お茶の一大産地、静岡でリーフ(葉茶)の加工・販売を手がける丸幸製茶。明治25年創業という老舗中の老舗だが、5年前に社長に就任した今坂真士社長は、伝統にあぐらをかいた社風にメスを入れ、IT化など社内のインフラ整備と業務の効率化に取り組んできた。そんな今坂社長と同社の宮城美香さん、そして名波会計事務所の保本学監査課課長を加えて話を聞いた。

仕入・加工から物流まで一貫した体制を構築

丸幸製茶:今坂社長(中央)

丸幸製茶:今坂社長(中央)

──葉茶(リーフ)の加工・販売を主業務にしておられるとか。

今坂 地元、静岡・牧ノ原と掛川産の緑茶(リーフ)を主原料として仕入れ、摘みたての鮮度を保つよう独自の冷凍・加工技術で製品化し、全国の量販店や食品商社などに卸しています。そのような一貫体制が当社の特徴であり、年商は製販2社(丸幸製茶、お茶の丸幸)合計で約30億円です。ちなみに、定番の『新茶の香り』シリーズだけで、年間約100万本(1本100グラム)、全体では数百万本を出荷しています。

──今年の茶葉の仕入れの状況はいかがですか。

今坂 1番茶(通常、お茶は1番茶から4番茶まで年4回収穫できる)は安く仕入れることができましたが、2番茶が天候不順でやや品薄でした。ただ、当社は品質の高い1番茶を得意としているので、売り上げ、利益ともに比較的順調に推移しています。

──つまり、高価格帯の製品が得意だということですか。

今坂 はい。現在、リーフ(100グラム)の平均単価は500円を割ってきていますが、当社のPOSデータを見ると、まだ700円近い水準を維持しています。

──味の特徴は?

今坂 言葉で説明するのは難しいのですが、新茶の青々とした香りがほんのりとして、比較的あっさり系の味です。くどい濃密な香りはないので、洋菓子にも和菓子にも合う。飽きずにずっと飲み続けられる味としてご愛顧いただいています。

──どのようにしてその味を作り上げたのでしょう。

今坂 それはもう職人の技としかいいようがありません。私も毎日テイスティングをしながら、微調整を指示したりしていますが、基本的には製造現場の伝統の技を信頼しています。

──ペットボトルの隆盛でリーフの需要が減少しつつありますが。

今坂 急須や湯飲みのない家庭が増えてきました。ペットボトル以外にも粉末系など簡便につくることのできるお茶のニーズが高まっています。しかし、実際、コストパフォーマンスを考えればリーフの方が断然上回ります。一本(100グラム)で最低でも30杯以上飲めるわけですから。もちろん味も良い。急須で一手間かけてお茶をいただくという習慣を取り戻せるよう、今後は、製茶業界や静岡県などとともに努力していく必要があるでしょう。

――にもかかわらず、業績的には安定していますね。

今坂 営業は一生懸命に売る、製造は安くて良いものをつくる。つまり、品質を落とさずに安く仕入れ、クレームのない商品づくりと販売を行う。そのようなメーカー、あるいは販社として当然のことを行ってきた結果だと思います。それと、既述の通り、当社は価格が高いために比較的人気の薄い一番茶を得意としていますから、競争にはなりにくい。そのため、仕入れをうまくコントロールできるのです。

──海外展開は?

今坂 現在、動きつつあるところです。近年の日本食ブームによって海外でのお茶のニーズが急速に増えてきました。当社でも、まず北米を足がかりに、今後の事業の柱にできればと考えています。

システムの一元化で社員の負担を軽減

──ずいぶん古くから財務と給与計算のシステム化に取り組まれていますね。

今坂 製造(丸幸製茶)では約20年前から、『FX2』と『PX2』を導入していましたが、東京(お茶の丸幸=販社)では、私が社長に就任してすぐの2009年に顧問を製造と同じく名波良明税理士にして、両ソフトを導入しました。グループをより効率化するために財務とシステムの一元化が必要だと考えたからです。

──その数年後にアマノの勤怠管理システム『TimeP@CK(タイムパック)』を導入されました。理由は?

