サラリーマン生活を経験したことのない起業家、ジェットワングループの上村周平社長は、アイデアと決断の人である。携帯ショップ、居酒屋と、業態を多角化しながら厳しい壁を乗り越えつつも、新たに見えてきた光明──飲食店特化型POSレジ・販売管理システムに、いま、大きな期待を寄せている。

プロフィール
うえむら・しゅうへい●1976年生まれ。追手門学院大学入学後、学生起業家としてジェットワンを設立。携帯電話販売店、飲食店、飲食店専用販売管理ソフト、同ソフトに連動するPOSレジの開発・販売とめまぐるしく業態の幅を広げながら生き残ってきた。そしてついに、IPOも狙えるという期待の商材の開発に成功する。
上村周平氏 ジェットワン まいどソリューションズ代表

上村周平 氏

 追手門学院大学1年生の時にすでに「ゆくゆくは起業したい」と考えていたというジェットワングループ代表の上村周平代表。典型的な学生起業家である。「これをやりたい」という明確な目標はないものの、「自らの力でビジネスをしてみたい」というベンチャーマインドに満ちあふれた若者だった。

 そんな上村氏がまず目をつけたのが携帯電話事業。「必ず伸びる」と確信していたビジネスだった。個人販売で利益を上げつつ、取引先の「レインズ」という会社の経営が怪しくなると、高校の先輩で盟友の岡部光伸常務と共同ですぐさま買い取り、1号店を出店(1997年1月)する。

 時代は、携帯電話が爆発的に普及し始める直前。半年後に「iモード」が出て、一気に上昇気流に乗る。予測は正しかった。まずは上村社長の瞬発力が時代に先んじた結果といえるだろう。ほんの数年で多店舗化を加速し、一時は20店舗にまで駆け上がる。

 基本の店舗スタイルは、すべてのキャリアを扱う「併売店」。しかしその後、NTTドコモなど1キャリアだけを扱ういわゆるキャリアショップが主流になるにつれ、次第に限界を感じるようになる。

 上村氏は言う。

「過剰供給でやや停滞期が訪れるなか、倒れていく携帯ショップも増えてきた。キャリアショップをやりたかったのですがなかなかお声がかからない。次の手を打つ必要があると、飲食業界への参入を決意しました」

 携帯事業をある程度合理化し、それによって生まれた余力を使って2002年、居酒屋(めっち家)の1号店を出店する。

「私も常務も、学生時代に経験したアルバイトは飲食業のみ。やるなら飲食業かなと……」と漠然と考えていた上村社長。

「当時、生ビールの中ジョッキが500円くらい。そのため私も月に一度くらいしか飲みに行けなかった。これを290円にしました。当時としては破格です。その代わり、広告宣伝は一切せず、口コミのみ。お客さまの反応は思った以上に良かった」

 規模は15坪30席。目標客単価は2000円程度。食材の加工を外注し、食材のプライベートブランド供給でコストを抑え、安さを売りにした。さらに2004年には現在の主業態となる「愉快酒場」1号店を大阪駅前にオープン。1次加工済みのPB商品活用で、効率化と手作り感の両立を実現し、付加価値を追求した。これが大ヒット。その後は、FC展開に乗りだし東京進出。一時は15店舗にまで拡大する。

 ところが──。

「先の大震災を契機に東京のFCがごそっと閉店し、現在は3店舗にまで縮小しています。とはいえ、人材やお金を含めた経営資源を残った店舗に集中したおかげで、いずれも繁盛店となり、いまだに年間で1億5000万円を稼ぎ出しています」

思わぬところから新ビジネス

 飲食事業を縮小したからといってグループ全体として低迷しているわけではないのが同社の面白いところ。携帯電話事業は、キャリアショップへと進化(au2店舗、ワイモバイル3店舗)。事業の柱として売り上げ、利益ともに安定しており、全社的には、ここ数年、年商12億円前後をキープし続けている。

 また、飲食店事業を展開する過程で、思わぬところから新規ビジネスの可能性が出てきた。

 上村社長はいう。

「飲食店を立て続けに出店していたころ、店長は毎日の売り上げを旧態依然とした印字するスタイルのレジからノートに記帳するだけでした。本部は数字がおおよそでしか分からない。当社の顧問税理士である藤井信行先生と話をするなかで、リアルタイムの収益が分からないと、緻密な経営ができないという助言もいただき、だったら、それを可能にするシステムを自分たちでつくってみようと考えました」

