の効率性をどう実現していくのか考えていくことが大切でしょう。

湯澤 たしかに10年後にはわれわれも高齢者ですね(笑)

湯澤 そうそう(笑)。
 官民データ利活用推進への取り組みは、まだ緒に就いたばかりです。行政手続きの原則オンライン化や自治体が保有するデータのオープン化を進める上では、市区町村とともに住民や事業者等へ理解を広め、利用を促進することが欠かせません。
 なお、市区町村に対する今後の支援策ということでは、基本計画のひな型の説明などを手始めに、皆さんのもとに直接出向いて対話を重ねながら取り組みを進めていく考えです。
 マイナポータルについても、まだまだ改善の余地があります。よりよいサービスとするためにも、ぜひ皆さんの要望や意見を聞かせてください。そうした皆さんの期待や支援を推進力としながら、われわれとしても世界に誇る「官民データ利活用社会」の実現に向け、一段とアクセルを踏み込んでいきたいと考えています。

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

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