インターネットをはじめとしたIT技術で「教育」をおこなうeラーニング。それを実現するためのソフトウエア・システム開発で多くの企業から注目されているのが、ロゴスウェアだ。「低価格・高品質」を武器に躍進をとげる石神優社長(55)のeラーニング事業にかける思いとは。
- プロフィール
- いしがみ・まさる●1961年、茨城県生まれ。大学卒業後、インテルに技術者として就職。その後、マーケティング部の部長として販売活動にも従事。2001年に独立して、ロゴスウェアを設立。以来、安定的な成長を遂げる。趣味の音楽バンドでは、キーボードを担当。
石神 優 氏
秋葉原とつくばを結ぶ「つくばエクスプレス(TX)」。その停車駅のひとつである「研究学園駅」から歩いて数分の場所に、ロゴスウェアの本社がある。eラーニング関連のソフトウエア・システムを開発する茨城県発ITベンチャーだ。
石神優社長がロゴスウェアを創業したのは、2001年。それまでは、半導体メーカーとしてあまりにも有名なインテルで働いていた。1984年に技術者として新卒で入社。マイクロソフトとともにパソコン革命を推し進めていったインテルでの毎日は、刺激的で楽しかった。
「世の中が変わっていく、それを自分たちがやり遂げているんだという興奮がありました」
その後、マーケティング部の部長としてマイクロプロセッサーの販売に従事。しかしパソコンが成熟した製品になるにつれて、安定した生活と高収入とは裏腹に、退屈な気持ちが芽生えた。世界を動かしていたときの興奮をまた味わいたい──。新たに目を向けたのがインターネットだった。
「これから社会を変えるのはインターネットだと思い、働く環境をパソコンからインターネットに移すことにしました」
選択肢は2つあった。どこかの会社に入ってやるか、あるいは自分で会社を立ち上げてやるか。当時、いろんなスタートアップ(創業したばかりの企業)が出てきた。それに触発されて、選んだのは自分で会社を立ち上げる道だった。ソフトウエアの開発ならさほど資本金をかけずに起業できると、2001年にロゴスウェアを創業した。
「eラーニングに着目したのは、インターネットを通して世界中の人に〝知識の力〟を提供することができると思ったからでした」
3つのデジタル教材作成ソフト
最初に手がけたのは、他社から請け負った受託開発の仕事だった。日銭を稼ぐためには、それが必要だった。だが委託者の要望に応えてソフト開発をしながらも、eラーニングにつながりそうなプログラムに関する権利(著作権)は自社でしっかり確保しておくことは忘れなかった。その蓄積でいずれは自社オリジナル商品を作ろうと考えていたのだ。
「マイクロソフトはまだ会社の規模が小さかった頃、IBMからの受託業務をこなす中でMS-DOS(パソコン向けOS)の原型を作ったといいます。それと同じような考えでした」
やがて石神社長は、3つのデジタル教材作成ソフトを開発する。まず2005年に発表したのが、デジタルブック作成ソフト『FLIPPER(フリッパー)』だ。紙媒体のマニュアル、教科書、カタログ、パンフレットなどを簡単にデジタルブック(電子ブック)化できるものだ。既存の教材をそのまま利用できるため、当然いちから製作するよりも安く済む。
さらに、プレゼンソフトの定番であるパワーポイントの資料を変換させるかたちで「プレゼン型コンテンツ」を簡単に作れる教材作成ソフト『STORM(ストーム)』と、学習の成果を確認できるクイズ・テスト作成ソフト『THiNQ(シンク)』も開発した。
これら3種類のデジタル教材作成ソフトは、今でもロゴスウェアの看板製品。さまざまな改良を加えることで、より使い勝手が向上している。
「他にも、デジタル教材をあたかもウェブ上の本棚に置くようにして管理できる本棚型情報共有システム『Libra(リブラ)』や、学習の進ちょく状況などを管理する教育担当者向けの学習管理システム『Platon(プラトン)』、ライブ(生)セミナーのネット配信システム『GigaCast(ギガキャスト)』などの自社製品があります。ラインアップの数はますます増えています」
石神社長が主な販売ターゲットとしているのが、社内研修や、顧客に対する商品説明などにeラーニングを有効活用したいと考えている企業。そこに的を絞っている。
コスパの高さが特徴
実はいま企業の間でeラーニングは本格的な普及期に入っている。従業員の能力向上がこれまで以上に望まれるようになったことに加え、「コンプライアンス研修」の実施が求められるようになったり、2015年の法改正で派遣労働者に対して年間8時間の教育訓練を行うことが派遣会社に義務付けられるようになったことなどが背景としてある。
「多店舗展開をする飲食店や、複数の施設を運営する介護事業者など、離れた場所に拠点を置く会社の場合、どこか1カ所に社員を集めて研修を実施するのはなかなか大変。『それならeラーニングで』という傾向は確実に生まれています」
それらの企業がロゴスウェアの製品に熱い視線を注ぐのは、低価格でありながら高品質であることが大きな理由。つまり、コスパが高いのだ。なぜ高品質なものを低価格で販売できるかというと、「企業向け」に絞ることで無駄な機能はあえて盛り込まないようにしているからだ。
「私たちは中小企業が買える価格帯の製品づくりを目指しています。特殊な機能を満たそうとすると、いろんなことをやらなければならない。そこはあえて狙わずに、特定の部分をしっかり作りこむことに精力を注いでいます」
働きがいのある会社を目指して
とくにソフト会社の場合、よい製品を作り続けられるかどうかは、ヒト(従業員)という経営資源にかかってくる。そこを踏まえて石神社長が力を入れているのが、ロゴスウェアを社員が主体性を持って働ける会社にしていくことだ。組織横断型のプロジェクトチーム(開発、販売、品質管理などのスタッフが混在)をいくつも作って、社員たちが能動的にいろいろなことに挑戦できるようにしているのは、その具体策の一つである。
「上から命令された仕事を成功させたところであまり面白くない。でも、自分たちが発案したプロジェクトを成功に導くことができれば、喜びは大きいんです」
石神社長が今後の目標としているのは、ロゴスウェアをeラーニング業界におけるグーグルやマイクロソフトのような存在にすることだという。職場の生産性(プロダクティビリティー)を上げるためのウェブサービスでいま二大巨頭と言われているのが、グーグルのGスイートと、マイクロソフトのオフィス365。どちらも電子メールやスケジュール、ドキュメント共有機能などをアプリケーション一式で提供するもので、多くの企業が導入している。「それと同様に、eラーニングに関係するさまざまなサービスを1社で提供できるような存在になりたい」と石神社長は話す。
(取材協力・今井信吾税理士事務所/本誌・吉田茂司)
名称 | 株式会社ロゴスウェア |
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設立 | 2001年7月 |
所在地 | 茨城県つくば市研究学園5丁目20番地2 つくばシティア・モアビル5F |
年商 | 非公開 |
社員数 | 40名 |
URL | https://www.logosware.com/ |