今坂 従来使用していたタイムカードレコーダーにさまざまな不都合が出始めたのが理由のひとつだったと思います。それで、TKCに相談してみたらどうかと……。なぜなら給与計算システムがあるのだから、タイムレコーダーもきっとあるはずだと思ったからです。

──相談された側の保本さんは?

保本 当時、2カ所に分散していた工場を統合し、給与計算などを宮城(美香)さんが新たに引き継ぐというちょうどいいタイミングだったこともあり、当事務所から『タイムパック』を紹介しました。

──宮城さんは、当時の状況をどう感じておられましたか。

宮城 以前のタイムレコーダーは、ガチャンと印字するタイプのアナログなもので、賃金計算や打ち直しの作業など、とても面倒でした。ほかの仕事も新たに引き継いでいたこともあり、何とか簡便化できたらと思っていました。で、社長に「ぜひ新しいシステムを導入してください」とお願いしたことを覚えています。

今坂 給与計算に限らず、当時はすべてがアナログで、インターネットバンキング(IB)などもできない状況でした。なので、IBを含め社内のインフラ整備を一斉に行ったのがこの時期で、『タイムパック』導入もその一環でした。

──実際に導入されてみて、いかがでしたか。

宮城 最初は手探りでした。『タイムパック』と『PX2』を連動させるための作業を保本さんとアマノの担当者の方に相談しながら行っていき、だんだんと当社に合うものができあがってきたという感じです。

保本 各社員の勤務形態や勤務時間帯の違いなど、それまでのルールを正確に反映するための設定に苦労しましたが、『タイムパック』の1カ月間の勤怠データをPCの専用ソフトで確認し、ワンクリックで『PX2』へデータを移管するという作業の流れをつくることができました。

宮城 おかげさまで設定が済んでからは、とても楽になりました。例えば、当社では通常期と繁忙期、閑散期には勤務時間帯が違う変形労働時間制を採用しているのですが、それもあらかじめ設定しておけば自動で変更してくれます。それから、繁忙期の仕入担当者には早朝残業があるのですが、これも自動的に記録されますから後から計算する必要がなくなりました。

今坂 当社は残業はほとんどないのですが、労働形態については正社員であっても固定給の人も時給の人もいるなど、分かりにくい部分があります。『タイムパック』の導入以来、そのあたりが整理されたという印象です。

──『タイムパック』の勤怠データが『PX2』『FX2』と連動しているメリットは?

今坂 もちろん第一には担当者の手間が省けること。入力誤りもなくなります。それからタイムカードから給与計算までが連動しているということは、データの信頼性も上がります。労働基準監督署の方が監査にやってきた際にも、当社の連動の仕組みを見て、文句のつけようがないと早々に引き上げていかれました。

──『PX2』の活用法は?

今坂 実務面では、社会保険関連の書類や賃金台帳、入社年月日などのデータをすぐに取り出せますので、とくに入退社の局面ではとても重宝しています。定年間近の社員は教えてくれますしね。また、労働分配率の推移や1人当たり支払総額など、経営指標としても参考にしています。また、東京(お茶の丸幸)では、2年前にPCやスマホで給与明細を見ることができる『Web給与明細サービス』も導入しました。これによって給与明細の封入・送付というデリケートな作業から解放されました。
 いずれにせよ、これからの時代、企業には少数精鋭が求められます。だとすれば、一人ひとりの負担を軽くするためにもあらゆるシステムは連動している方が絶対に良い。私はそう考えています。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 丸幸製茶株式会社
創業 1892年
所在地 静岡県菊川市河東4266
売上高 約30億円(グループ)
社員数 約60名(グループ)
URL http://marukoseicha.hp.gogo.jp/
顧問税理士 名波良明
名波会計事務所
静岡県掛川市塩町7-3
URL:http://www.nanami-kaikei.jp/

掲載:『戦略経営者』2016年8月号