個性あふれる飲食、小売店が軒を連ねる東京・日本橋の商業施設「COREDO室町2」。オープン以来、行列が絶えないのが「大木屋 匠」だ。もんじゃ焼き、鉄板焼き料理は数多くのグルメ雑誌などで紹介され、注目を集める。同店を経営する大木康弘社長と経理業務を担当する大木深雪さんに計数管理に基づく経営のあり方を聞いた。

2つの立場のバランスをとり斬新なメニューを提供し続ける

オオキ:大木社長(右から二人目)

オオキ:大木社長(右から二人目)

──「COREDO室町店」は商業施設への出店1号店だそうですね。

大木康弘社長(以下社長) おととし3月「COREDO室町2」のオープン時に出店しました。われわれのような町なかの飲食店が都心の一等地にある商業施設に出店するのは珍しい例だと思います。

──「もんじゃ焼き」というと庶民的なイメージがありますが、どんないきさつから出店されたのでしょうか。

社長 お客さまを通してご紹介いただいた方から打診されたのがきっかけです。ちょうど事業の方向性を検討していた時期と重なり、商業施設に出店することで信用力やブランド力を引き上げられるのではと考えました。

──予約を取るのが難しいと聞きました。 

社長 オープン以来、数多くのお客さまにご来店いただいていますが、常時取りづらいわけではありません。
 毎月1日から翌月の予約を受け付けており、ご希望の日時に確実に予約を取得されたい場合は、月初にご連絡いただくことをお勧めしています。COREDO室町店ではランチ営業も行っているので、「土鍋もんじゃ」や肉料理などを気軽にお楽しみいただけます。

──料理の特徴は?

社長 もんじゃ焼きをコース料理で提供しているところですね。ボリュームがあるといわれるメニューが多いのも特徴です。4名様からの予約となっているため、サイズが大きいというイメージがあるのかもしれません。800グラムのリブロースステーキ「肉のエアーズロック」も大木屋の名物です。 

──ボリューム感のある見た目ですね。

社長 お店のメニューは私自身が考えています。理想の姿として目指しているのは、経営者と料理人の中間の立ち位置。経営者に寄りすぎるとビジネス色が濃くなってしまうし、料理のことばかり考えていると、数字のチェックがおろそかになってしまいます。
 経営者あるいは料理人として勉強すべき点はまだいろいろありますが、ほかの人より秀でている点を挙げるとすれば、想像力だと思っています。「こんな料理があったら面白い」と感じられるメニューを開発するのは得意です。シーンに合わせたイベント向けメニューの開発も行うほか、同業の方から相談を受けることもあります。

──日暮里店が本店とうかがっています。もともと事業を引き継ぐことを考えていたのでしょうか。

社長 当初はフランス料理の料理人を目指し、レストランで働いていましたが、いろいろないきさつがあり、父と同じもんじゃ焼き店を経営することになりました。本店を手伝っているとき、あるお客さまから「娘が成人したときに2人でまた来たい」と言われたんです。世代をまたいで訪れたいと思っていただけるお店をつぶしてはいけないなと。そうした経緯から市ヶ谷店、COREDO室町店のオープンに至ったわけです。

会計の専門家によるきめ細かいサポートで信用力を高める

──顧問税理士の多勢先生とは長いお付き合いをされているとか。

大木深雪氏 市ヶ谷店をオープンするときに業務が慌ただしくなり、知り合いの方から先生をご紹介いただきました。会社の計数管理や資金調達など幅広く経営のアドバイスをいただいています。当時は会計日記帳に取引を手書し記入していましたが、取引量が増え、記帳業務が煩雑になってきたことから自計化システムである『FX2』の導入を決断しました。

──会計事務所のサポートをどう感じていますか。

社長 餅は餅屋といいますが、われわれは会計に関する専門的知識がないので、税や会計の観点から会社の将来を見据えたアドバイスをいただけるのは非常にありがたいと感じています。
 飲食店経営者は計数管理を甘く見る人が少なくありません。しかし、いざ新店舗を出店したり、従業員を新たに雇用するときに会社の現状を正確な数字を元に把握できないと、経営計画を立てることができなくなってしまいます。会計事務所の後ろ盾があるからこそ、経営者と料理人のバランスをうまく保つことができるのだと思います。

──三菱東京UFJ銀行の融資商品『極め』を活用して資金調達されたと聞いています。

社長 イベントの開催が重なると大量の食材を仕入れる必要がある一方、売り上げが入金されるまでタイムラグがあるので、一時的に資金繰りが苦しくなるときがあります。また、新店舗を出店するときはまとまった資金が必要になります。『極め』の活用をすすめられたのはそうした時期で、2回にわたり融資していただきました。

多勢税理士 『極め』はTKC会員税理士の関与先企業さまを対象にした融資商品です。5カ年中期経営計画の策定、TKCシステムによる自計化が融資の主な条件で、翌月巡回監査の完全実施などに応じて金利の優遇が受けられます。大木屋さまはTKCシステムをフル活用されており、最優遇金利で借りられる状況にありました。

──財務管理体制がしっかり確立されていたわけですね。

社長 『FX2』では店舗ごとの部門別管理を取り入れ、5カ年経営計画に基づく予算実績対比も行っています。多勢先生と監査担当の滝田さんには毎月コンスタントに巡回監査を実施していただいています。また、会社の成長に応じて給与計算システム『PX2』や従業員のマイナンバーを管理できる『PXまいポータル』の利用をご提案いただきました。

大木 月末に売り上げを締めて集計されるのが翌月の10日前後になるため、毎月10日以降に『FX2』に入力したデータをチェックしていただいています。入力方法などわからないことがある時は滝田さんにLINEで相談したり、随時フォローしていただけるのはとてもありがたいですね。

滝田 『FX2』導入時は、仕訳辞書の機能を充実させ、『FX2』の入力環境にもすぐに慣れていただけました。

来春新店舗をオープン追求するのは数より質

──特に外食産業では人手不足がいわれていますが、何か打ち手を考えていますか。

社長 私も専門学校に通っていたのでわかりますが、料理人を目指している人はすぐに一人前になれるものと夢を見るきらいがあります。本来、下積みの仕事を一生懸命こなしてはじめて料理人になれるわけです。そこを短絡的にとらえてすぐに辞めてしまう人が多いから、外食イコールブラックというイメージがどうしてもつきまとってしまう。先々は外食産業で働くことの魅力を発信する場に出ていきたいと思っています。

──今後の展開をお聞かせください。

社長 2017年の春、渋谷に路面店を出店します。店舗経営などは大木屋の方式を継承しますが、業態をガラッと変えたお店にする予定です。店舗の数を追い求めるつもりはありません。また来たいとお客さまに感じていただけるお店づくりに取り組んでいきます。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 大木屋 匠
設立 2010年12月
所在地 東京都新宿区市谷砂土原町3-2-1 市ヶ谷フラッツB1
(大木屋匠 COREDO室町店)東京都中央区日本橋室町2-3-1 COREDO室町2 2F
売上高 2億円
社員数 35名(アルバイト含む)
URL http://ohkiya.com/coredo.html
顧問税理士 多勢陽一
東京GODO会計
東京都江東区亀戸6-2-3田辺ビル6F
TEL:03-3684-2514
URL:http://www.godo-tax.jp/

掲載:『戦略経営者』2016年11月号