TKC全国会 中堅・大企業支援研究会(中大研)

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「一般的否認規定」・「個別的否認規定」と「包括的否認規定」
株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹

現在、ヤフー事件やIBM事件の裁判の過程で、租税回避防止規定である法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)や132条(同族会社等の行為又は計算の否認)の解釈が問われています。これらの規定は、平成13年に132条の2が創設されて同条を「包括的な租税回避防止規定」と呼ぶようになってから、「包括的」という用語を用いて「包括的否認規定」などと呼ばれるようになったものです。これらの規定の解釈を考えるに当たっては、その呼び方を無視することはできないと考えられます。そこで、朝長英樹先生に、132条の2を「包括的」という用語を用いて呼ぶようになったのは何故かということについて、解説をして頂きます。

はじめに

 法人税法における「組織再編成に係る行為又は計算の否認」の規定である132条の2に関して、「包括的否認規定」と呼ぶのは何故かという質問を受けることがあります(注)。

(注)筆者は、通常、法人税法132条の2を「組織再編成に係る包括的な租税回避防止規定」と呼んでいますが、この「包括的な租税回避防止規定」の部分をご質問者と同様に「包括的否認規定」と短縮して呼ばれる方が多いように思われますし、「包括的」という用語が共に含まれていることから特に両者を分ける必要もないと思われますので、本稿においては、以下、「包括的否認規定」と呼ぶこととします。

 法人税法においては、包括的な租税回避防止のための規定として、平成13年に創設された上記の132条の2の他に、大正12年に創設された「同族会社等の行為又は計算の否認」の規定である132条と平成14年に創設された「連結法人に係る行為又は計算の否認」の規定である132条の3が存在します。
 この132条に関しては、従来から租税回避防止のための「個別的否認規定」と呼んでいる学者もいますが、最近では同族会社の行為又は計算に関する「一般的否認規定」と呼ぶべきであるという主張もあるようです。

1.「一般的否認規定」

 「租税回避」は、各税目に共通して発生するものであり、その防止は、いずれの税目においても非常に重要な課題です。
 昭和37年の国税通則法の制定時に、租税回避防止のための「一般的否認規定」の創設が企図されましたが、実現せず、今日に至っています。
 この時の租税回避防止のための「一般的否認規定」は、昭和36年7月の税制調査会の「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)及びその説明」によると、実質課税の原則等に基づき各税目に横断的に適用される一般的な租税回避防止規定となっていました。
 現在も、一部には、このような租税回避防止のための「一般的否認規定」が必要であるという主張が存在します(注)。

(注)筆者も、いずれかの時期に国税通則法に租税回避防止のための「一般的否認規定」を設けるのが適当と考えていますが、立法の常識として、既存の規定を正しく解釈し、その規定を正しく適用したとしても、それによっては対処できない租税回避が存在する、ということを具体的に明確にした上で、そのような租税回避に対処するために「一般的否認規定」を設ける、ということでなければなりません。現在、ヤフー事件やIBM事件の裁判の過程で132条の2の解釈が問われ132条の解釈が根本から問い直される状態となっていますが、既存の規定を正しく解釈することができなかったり正しく適用することができなかったりするというのでは、そもそも新たな立法の必要性を主張することはできないわけです。

2.「個別的否認規定」

 租税回避防止のための「個別的否認規定」と呼ぶべき規定は、各税目に関する法令中に数多く存在しています。
 典型的な例は、合併等における被合併法人の繰越欠損金の合併法人への引継ぎの制限規定である法人税法施行令112条3項のみなし共同事業要件の規定です。
 上記のとおり、132条を租税回避防止のための「個別的否認規定」と呼ぶ学者も存在し、このような呼び方を踏襲すると、132条の2と132条の3に関しても租税回避防止のための「個別的否認規定」と呼ぶことになります。
 このように、「一般的否認規定」に該当しないものは全て「個別的否認規定」と一括するべきであるという主張も、132条、132条の2及び132条の3の適用範囲を極力狭くするべきであるという観点に立つものと解すれば、理解できないわけではありません。
 しかし、例えば、上記のみなし共同事業要件の規定である法人税法施行令112条3項と法人税法132条の2とは、同じく租税回避防止のための規定ではあるものの、これらの規定は前者の規定で対応できない場面で後者の規定が働くという関係となっており、しかも、適用範囲を比べると後者の適用範囲が前者の適用範囲よりも格段に広くなっているなど、これらの規定には適用の場面や範囲などに大きな違いがありますので、これらの規定を「個別的否認規定」と一括して捉えるのは、誤解を招き、適当でないと考えます。

3.「包括的否認規定」

 平成13年に132条の2を創設して同条を「包括的否認規定」と呼ぶまでは、「包括的否認規定」という用語は殆ど用いられていなかったものと思われます(注)。

(注)『平成13年度 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)においては「包括的な組織再編成に係る租税回避防止規定」(244頁)と呼んでいます。

 132条の2が租税回避防止のための「個別的否認規定」と大きく異なることに関しては上記2において述べたとおりですから、同条を創設した平成13年当時に同条を「個別的否認規定」と呼ばなかったのは、当然のことです。
 平成13年当時、「個別的否認規定」という呼び方に対応するものとして「一般的」という用語を用いた「一般的否認規定」という呼び方があったわけですが、132条の2は、「一般的否認規定」と呼ぶのも適当ではありませんでした。
 法令用語辞典を開いてみると直ぐに分かることですが、「一般的に」という用語は、「ある行為又は事柄が、特定の範囲の人、物又は事柄を対象とするのでなく、広く行き渡ることを目的とする場合に用いられる副詞」(吉国一郎他『法令用語辞典』学陽書房)です。
 ところが、132条の2は、組織再編成に係るものに範囲を限定し、「合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加」などの事由により法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがある場合に限って課税を行うものですから、「一般的」という用語を用いるのは適当ではありません。132条の2が組織再編成を行った法人に対して「特定の範囲の人、物又は事柄を対象とするのでなく、広く」課税を行うというものであったとしたら、同条を「一般的否認規定」と呼ぶことも有り得たと考えますが、同条はそのようなものではありません。
 それでは、「個別的」でもなく「一般的」でもないどのような用語が適当かということになるわけですが、最も適当であると考えたのは、「包括的」という用語でした。
 「包括的」という用語は、特別な意味内容を有する法令用語や法律用語ではない一般用語であり、国語辞書を開いてみると分かるとおり、「すべてをひっくるめているさま」「総括的」などとされています。
 この「包括的」という用語を用いて組織再編成に係る「包括的否認規定」と呼ぶのであれば、132条の2の内容を的確に表すことになり、かつ、「個別的否認規定」や「一般的否認規定」と呼ぶことに伴う上記のような問題が生ずることもなくなります。
 法令の条文ではなく、制度の呼び名であったとしても、用語の概念は正しく理解して用いる必要があります。

 「同族会社等の行為又は計算の否認」の規定である132条に関しても、同様のことが言えると考えます。
 132条は、「同族会社等」が行う行為又は計算で「同族会社等」に特有のものによって法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがある場合に限って、課税を行うものであると考えられます。この132条に関しては、「同族会社等」でない法人が「同族会社等」と同じ行為又は計算を行っているという場合であっても、「同族会社等」だけが課税を受けるということになっているのであれば、「同族会社等」に対して制限なく広く課税を行う「一般的否認規定」と呼ぶことも有り得ると考えられますが、同条は、そのような規定ではないはずです。

プロフィール

税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)
株式会社TKC 顧問
日本税制研究所 代表理事

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