階段といえば、ハウスメーカーや工務店の大工さんが、他の住宅パーツと同じように建築するものとの常識を覆したカツデンアーキテック。いまや、自社ブランドの「階段」の売れ行きは絶好調である。

プロフィール
さかた・きよしげ●1962年、東京都生まれ。東洋大学卒業後、カツデン株式会社に入社。建材部門のさまざまな部署を経験し、2003年に分社化してカツデンアーキテックを設立、同時に代表取締役社長に就任。
坂田清茂氏 カツデンアーキテック社長

坂田清茂 氏

「私は頭を下げるのが好きではないんです」と切り出したカツデンアーキテックの坂田清茂社長。同社は年商20億に満たない建材メーカーでありながら創造力あふれる自社ブランド製品を連発。右肩あがりの成長を続ける元気企業だ。

 主力製品は一戸建て住宅用の「階段」。実は、住宅の一部である階段だけを切り出して「商品」にしたのは同社が初めてなのだという。坂田社長の父親がオーナーだったカツデンから分社した2003年のことだった。

「入社以来、とにかく自社ブランドをつくりたいとずっと思っていました。このまま下請けを続けていてもじり貧はまぬがれない。必死に頭を下げて仕事をとってきても、取引先に何かの事情で切られてしまえば終わりですからね」

 坂田社長は大学では建築学を専攻。カツデンの建材部門に入社してからは、営業や設計・生産部門を経験しながら将来の経営者としての力をためていく。

 当時のカツデン建材事業部の主力製品は窓やベランダのアルミ製手すり。とくに窓手すりの分野では一時は業界シェア35%を誇っていたが、時代のすう勢で需要は急減し、ベランダや屋上手すりへと生産をシフトしていった。

「手すりはニッチな市場なので、大手には手が回らない。われわれはきっちり図面をひき生産体制や品質管理を完璧にすることで対応し、黙っていても売れていく体制づくりに成功しました」

 とはいえ、やはり下請けには違いがない。ビジネスの主導権を持たない分だけ、危機感は常にあった。そんな時、ある住宅メーカーから「鉄(スチール)製の階段をつくってくれないか」という相談を受ける。アルミ手すりが専門の同社に「鉄」という専門外の素材を使った製品の依頼が来たのだから坂田社長もさすがにとまどった。しかしこの依頼を「無理やり受けた」(坂田社長)ことが、同社のターニングポイントになったのである。

リビング階段が発想の原点

「最初の数カ月はクレームの嵐でした」という坂田社長。もともと階段は細かな部材を組み合わせて製作されるため、高度な技術が要求される。それを、いわば「素人」のカツデンアーキテックがやろうというのだから、困難が伴うのは当たり前。しかし、顧客の話を素直に聞きながら、失敗を繰り返さない努力を続けた結果、溶接技術などのスキルも急速に向上していき、クレームは次第に減っていく。

 してやったりの坂田社長。と同時に、なぜ門外漢の同社に依頼が来たのかという疑問が残った。

「鉄工所の仕事は溶接の仕上げが粗く、住宅用階段には向かない。そのため頼める会社がなかったんですね。そこに気付いたのが大きかった」

 坂田社長が長年望んでいた「自社ブランド製品」を持つ絶好のチャンスが訪れたのである。手がけるもののない「超ニッチ市場」。品質の高い階段をオール・イン・ワンで提供すれば、他の住宅メーカーにも十分にその存在をアピールできる……。

 まずデザインにこだわった。写真のように近未来的でおしゃれなシースルーにし、光をさえぎらない開放感を演出。『オブジェア』というブランド名で売り出した。

「以前の住宅は、玄関ホールに階段が設けられているのが一般的でした。当社がこの事業をはじめた頃もそうです。しかし、リビング階段が少しずつ台頭しはじめており、『オブジェア』の発想の原点もそこにありました。そのため、圧迫感のないシースルーデザインにしたのです」

