米国で日常的に使われている人を励ます技術、ペップトーク。日本でも研修の一部としてプログラムに導入する企業が増えているという。『たった1分で相手をやる気にさせる話術ペップトーク』の著者である浦上大輔氏に、ペップトークの基本とその伝え方について聞いた。

プロフィール
うらかみ・だいすけ●1969年東京都生まれ。北海道大学で運動生理学や理学療法学を学び、運動指導のスペシャリストとして、学校体育やリハビリ医療、高齢者介護の現場で活躍。株式会社LPN代表取締役、一般財団法人日本コアコンディショニング協会理事長を経て、ペップトークの第一人者、岩﨑由純氏と一般財団法人日本ペップトーク普及協会を設立。

──ペップトークとは何ですか。

浦上大輔 氏

浦上大輔 氏

浦上 PEP(ペップ)とは英語で、元気や活気を意味します。もともとはスポーツの試合前に監督やコーチが、選手が本番で最高のパフォーマンスを出すために行っている激励のショートスピーチのことを指していました。スポーツが盛んで、大統領演説に象徴されるようにスピーチやプレゼンテーションが大好きな国民性を持つ米国が発祥の地と言われています。現在ではビジネスや教育の現場でもよく知られるようになっており、子供向けのクロスワードパズルにも登場するほど米国では浸透しています。私たち日本人は励まし方があまり上手ではなく、どうやって部下や社員を励ましていいかわからないという経営者や管理職の方も多いと思いますが、米国では人を励ますことが当たり前のように行われており、人々の関心も非常に高くなっています。

──浦上さんがペップトークと出会ったきっかけは?

浦上 日本にペップトークを紹介した岩﨑由純さんの講演を聴いたのがきっかけです。岩﨑さんはもともとアスレチックトレーナーで、スポーツ選手のコンディションを整えたりテーピングでけがを予防したりするプロフェッショナルですが、米国修行中、アメリカンフットボールの試合前に演説しているコーチのそばで涙している選手たちの姿を見て、「これはなんなんだ」と衝撃を受けたそうです。スポーツ関連の仕事を通じて知り合いだったこともあり、一緒に広めようと意気投合し、2人で一般財団法人日本ペップトーク普及協会を立ち上げました。

短くて分かりやすい言葉を使う

──協会ではどのような活動を?

浦上 もともとはコーチが選手に語りかける短いスピーチですから、外部の人がその内容を詳しく知ることはできず、また教科書があるわけでもありません。そこで私たちは、ペップトークのシーンがある映画を1000本以上鑑賞して徹底的にその構造を分析しました。その結果、優れたペップトークにはある共通するパターンが存在するのを発見し、その分析に基づいた独自のメソッドを開発し、さまざまな場所で年間100本以上の講演・研修活動を行っています。能力を最大限に発揮するという問題意識はどんな世界にも共通しているため、スポーツ関係にとどまらず、教育関係や企業からの依頼も多く、大手通信事業者や自動車メーカーなどでも好評を得ています。

──共通するパターンとは何ですか。

浦上 私たちはペップトークのポイントを「5つのルール、4つのステップ」としてまとめています。まず5つのルールから説明しましょう。

①ポジティブな言葉を使う
「ミスするな」「納期に遅れるな」「契約を落とすな」などというネガティブな言い方をすると、人間はその失敗したシーンが脳にイメージとして残ってしまいます。これから本番を乗り越えようとしている人が、そのイメージを消すことはなかなか難しく、緊張や不安をさらに増幅させることにもつながりかねません。

②短い言葉を使う
 ペップトークはもともと本番前のロッカールームなどわずかな時間に伝える言葉なので、端的に短い言葉を選択したほうが効果的です。そもそも商談やプレゼンテーション前に、緊張している社員へ上司や社長が長々と話しても中身は頭には入らないでしょうからね。

③分かりやすい言葉を使う
 米国にはさまざまな文化的背景を持った人々が集まり、なかには英語が堪能でない人も多くいます。そうした人でも理解できるよう、ペップトークは誰でも理解できるやさしい言葉を使います。たとえ社長が気に入っていたとしても、「捲土(けんど)重来」のような四字熟語を多用するのは避けましょう。

④相手が一番言ってほしい言葉を使う
 社長目線で伝えようとしたり、考えを押しつけるよりも、相手目線で伝える方がやる気を引き出しやすいです。これから大事な商談やプレゼンがあって頑張ろうとしている部下や社員の性格、心理状態、立場を思いやり、「どういう言葉をかけてほしいか」を想像することが大切です。

⑤相手の心に火をつける本気の関わり
 そうはいっても言葉だけではどうしても伝わらないこともあります。「本当に成功してほしい」「変わってほしい」「信念をもって応援している」「本当によくなってほしい」という気持ちが相手に伝わっていることが重要です。これは普段から信頼関係が構築できていることが前提になります。

