10カ月間にわたる長期の研修が特徴の「中小企業大学校経営後継者研修」がいま脚光を浴びている。参加者が集大成を発表するゼミナール論文発表会を取材し、経営者としての自覚を増しながら大きく成長する後継者の心境に追った。

経営者の自覚が生まれるとき

 軽いジョークから切り出し場内の笑いを誘う発表者、得意の中国語をいきなり披露して驚かす登壇者……。7月20、21日の2日間にわたり行われた中小企業大学校の経営後継者研修ゼミナール論文発表会では、22人の参加者がそれぞれの個性を生かし壇上でスピーチを繰り広げた。発表の内容は、自分自身と自社についての現状分析と将来構想、アクションプランなど。発表終了後に気が置けない仲間たちから激励の言葉が寄せられ、続いてこの日のために地元からかけつけた親族がねぎらいの言葉を投げかける。そして最後は個人指導したゼミナール講師が講評――という一連の議事がテンポよく進行したのだが、発表者の情熱と、それを一言も聞き漏らすまいとする聞き手の集中力で、会場内は終始ポジティブな緊張感に包まれていた。スピーチが終わった受講生の表情は一様に晴れやかだったが、それが長期間にわたる研修を経て身についたであろう自信と充実感からくるものであることは誰の目にも明らかだった。

 2017年10月開講のコースで第38期を迎える経営後継者研修では、750名を超える修了者が各方面で経営者・経営幹部として活躍している。育成目標とする経営後継者像は「自社の価値ある経営に気づき、熱意を持って行動する」「グローバルな視野に立ち、自社と自身の将来像を明確に描ける」「財務に明るく、多角的な視点で現状把握ができる」「リーダーシップを発揮し、素早く的確な判断ができる」の4点。その特徴は次の5つにまとめられるだろう。

①10カ月間全日制が経営者の視点と経営意欲に火をつける
 10カ月間の長期にわたり担当業務を外れることに抵抗のある後継者は少なくないが、会社から離れた客観的な視点を磨くことで、全体最適の感覚を研ぎ澄ますことが可能になる。また、徹底的な自社分析によって先代を含めた歴代経営者の努力やその偉大さにあらためて気づき、愛社精神がさらに高まったという後継者も多い。

②段階的な学習手法が実践的な知恵を養う
 研修の進め方として、「わかる」(講義・演習や事例企業研究などの座学、補講を通じた知識・スキルの理解)→「できる」(経営計画策定演習やビジネスシミュレーションを通じた知識・スキルの体得)→「やってみる」(自社分析や企業実地研修、在校生・卒業生合同研修会を通じた実行力・遂行能力の形成)という段階的な学習方法を採用。学んだ内容は必ず自社に当てはめて考えるプログラムが組まれているので、単なる知識にはとどまらない経営の現場で使える実践的な知恵を習得することができる。

③考える力とコミュニケーション力を強化する
 同期の仲間たちとの真剣なディスカッションを通じ、論理的に考える力と相手に伝えるコミュニケーション能力が磨かれる。

④ゼミナール形式のきめ細かなサポートで自社と自身の未来を描く
 研修成果物となるゼミナール論文作成では、経験豊富な専門家が論文作成指導やフォローアップなどをきめ細かに個別サポート。後継者は、徹底的な自社分析を通じ自社と自身の確かな未来像を描くことができる。

⑤業種・業界を超え生涯にわたり語り会える仲間になる
 研修でなければ出会えなかったであろう、業種、業界、年代を超えた仲間をつくることができる。寝食を共にして学びあうことで腹を割って語ることができる友人ができる後継者も多い。また各方面で経営者・経営幹部として活躍するOBネットワークも貴重な人脈だ。将来のビジネスパートナーとしての可能性も広がる。

 発表を通じて印象的だったのは、何年も悩んだ後に参加を決めた後継者も含め、登壇者が口々に「研修に参加して本当によかった」と語っていたこと。また先代も受講の経験があるという親子2代での参加も決して珍しいことではないことも驚きだった。今回はそのなかから3名の受講者の論文発表とインタビューを紹介する。

※3名の受講者の論文発表とインタビューについては本誌(『戦略経営者』2017年9月号)をご参照ください。

(本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2017年9月号