 そもそも坂田社長はリビング階段によって人の動線が変わり、家族がリビングで顔を合わせる機会が増え、結果として家庭崩壊などの社会問題の解決にも貢献できるのではと考えている。そのような信念は、その後の商品開発にも影響を与えた。

 また、坂田社長が建築学科出身であり、ものづくりの会社でありながら、どちらかというと設計士やデザイナー側寄りの意見を尊重するスタンスを持っていることも成功要因の一つだった。現場が拒否するようなアイデアを生かそうとする意思が、ものづくり企業のトップマネジメントにあるというのは「大変珍しいこと」(坂田社長)だからである。

 そのようなデザイン重視の姿勢が、以降の屋内・屋外のスチール製らせん階段やロフト階段など多彩な品ぞろえにつながっていく。ロフト階段では、キッズ用の遊具のようにカラフルな製品がテレビに取り上げられたりもした。需要はうなぎ上りで、現在月220台を売り上げ、年商の65%を占めるまでに成長。大手住宅メーカーのほぼすべてに納入しているという。それでもまだ市場シェアは0.3%。潜在需要を開拓できれば、今後の大化けも期待できる製品である。

 長年、同社の税務顧問をつとめる大津留廣和税理士は「時代の大きな流れを読み取り、ニッチを追求する経営者としての感覚にたけておられる。そこが、製品開発の発想力に結びついているのでは」という。

社員が活躍できるフィールドを

 カツデンアーキテックの自社ブランド構築へのチャレンジは階段だけにとどまらない。2007年に発売された「サイクルスタンド」(『戦略経営者』2016年1月号P74写真参照)もそのひとつだ。

 坂田社長はいう。

「当社では毎年海外研修を行っていますが、欧米のサイクルスタンドは、日本のものと違って非常におしゃれなんです。彼らは景観を大事にしますからね。そこで、ためしに日本市場をリサーチしてみると、やはり機能性重視の製品ばかりで、デザイン性を考えたものを販売している企業はなかった。じゃあやってみようかと……」

 まったくのサラ地市場。しかも、需要があるのかどうかも定かではない。事業開始当初は苦戦したが、設計事務所やハウスメーカーなどこれまでの取引先のルートを活用しながら、アパート、マンション、公共施設へと徐々に販売を拡大していく。そして、2014年にはそのデザイン性を買われ、東京の千代田区、港区、中央区、江東区共同の「コミュニティサイクル」という自転車シェアリング事業に採用される。同年に1200台、翌年はベトナム工場から1000台を出荷。今後も数千台単位での出荷が見込まれているという。

 坂田社長は「現在の年商は約1億円くらいでしょうか。まだまだですが着実に伸びています。柱の一つに育ってほしいですね」と期待を込める。

 さて、最後に前述のサイクルスタンド1000台をつくったというベトナム工場に言及しておこう。同社の工場は埼玉・美里町に2つあり、生産体制としては十分だった。ではなぜベトナム工場を建てたのか。

 同社では4年前にベトナムから実習生の受け入れをスタートしたが、彼らが今年から帰国しはじめた。しかし、帰国しても培った技術を生かせる職場があるとは限らない。「それって、彼らにとっても当社にとっても時間や手間の損失ですよね。だったら向こうに会社をつくっておいて受け入れようと。そこが発想の原点。もちろんフィージビリティースタディーを行いましたが、まあ、そのうち市場ができるのでは、という感じです」

 それにしては投資額300万米ドルの立派な工場である。一見、無謀にも思えるが、ここが坂田社長の経営者としての特徴なのだろう。

「社長は社員が活躍できるフィールドをどうやってつくるかが仕事。だから、僕は今後も芝を整備して観客を集めることに専念します。とくに何かやりたいといった具体的目標はありません」

 この言葉に、カツデンアーキテックの成長の秘密が集約されているのかもしれない。

(取材協力・大津留税務会計事務所/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 カツデンアーキテック株式会社
設立 2003年2月
所在地 東京都台東区東上野2-14-1
売上高 16億4,000万円(2015年5月期)
社員数 115名
URL http://kdat.jp/

掲載:『戦略経営者』2016年1月号