 大抵の中小飲食店がIT化など「どこ吹く風」の時代である。ここでも上村社長の先見性が発揮される。

 藤井税理士は当時をこう述懐する。

「当時、弊事務所でエクセルのブックを使って各店舗別に日次で収支を入力、集計できるフォームを作って利用してもらっていました。しかし、上村社長としては、より飲食店に特化した販売管理の可能性を追求され、それこそ即座にシステム開発にとりかかられました」

 思い立ったが吉日。上村社長と岡部常務の「ツートップ」は、とにかくスピード重視がモットー。藤井事務所の鳫靖さん(ジェットワンの監査担当)が「何か障害があっても、決してあきらめず、しばしば意表をつくアイデアを提示されるので、こちらがついていけないことも度々あります」と表現するほど、不可能を可能に、そして前へ前へと進む力が強い。

 2004年、いよいよ飲食店に特化した売り上げ管理システムをつくりあげ、自社店舗への実装を開始した。クラウド上でデータをやりとりするので、本部でリアルタイムの店舗業績が分かる。また、日次の勤怠・給与管理もこれひとつで完結できるようにした。再び藤井税理士の話。

「2006年8月、TKCの戦略財務情報システム『FX2』を導入するまでは、この先進的なクラウドシステムに専用コードでログインして財務処理に必要なデータを取り込んでいました」

 そんなすぐれもののシステム。上村社長が、同じ飲食店に外販できないかと考えるようになるのに時間はかからなかった。2年後の2006年3月には、早くも「MAIDOSYSTEM」として販売を開始。

飲食店のあらゆる状況に対応

 同商品の販促を担当する岡部常務はこういう。

「当初は知り合いの同業者や、その紹介で販売を広げていくくらいが関の山でしたが2011年に第2フェーズの完全クラウド版を発売。ネット上からダウンロードできる形にしました。ここから本格的に外部への販売に力を入れるようになりました」

 携帯ショップは、安定はしているもののキャリアによる指名制だけに思い通りの出店はできない。また、既述の通り飲食店事業も頭打ち感が強い。残るはこの事業である。しかし、月額1980円の使用料だけでは、いかにも売り上げが立たない。

「ユーザーからの要望としてPOSレジ連動型のシステムが欲しいという声も多く、2014年に〝MAIDOPOS〟をリリースしました。これによってレジそのもののハードのイニシャル販売が生じ、売り上げが急増しています」(岡部常務)

 これまで累計で1700店舗に導入しているが、MAIDOPOS発売以来、売り上げは倍々ゲームで伸びている。レシピの共有化、飲み放題、食べ放題やセット対応、預かりもの管理、時間チャージ、品数残数管理など、飲食店にありがちなありとあらゆる状況に対応するシステムとなっており、まさに、飲食部門を持つ企業だからこそできたシステムといえるだろう。

「飲食に特化した、このようなPOSレジ・販売管理システムは、これまであまり世の中にありませんでした。大手も面倒くさいので手を出しにくいんですね」という岡部常務。極めてニッチな市場で、しかも、来年以降も継続が濃厚な軽減税率対象補助金(一社最大200万円)の対象商品でもある。販売ルートはネットのみ。月額使用料は2980円。「他社比較ではおおむね半値以下」という安さが大きな売りとなる。受発注システム会社や大手リース会社とのコラボレーションも実現手前で、期待はますます膨らむ。最後に将来の夢について聞いてみた。

「直近では今年度MAIDOSYSTEMの年商1億円、中期ではこのビジネスによるIPO(株式公開)」という岡部常務に対し、上村社長は同じくIPOに言及しながらも「もう一回飲食を成長軌道に乗せたい。そのため、1店舗を今夏中にリニューアルして様子を見ます。いずれにせよ利益率が良く、コンプライアンスの効いた店舗オペレーションづくりが必要だと思っています」という。

 現在は携帯・飲食事業を統括するジェットワンを上村社長が牽引(けんいん)しながら、販売システム事業を担う、まいどソリューションズの社長を岡部常務が兼任し事業の拡大を最大化している。息の合った2人のコンビネーションがIPOへの道をつくり出せるか。要注目である。

(取材協力・藤井信行税理士事務所/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 ジェットワングループ
設立 1997年1月
所在地 大阪府大阪市中央区北浜1-1-9
売上高 13億円(グループ)
従業員 80名(パート含む)
URL ジェットワン http://www.jetone.co.jp/
まいどソリューションズ http://www.maido-system.net/

掲載:『戦略経営者』2016年9月号