4つの要素で組み立てる

──ペップトークが完成するまでの過程を、受容、承認、行動、激励の4つのステップに分けています。

浦上 最初のプロセスは、「受容」です。例えば大切なプレゼンを前にした社員は、「うまくできるかな」「準備不足かもしれない」と不安になりますが、気持ちをそのまま丸ごと受け入れましょう。能力不足という自覚、不安、心配、緊張といった負の感情に共感して、「緊張しても当然」「心配だよね」という言葉をかけます。
 ここで大切なのは、上司としての評価や価値判断をしないこと。「若いころは私もそうだった」「だれでもそうなるよ」と付け加えるといいでしょう。心のキャパシティーをコップに例えると、不安や緊張などといったネガティブな感情があふれるほど注がれている状態です。満杯のコップにポジティブな言葉を投げかけてもそれ以上入りません。そうした負の感情をくみ取ってスペースをつくって初めて他人の意見を受け入れる余裕ができるのです。「気持ちをくみ取る」というのはこのことです。
 また受容するのは感情だけではありません。手ごわい競合相手がいるなかでプレゼンするときなど、「現状としては相手がシェアをとり有利だ」と自社にとっては不利な状況を認めることも大切です。

──承認のプロセスについて説明してください。

浦上 ネガティブな感情や状況をまずはそのまま受け入れましたが、「承認」のプロセスではこれをポジティブなものに切り返していきます。ここで大切な考え方はまず、ピンチをチャンスにとらえるような「逆転の発想承認」です。例えば大きなクレームがあって社内で大問題があったときに、「クリアすることでもっと成長できる。顧客に支持される会社になれるチャンスだよ」と語りかけましょう。またもう一つの方法は「あるもの承認」。人間はどうしても足りない部分をより注意して見てしまいますが、ジグソーパズルの足りない1ピースだけをいつまでも探して、「もっと準備しておけばよかった」という気持ちを生じさせては高いパフォーマンスを出すことはできません。「絶対やりきるという思いがある」「今までの経験や実績は十分だ」「君は本番に強い」など今あるものをリストアップして言葉がけをしていくと、社員が本領を発揮できるメンタルの状態にもっていくことができます。

──3つ目と4つ目の「行動」と「激励」についてはいかがですか。

浦上 「行動」では、「~するな」など「してほしくないこと」+否定型の言い方を「~しよう」という言い方に変換し、相手に成功をイメージさせる「してほしい変換」が大切になります。人間の脳に浮かぶイメージは否定形と肯定形を区別できないからです。「ミスするな」「失敗するな」「遅刻するな」「緊張するな」という言い方はすべてネガティブなイメージを頭の中で強調する結果になるので、「成功しよう」「リラックスしよう」などといったポジティブな言い方に言い換えると効果的です。
 さらに「契約をとってこい」「勝ってこい」「合格してこい」などといった結果を指示するような言い方も、相手の状況によってはプレッシャーがかかり実力を発揮できなくなることがあります。結果ではなくそれに至る行動についての指示を含めるようにしましょう。「担当者に好印象を与えるよう笑顔で」「相手のニーズをしっかり聞いてきなさい」「ロジカルに説明してしっかり理解してもらいなさい」など具体的な行動(アクション)を指示することが大切です。
 さて最後の「激励」ですが、大事なのは相手の気分や状況、タイプによって言葉を使い分けることです。具体的には「君ならできる、さあ行ってこい」などと勢いよく背中を押す「激励系」、「何かあったら助けるから」「みんなで応援しているよ」などと安心感を与える「見守り系」があります。

信頼関係構築が大前提

──4つの要素をコンパクトにまとめるのはなかなか難しそうですが……。

浦上 ペップトークはこの4つのプロセスをつなげて1分程度の間に短く伝える技術ですが、個別の要素を切り離して日常的に使っても十分効果があります。まずは「受容」から試してみてはいかがでしょうか。ちょっといつもと雰囲気が違う社員や部下がいたら積極的に声をかけてみてください。「犬が病気でして……」「家族とけんかしちゃって……」「子供が今日受験なんです」などといった会話をきっかけに、「だから落ち込んでるんだね」「それは不安だね」と気持ちに寄り添うような言葉がけを続けていくと、「私のことを理解してくれようとしている」と信頼関係が生まれやすくなります。

──やはり大事なのはいかに信頼関係を構築できるかということですね。

浦上 その通りです。ペップトークは何を言うかだけでなく、誰が言うかということも非常に大切です。信頼関係がないうえにネガティブな言い方をする上司や経営者は「パワハラ族」で、ペップトークが成立する余地はありません。この状態を改善しようとしてよく陥ってしまうのが、信頼関係がないままポジティブな言葉をかけるパターン。「最近頑張ってるね」「仕事早いじゃない」と言葉をかけても、「本当にそう思って言ってるの?」「嫌みで言っているんじゃない?」「どうせうわべだけの言葉でしょ」などと社員に思われてしまう「ウワベ族・イヤミ族」にならないようにしましょう。人間的な魅力があり信頼関係を構築できていたとしても、「まだまだだな」「何度も同じことを言わせるな」などネガティブな言葉しか言えない上司も、「カラクチ族・クチワル族」として部下の能力を最大限に引き出すことはできません。良好な信頼関係があり、さらにやる気を引き出すポジティブな声がけをできる経営者・上司が、真の「ペップトーカー」になれるのです。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2017年9月号